彼岸花の伝言
俊君の視線です。後半少し悟君の視線で。
俊君は、ある晩、高熱を出し寝込んでしまいます。夢の中では死んだ父母と小さな自分が出てきました。
「俊君、なんだか顔色悪いけど、大丈夫かい?」
店長は、観察眼が鋭い。職業柄かな。確かに今日は仕事が終わって帰ってきてから、なんだか体がダルイ。鼻水とか咳もないし風邪じゃないと思うが。
結局、夕食はを半分くらい残して、早々に寝ることになった。北海道の秋は早い。そして寒暖差が大きい。今日は朝は気温が0度近くで寒くかったけれど、日中は半袖でよかった。布団の中で思いだしながら、少し寒気を感じた。冷えて来たからかな。
どうも熱が出て来たかもと、途中、目が覚めかけた。体が熱くなったのか、僕はフトンを蹴飛ばして寝てたらしい。そしてすごく寒くて目が覚めたんだ。水が飲みたい。でも起きるのが面倒。時計をみたらちょうど夜の11時だった。寝てから2時間しかたってないのに。
それからの僕は、眠りが浅かったようで、夢を見てはすぐ目を覚ましの繰り返しだった。夢では、赤い花がやけに目立つ所で、母さんと父さんと3人でいた。父さんの顔は、起きた時には忘れてたけど。父さんの写真はあまりなくて、職場の集合写真らしきものから切り抜いものが、居間に飾ってあった。母がまだ元気にしてる時だ。ピンボケしてるその写真も含め、少ない家族の写真も僕は全て処分してきた。
違う夢も見た。今度は家の近くの公園で遊んでもらってる。母さんと父さんと一緒だった。
母さんとブランコに乗り、僕は父に小さい滑り台に、何度かのせてもらった。母さんが、こんなに幸せそうに笑うの、初めてみた。いや、多分、忘れてただけなんだろうけど。
だんだん、息苦しくなってきた。体が熱いのに布団から出るとすごく寒い。それでも寝ようとしたが、ぐっすりは眠れない。ウトウトしてさっきの夢の断片が,フラッシュバックで頭の中現れては消える。父さん、母さん、苦しい。「なんとか言ってよ父さん!」と叫んで、自分の声で半分目が覚めると、そこに父さんがいた。
「父さん、父さん」僕は、ボロボロ泣きながらその膝にしがみついた。
少しして、完全に目が覚めたところで、敦神父の膝に頭をのせてるのに気が付いた。恥ずかしいけど、体がだるくて動くのも億劫。頭をのせたまま、父さんの事を考えていた。
父さんは俺が3歳の時に車の事故で死んだんだ。僕はピンボケの写真でしか顔を知らない。写真は少し敦神父さんに似てる。身辺を全て整理した後、死ぬ前に一度だけ敦神父さんに会いたいと思って北海道にやって来たんだ。
「敦神父さん、僕、両親と3人で赤い花の咲く所にいた。あと近所の公園でも遊んでもらった。
僕の人生の最高に幸せな時期は、3歳だったんだ。」
僕は熱で頭がどうにかなったに違いない。悲しくはないはずなのに、涙が止まらない。敦神父さんは、何もいわず僕の背中を撫でてくれてる。立ち上がろうとして、フラついた僕を、布団に寝かせてくれた。
「頼りない私だけど、父と思ってくれるのは、うれしいな」
店長と悟も僕の側にいた。確かに寝言にしては大声だったのだろう。起こしてしまったんだ。
「本当に頼りない父だ。ホラ俊君、熱 計って。」
店長が体温計を渡してくれた。計ってみると、38度8分という高熱。僕は健康だけが長所と思ってたけど、風邪ってこんなにツライんだ。
「俊、ポカリと解熱剤。とりあえずこれで様子見ようって、店長が。」
悟の渡してくれた薬をポカリを飲んで、少し胸がスっとした。その後、薬の効果か、やたら眠くなって朝というより、昼までグッスリ寝てた。夢も見ないで。横にあった体温計で図ると、37度5分。まだ微熱だ。それでもだいぶ頭がしっかりしてきた。そして昨夜の自分の行動を思い出し、恥ずかしくて叫びだしたくなったけど、そのかわり咳が出た。
店長が2階に上がって来た。目の下にクマが出来てた。そうか僕の発熱騒動であまり寝てないんだ。とても迷惑をかけてしまった。
「すみませんでした、店長。」
「謝る必要はないですよ。家族が病気になったら看病するの当然ですから」
「ええ、敦神父は、父親代わり。私は母親の代わりは無理だけど、まあ、年上の兄とでも思ってくれていいから、とにかく、今日は寝てる事。職場へは電話しておいたから」
ああ、僕はみっともなく泣いてしまったんだっけ。夢で見た”近所の公園”はすぐわかってけど、赤い花のたくさん咲いていた所はどこだろう?
「あの店長さん」
「あの、赤い花がたくさん咲いてる所って、どんなとこがありますか?どこかの花園なんでしょうか?」
僕は、その夢の場所を少しだけど覚えてるだけ話した。店長は、”ふむ”と考え、すぐネットで検索してくれた。そこには夢で見た赤い花が、鮮明な姿で出てた。これは僕も知ってる。彼岸花だ。
「俊君のご両親は、向こうの共同墓地に眠っている。教会では年に一度、墓参の行事があるから、その時の夢じゃないかな?赤い花は彼岸花。墓地に多く咲いている。」
「そういえば、小学生の時は、母さんとよく行ったんだ。なぜ思い出さなかったろう」
敦神父が僕の両親の事を調べたのだそうだ。ついでに、僕は、今は三条教会の所属の信者という事になってるそうだ。僕は神なんか信じてないけどね。僕は、神なんかなんの役にも立たないって、身をもって知ってる。
「俊君、熱は下がりましたか?ビタミンCがいいというので、レモンを買ってきました。あと、大根の煮物がいいというので、住田さんにお願いして作ってもらいました。」
「敦神父さん、僕は神を信じません。それでも父親代わりをしてくれるんですか?」
”当然です”と言いながら、レモン5個を絞り、果汁をコップに入れた。
「はい、レモンジュースです。そうそう、彼岸花の花言葉知ってますか?”また会う日まで”
だそうです。」
「ちょっとまて、そのままじゃ酸っぱくて飲めないぞ、ハチミツを入れて来る」
店長が、神父さんの手からコップをもぎとっていった。
よかった、レモン果汁をそのまま飲むなんて、罰ゲームかと思ったけど、単に気が付かないだけだった。敦神父。
店長のくれたハチミツレモンを飲んだ。体にいいと思うって飲むと、すぐ元気になるから不思議だ。でも滑稽だよ。俺は北海道にやってきたのは、全てをお終いにするためだったのに。
「”また会う日まで”は、”急がなくてもいい。ちゃんと待ってるから”って事なんです。あせる必要はないんです。わかりますか?」
待ってる。誰が?ああ、父さんと母さんか。どこで?なんだか頭が痛い。まだ熱があるせいか、あまり考え事が出来ないみたいだ。
「俊、もう布団に入っていたほうがいい。ほら。」
敦神父との話しは、それまでになった。仕事を終えた悟が、僕を布団へ強制連行したからだ。そして悟そのまま、参考書をよみながら枕元に居座った。
なんだか僕が北海道に来た理由、悟にも知られてる気がする。もしかして、寝言で叫んだのかもしれない。
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(悟君の視線での話しです)
大学へ進学すると決めてから、コンビニバイトをやめ、その時間を受験勉強にあてた。
ただ、その日は体調が悪かったのか、割と早めに寝たけど、すぐ花の精霊に揺り起こされた。
<悟、悟ってば、起きてよ。俊君が具合わるそうにしてる>
仕方なくおきてみると午前3時。隣に寝てる俊は、ウンウンうなってた。額は汗びっしょりだ。店長さんが静かに部屋に入って来た。精霊に起こされたんだ。最後に敦神父も来た。
結局、寝る時間があまりなかった。朝、市場は鉢物で入荷数もそれほどじゃなかったので、助かった。
敦神父が、なんか重い話しをしそうになったので、あわてて俊を逃がした。今は無理だよね。まだ微熱がある状態で、俊の思考力、0だよきっと。
神父さんがシビレをきらしたのもわかるんだけどね。本人が何も話さないのだからしょうがない。まさか、”神父と俊以外は、花の精霊が視えるんです。その精霊たちに、俊の計画を教えてもらいました”なんて、言えるわけない。僕もちょっともどかしい。
週一更新(木曜日、午前1時~2時ごろ) 基本、一話完結です。




