第20話 提案と核石
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「もう帰っちゃうの? 寂しいわねぇ」
リリエラさんの故郷の人達の病気を治し、彼女がかつて住んでいた村へと街道を通した僕は、ヘキシの町へと戻る事にした。
「いつまでもお世話になるわけにはいきませんし、なにより宿場町の件を冒険者ギルドに相談しないといけませんから」
それに変異種の討伐報告もね。
「もっと居てくれて良かったんだよ? アンタは妹だけじゃない、村の皆の恩人なんだからさ!」
そうエリシアさんは言うけど……。
「おおおおぉぉ! もう帰ってしまわれるとは! まだまだお礼がし足りないですぞ!」
ゾオン元村長さんのテンションが高すぎて居心地がちょっとね……。
「いえ、お気になさらず。それに僕は冒険者ですから、一つ所にはとどまれないんですよ」
なんて、大剣士ライガードみたいな事言っちゃいました。
「なら私も戻るわ」
と言ったのはリリエラさんだ。
「え!? でも折角故郷に戻ってきたんだし、もっとお母さんと一緒に居たほうか良いんじゃ?」
「そういう訳にもいかないわ。仲間には何も言わずに出てきたし、それに荷物も向こうの宿だもの」
そうだった、あの時は着の身着のままで出てきちゃったからなぁ。
失敗失敗。
「あと、貴方に恩返しをしないといけないから」
と、リリエラさんが頬を赤らめて言う。
疲れが溜まっているのかな?
「でもせっかくお母さんが元気になったんですから、もう少し一緒に居たらどうですか? 仲間の方達には僕の方から言っておきますよ?」
「レクスさん」
と、そこでマリエルさんが会話に入ってくる。
「レクスさんさえ良ければ、ウチの子を連れて行ってくれないかしら?」
「良いんですか?」
「ええ、この子には今までたくさん苦労させたから……だから私が元気になったこれからは、自分の為に生きてほしいのよ」
うーん、マリエルさんの言いたい事も分からないでもないか。
「それに、私も元気になったんだから、これからは娘も気楽に私に会いにこれるわ。だからそんなに気を使う必要も無いのよ」
と言ってマリエルさんがリリエラさんを見る。
「だから、たまには帰ってきなさい。もう気負う必要なんてないんだから」
「う、うん……」
申し訳なさそうにリリエラさんが頷いている。
そういえばエリシアさんがリリエラさんはマリエルさんを治す方法を見つけるまで帰ってこないって言ってたんだっけ。
という事は、この再会もかなり久しぶりなのかもしれない。
「そういうことだから、ウチの子を宜しくね」
「あ、はい」
「オッケー出たわよリリエラ」
と、マリエルさんがリリエラさんに親指を立てて告げる。
あっ、しまった。つい承諾しちゃったよ。
コレが母親パワーってヤツなのかな?
まぁヘキシの町まで連れ帰るだけだし、良いか。
「じゃあ行きますか」
「うん、……あっ」
「「「「おおぉぉぉぉっ!!」」」」
飛行魔法を使う為にリリエラさんを抱き寄せると周囲から歓声が聞こえる。
何で歓声が飛ぶんだろう?
「じゃあ皆さん、お元気で! フライトウイング!!」
「ちょっ、待、って、やっぱコレぇぇぇ!?」
「と、飛んだぁぁぁぁぁ!?」
リリエラさんの悲鳴と、村の人達の声が重なる。
「あらー、最近の冒険者さんって空を飛べるのねー」
そしてマリエルさんはいつもどおりだった。
「違うから! 普通の冒険者は飛べないからね!」
「二人とも行ってらっしゃーい。気をつけてねー」
そうして、僕達はマリエルさん達に見送られてヘキシの町へと帰るのだった。
◆
村を出た僕達は、再びヘキシの町へと戻ってきた。
既に太陽は沈みかけていて、町の皆が家路につき始めている。
「はー、やっと帰ってきたわ……」
飛行魔法で空を飛んできた僕達が地上に降りると、リリエラさんが安堵のため息を吐きながら地面に座り込む。
リリエラさんは飛行魔法が苦手なのかな?
「それじゃあ僕はギルドに報告に行きます」
「私も仲間に説明しに戻るわ、何も言わずに帰ったから、きっと心配してるわね」
「じゃあまた」
「ええ、またね」
◆
冒険者ギルドに戻ると、僕は窓口に向かいミリシャさんを呼んでもらう。
「おー、ルーキーが帰ってきたぞー!」
と、何故かギルドの酒場側に居る人達が歓声を上げる。
何かあったのかな?
「嬢ちゃんと駆け落ちしたんじゃなかったのかー?」
「嬢ちゃんはどこだ? まさかもう振られたのか?」
「って、なんでそんな話になってるんですか!?」
何それ、たった2、3日でなんでそんな話になってるの?
「なんだ違うのか? お前さんが突然嬢ちゃんをつれていなくなったから、駆け落ちでもしたんじゃないのかって噂になってたぞ」
「してませんよそんな事!」
「なんだつまらん」
もう、変な噂を立てないで欲しいよまったく。
「お待たせしましたレクスさん。ご無事でなによりです」
なんて会話をしていたら、ミリシャさんが奥からやって来た。
「すみません、遅くなりましたけど変異種を討伐したので証明用の部位を持ってきました。それと、ちょっと相談がありまして」
「相談ですか? 分かりました。では変異種の鑑定はこちらでしておきますので、応接室でお話いたしましょう」
「わかりました」
僕は魔法の袋から変異種の死体を取り出すとそれを鑑定台に置く。
ただ変異種の刃は折れた剣の代わりになりそうだから、僕の方でキープしておいた。
「すみません、自分用に小さい刃が一本欲しいので、そちらは回収させてもらえますか?」
念のため予備もキープしておこう。
「かしこまりました。」
「ではこちらに」
僕はミリシャさんにうながされ、応接室へと入っていく。
◆
「それで、レクスさんからの用件とはどのようなものでしょうか?」
さっそくミリシャさんが商売モードでこちらを見てくる。
「実はですね……」
僕は手短にリリエラさんの故郷の村の現状と、森の中の村を宿場町として再利用する案を提案する。
「そうですね……非常に魅力的な提案ではあるのですが、いくつか問題があります」
「問題ですか?」
「ええ、宿場町を作るという案は我々としても協力したいのですが、魔物、それも動物型の魔物の対策が難しいかと」
「動物型ですか?」
「ええ、トラッププラントのような動かない魔物でしたら、村に近づかないように一定のラインまで来たら討伐を行うように依頼を出す事で対処が出来ます」
「森の拡大対策と同じですね」
「ええ。こちらは村の範囲限定ですので、対策も比較的容易です。ですが、動物型の魔物となると、少数なら大丈夫でしょうが、一定以上の数の魔物が群れとなって行動した場合に対応ができなくなります。なにしろ魔獣の森はBランク以上の冒険者限定ですので、常に村を守るためにBランク冒険者に常駐して貰わないといけなくなります。ですがそれは現実的ではありませんから」
冒険者は基本根無し草。だから一つの町に常駐してくれる事はそうそうないと、ミリシャさんは言った。
確かに、物語の冒険者さん達も皆旅をしているもんねぇ。
「だったら町に結界を張ったらどうですか?」
「結界?」
「ええ、大型の結界魔法で町に魔物が入らないようにするんです」
うん、町に結界魔法を張るのは割りと普通の事だしね。
これなら森の魔物が宿場町に侵入する心配も無いんじゃないかな?
けれど、何故かミリシャさんは首を横に振った。
「さすがにそれは無理でしょう」
「え? 何でですか?」
「だって町を丸ごと包み込む結界を張るなど現実的ではありませんよ、それに魔力も持ちません」
おかしな事言うなぁ。そんなの当たり前じゃないか。
「いえ、そうではなくて、永続結界の魔法陣を使って町を守ればいいんじゃないですか? そうすればわざわざ人間が結界魔法を張る必要も無いでしょ?」
「永続結界? なんですかそれは?」
あれ? ミリシャさん永続結界を知らないの?
「永続結界というのは、一度発動すると周囲の魔力を吸収して永続的に発動し続ける魔法の事ですよ。都市部の防衛が必要な時に使われる比較的メジャーな魔法です」
「メジャーじゃないですよ! 周囲の魔力を吸収して発動し続けるって、明らかにロストマジックじゃないですか!?」
「ロストマジックって何ですか?」
「え!? 魔法使いなのにロストマジックをご存じないんですか!?」
「はい、ご存じないです」
あと魔法使いじゃなくて賢者です。
「……いいですか? ロストマジックというのは、古代文明で使われていたとされる現代では失われた強力な魔法のことです。有名なところでは、飛行魔法などがそれにあたります」
飛行魔法使えます。
「じゃあロストアイテムって言うのも?」
以前オーグさんが言っていた謎の単語、これもそうなんだろうか?
「ええ、ロストアイテムも古代文明の技術で作られたアイテムの事で……もしかして持ってたりします?」
「ノーコメントで」
答えると話が脱線する気がしたので黙っておこう。
作るの簡単なんだけどね。
「……まぁいいです。ともかく、レクスさんのおっしゃる永続結界というのは既に失われた技術なんですよ」
「そうだったんですかー」
「……もしかして、本当に使えるんですか?」
「はい、使えますよ」
「何でそんな魔法を知っているんですか!? 王立魔法研究所でも再現できませんよ絶対!?」
へぇ、王立魔法研究所なんてあるんだ。
「まぁ何で使えるかなんて良いじゃないですか。それよりも、永続結界魔法があれば魔獣の森に宿場町を作る事は出来ますか?」
「……」
ミリシャさんが難しい顔で考え込む。
まだ何か問題あるのかなぁ?
「ちなみに、その結界を作る予算はどれくらいでしょうか?」
「え? そうですね、結界を作るのに必要な素材を集めればいいので、ただ同然かと」
「具体的には?」
「魔法陣を書く為の顔料と宝石をいくつか。あと魔物の核石ですね」
「魔物の核石? もしや魔石の事ですか!?」
「それです」
魔物の核、それはある一定レベル以上の強さを持った魔物が体内で生成する石だ。
この石は強い魔力を秘めていて、様々な魔法の触媒として使える。
魔物の体から出てきたから魔石とも呼ばれている。
ちなみにこのあいだ倒したグリーンドラゴンにもちっさいだろうけど魔石が入っていたと思うよ。
仮にもドラゴンだから。
「魔石が必要なのですか……」
あれ? ミリシャさんが肩を落としてガックリしてる。
どうしたのかな?
「申し訳ありませんが、魔石を用意する事は難しいかと。あれは相当に強力な魔物でなければ生成しませんので。もう少し前でしたら、王都のオークションで素晴らしいドラゴンの核石が出品されていたのですが……いえまぁ、アレを落札できるだけの予算は我々にはありませんけどね」
ああなんだ。そんな事で悩んでいたのか。
確かにこのあたりの魔物は弱いから、核石を生成できるヤツはあんまり居ないだろうね。
「大丈夫ですよ。それなら先ほど提出した変異種の中にあると思いますから」
「へっ?」
と、そこに丁度タイミングよく受付の人が入ってくる。
「大変ですギルド長補佐! 例の変異種から魔石が出てきました!」
僕はミリシャさんに笑顔を向けてこう言った。
「ね、あったでしょ?」
「な、何故分かったんですか?」
ミリシャさんが呆然とした顔で僕に聞いてくる。
「え? 普通分かりません? あっ、コイツの強さなら核石あるなって」
「分かりませんよ普通! いつもどんな敵と戦ってるんですか!?」
えーっと、前世ならブラックドラゴンとかハザードライガーとかと戦ってたなぁ。
「で、どうでしょう。変異種の核石を使って宿場町に結界を作りませんか?」
「……上と、相談してみます」
数日後、国と冒険者ギルドの全面協力でリリエラさんの村が宿場町として生まれ変わる事が決定したのでした。
◆
私の名はミリシャ。
ヘキシの町の冒険者ギルドに勤めるギルド長補佐です。
部下に呼ばれてフロアにやって来た私は再び彼、レクスさんに会いました。
以前は私からお会いしたのですが、彼から呼ばれるとは一体何事でしょうか?
まぁ、間違いなくとんでもない出来事だとは思うのですが。
「魔獣の森に宿場町!?」
ほらとんでもない案件だった。
「ですがそれは現実的ではありませんね」
といいますか、それが出来るのならとうの昔に我々がやっていますよ。
「結界魔法ですか? さすがにそれは人員も魔力も……」
え? 永続魔法? 魔力も魔法使いも要らない? なんですかその夢のような話!?
さすがにそんな上手い話は……ほら魔石がいる。
残念ですが魔石なんて貴重な物は……ある?
「大変です! 変異種の体内から魔石が!」
本当にありました。
ロストマジックを知っていたり、変異種の体内に魔石があると知っていたり、この少年は一体何者なのでしょうか?
ただ一つ言える事は、この少年は敵に回してはいけない類の人種だという事です。
我々が長年手をこまねいていた魔獣の森の拡大阻止に多大な貢献をし、それどころか森の内部に街道を作るという偉業を成し遂げたこの少年。
下手に利用しようとして万が一にも嫌われるような事態になれば、この町を捨てて別の町に、最悪他国に逃げてしまう事でしょう。
これだけの力を持っているなら、どこに行っても大活躍でしょうからねぇ。
だったら下手な事をするよりも、上手い事この少年のやらかす出来事に乗った方が得というものです。
という訳で、この宿場町案は全力で通します。
上手くいけば次期ギルド長の椅子は確実ですよ私!
ところでこの子、彼女とか居るんでしょうか?
いえ別に変な意味は無いですよ。ただちょっと可愛いなと。
「ところで、この後用事が無いのなら、一緒に食事など……」
「レクスさーん! お話は終わりましたか? だったら一緒に夕飯を食べませんか?」
……先日の騒動で助けた女の子ですか。なる程。
出世もいいけど、そろそろ結婚を真剣に考えようかしら?
_(:3 」∠)_ 魔物が襲ってくる? 結界張ろうぜ。
_(:3 」∠)_ 人手も魔力も足りない? 永続結界にすればいいじゃない?
_(:3 」∠)_ 核石が手に入らない? ドラゴンか変異種あたりを狩れば楽勝楽勝!
ね、簡単でしょ?
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