12話 新たな旅立ちと二人の行く末
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「じゃあ雷魔法の基礎を教えるね」
「う、うん」
カースドバイパーを倒してBランクになった僕は、かねてより約束していた通り、ミナさんに雷魔法を教えていた。
「雷魔法は風属性の派生魔法なんだよ」
「え? 光属性じゃないの?」
雷は光るから良くそう勘違いされるんだよね。
「雷は嵐と共にやってくるでしょ? 嵐は風そのものだから風属性なんだよ」
「へー、知らなかったわ」
この世界のあらゆる物や現象はなんらかの属性に基づいている。
魔法の開発はその属性を見極める所から始まるんだ。
「原理を理解してから覚えるのが一番やりやすいんだけど、それを教えるにはちょっと時間が足りないから、実際に雷魔法を見て、体験して覚えて貰おうか」
魔法には原理を紐解いてからそれを再現する方法と、見て体験してその時の光景や感覚を再現する方法の2種類がある。
後者は回復魔法を受けた時の感覚を思い出して身体強化魔法を発動したジャイロ君のやり方だね。
「雷を体験するってちょっと怖いわね」
「ちゃんと弱めるから大丈夫だよ」
そういって僕はミナさんの前で弱めの雷魔法を発動する。
「スパークスフィア!」
小さな雷の玉がミナさんの前に現れる。
「……また呪文を詠唱しないで魔法を発動した」
ジトーッとした目でミナさんが僕を見てくる。
「原理を学べばミナさんも簡単に無詠唱魔法を使える様になるよ」
「ホントかしら……」
いやいや、本当に無詠唱魔法自体は簡単なんだよ。
「ほら、身体強化魔法をつかってるじゃない。アレだって無詠唱魔法だよ」
「そういえばそうだったわね」
ふぅ、納得してくれたみたいだ。
「じゃあ威力を弱くするから、触ってみて」
「う、うん」
ミナさんが雷の球にそーっと指を近づける。
「うひゃっ!」
指先にバチッとした感覚を受けてミナさんが悲鳴をあげる。
「なんかバチッって来たー!」
「これが雷を受けた感覚だよ。もっと凄いのを受けると体に悪いから、まずはこの規模から練習していこうか」
「う、うん分かった」
雷を体感させた後は魔術理論を教えて呪文詠唱の練習をさせる。
詠唱を教えるなら体感させる必要ないじゃないかと思うだろうけど、体感するかしないかだと魔法の威力や精度が変わるんだよね。
前々世でもそうした理由から学ぶ魔法は一度自分で体験すべしって学派が少なくなかった。
あんまり強力な魔法だと死んじゃうから出来なかったけどね。
もっとも、防御魔法を何重にもかけてあえて受ける剛の人は何人かいたけど。
「ねぇ、これが終わったら行っちゃうの?」
「うん」
ミナさんが言っているのは、僕が危険領域に行く気でいる事を言っているんだろう。
「そっか、寂しくなるわね」
「まだ一ヶ月も経ってないんだけどね」
「一ヶ月も経たずにBランクに駆け上がるって、良く考えると異常よね」
「そうなの? あんまり実感がないんだけど」
「そりゃそうよ! 低ランクで燻ってる冒険者がどれだけ居ると思ってるのよ! Cランクまで行ければ上等、Bランクだって普通に考えれば結構なエリートなんだから」
へー、そうだったんだ。
「いい? Bランクは上から数えて三つ目のランクなのよ! それって凄いことなのよ!」
「あー、そう考えると結構凄いのかな?」
「自覚がなさそうな顔ねえ」
呆れられてしまった。
「まぁ私達はしばらくここでランク上げをしてるでしょうから、寂しくなったらいつでも戻ってくると良いわ」
「うん、そうするよ」
「……まぁ、個人的には魔法を教えてくれる人が居なくなるのは残念だけどね」
そうか、今だってミナさんは僕から雷魔法を教わっているわけだし、師匠になる人が欲しいのも仕方が無いか。
この町の魔法使いは基礎しか弟子に教えないから厳しそうだしなぁ。
「だったら僕の村に行ってみたら?」
「え? レクスの村に?」
「うん、あそこには僕が書いた魔法の教科書があるから」
「レクスが書いた魔法の教科書!? 何それ超見たい!」
いや、そんなたいした物じゃないよ。
「村の子供達に魔法を教える為に作ったんだ。ミナさんの参考になるかも」
「村の子供に教えたって……しかもその為に紙を使ったの!?」
あれー? なんだか変な所で驚かれてる気がするぞー?
「そうね、いろんな意味で気になるわ、貴方の村」
いろんなって部分が良く分からないけど、役に立てるかもしれないなら嬉しいな。
「僕の村は西に山を二つ越えた先にある村だよ」
「西に山を二つ越えた先の村ね。分かったわ」
「まぁ子供向けの魔法しか書いてないから、そんなに危ない魔法はないんだけどね」
「それは嘘ね」
速攻で否定されたけど、本当だからね!
◆
それから数日、旅の準備を整えた僕はこの町から一番近いBランクの危険領域へと向かうことにした。
町の入り口ではギルドで知り合った冒険者さん達が見送りに来てくれていた。
勿論その中には同年代で一番仲良くなったジャイロ君達もいるし、受付嬢のエルマさんも来てくれた。
「うぉーん! 寂しいぜ兄貴ぃー!」
そんな中、僕が旅立つと知ったジャイロ君が子供みたいに大泣きしていた。
いやー、こんな泣き方する人本当にいるんだなぁ。
「まったく、子供じゃないんだから恥ずかしい真似するんじゃないわよ」
「ばっかお前ぇ! 兄貴が行っちまうんだぞ! そうだ! 俺達も兄貴に付いて行こうぜ!」
グッドアイデアとジャイロ君が立ち上がるけど、それは無理だよ。
「馬鹿ねぇ、私達はFランクなんだから、Bランクしか入れない危険領域に入れる訳ないでしょ」
そう、ジャイロ君にどれだけやる気があっても、冒険者ギルドの規則を破る訳にはいかない。
「けどよぉー」
「我がまま言うんじゃないわよ!」
ジャイロ君とミナさんって、なんだか親子か姉弟みたいだなぁ。
「だったら、ジャイロ君も冒険者ランクをあげれば良いんだよ」
「いや、さすがにそれは難しいでしょう。僕らはFランクですから、Bランクのレクスさんに追いつくのは並大抵の事ではありませんよ」
ノルブさんはそういうけど、僕はそうは思わない。
「大丈夫だよ、皆には身体強化魔法を教えたし、剣や魔法の修行と一緒にこっちも鍛えればすぐに強くなるさ」
僕は前世の記憶にあるかつて出会った人達を思い出す。
強くなる人達は皆、才能だけじゃなく、努力を惜しまぬ信念があった。
凄まじい力と技術で、ドラゴンを碌に傷つけずに討伐する謎の竜殺しを目指すジャイロくんなら、強い意志を持って強さの階段を駆け上がってくれると僕は信じている。
「で、出来るかな兄貴?」
ジャイロ君が自信なさげに僕に聞いてくる。
大丈夫だよ。
「きっとジャイロくんなら出来るよ!」
僕の言葉に、ジャイロ君の目つきが変わる。
「分かったぜアニキ! 直ぐに俺もアニキに追いつく! だから待っててくれよな!」
「うん、期待して待ってるよ」
「おう!」
「どうせアンタがBランクになってる頃には、レクスはSランクになってるわよ」
いやいやいや、さすがにSランクは無理でしょ。
「……確かに、アニキならありうる」
「多分なってる」
「私もそう思います」
あれれー? 皆僕の事過大評価しすぎじゃない?
ふぅ、まぁ良いか。
ジャイロ君も泣き止んだしね。
「それじゃあ皆、元気でね」
「レクスさんもお元気で。オーグさんは領主様に呼ばれてここには来ていませんが、言伝をお預かっています。『俺は見送りにいってやれないが、お前も頑張れよ』だそうです」
エルマさんがオーグさんからの言伝を伝えてくれた。
オーグさんも義理堅い人だなぁ。
「それとギルド長も見送りに来たいと言っていましたが、仕事が山ほどあるので置いて来ました」
ははっ、ギルド長もエルマさんには形無しだね。
「すぐに追いつくからな兄貴!」
「元気でね」
「お土産期待してる」
「メグリさん! ああ本気にしなくて良いですよ? お体にお気をつけて」
「頑張れよ!」
「向こうでも周りの連中を驚かせてやれ!」
「達者でなー!」
皆が僕に声をかけてくれる。
ほんの短い間だったのに、まるで自分の故郷の様に居心地のいい場所になったなぁ。
でも僕は冒険者だ。
冒険者は風の様に立ち去るのが宿命!
「じゃあ、いってきます! フライトウイング!」
僕は飛行魔法で体を宙に押し上げると、皆に手を振ってから危険領域へと向けて飛んで行く。
「「「「「って、飛んだぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」
ん? 何だか下で飛んだ事を驚かれた様な気が?
でも飛行魔法くらい普通だよね?
あっ、でも街中で飛んでる人いなかったなぁ。
しまった、もしかして街中で飛行魔法はマナー違反だったかな?
反省反省、次の町では気を付けよう。
◆
まさか最後の最後でやらかしてくれるとは思わなかったわ。
「飛行魔法なんてどんだけとんでもない魔法を使えるのよ」
「うん、びっくりした。ミナも驚いていたけど空飛ぶ魔法って難しいの?」
同じように驚いていたメグリがそんな質問をしてきた。
うん、魔法が使えない人だと、驚きはしてもそのとんでもなさは分からないわよね。
「空飛ぶ魔法は昔から研究されてきたけど、未だに自由に空を飛ぶ事を出来た人間は居ないわ。噂では国や軍に所属している魔法使いが研究を続けているみたいだけど、現状では空を飛ぶ魔物を調教した方が早いって言われてるわね」
「やっぱりレクスさんはとんでもないって事ですね」
当たり前だけど口にせずにはいられなかったのだろう。
ノルブが苦笑いしている。
「よーっし、それじゃあさっそく修行だ! めちゃくちゃ修行して兄貴に追いついて、兄貴と一緒に冒険するんだおるぁぁぁぁ!!」
興奮した馬鹿が叫んでるけど、そんな事より私はやりたい事があった。
「ねぇ、修行も良いけど、レクスの事もっと知りたくない?」
「何!? 兄貴の事を!?」
普段人の話を聞かないくせに、この馬鹿はホントレクスの事になると耳が良くなるわね。
「何か知ってるの?」
ジャイロとメグリも興味があるらしく、私の話に乗っかってくる。
「この間、レクスの故郷のある場所を聞いたのよ。皆も興味ない?」
「「「ある」」」
「じゃあ決まりね。次の冒険はレクスの故郷を見に行くわ」
「うぉぉぉぉ! 兄貴の故郷! 一体どんなすげぇ場所なんだ!?」
「きっととんでもない所」
「彼が生まれた場所という事は、その強さの源に迫れるかもしれませんね」
「それじゃあさっそく準備をするわよ! そしてレクスの故郷であいつの強さの秘密を探るわよ!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
あれ? 今声が多かったような気が?
「はいはい、ギルド長は帰って仕事をしましょうねー」
「俺もアイツの秘密が気になるんだよぉー!」
ギルド長、いつの間に……
「お前等ー! なんかわかったら俺にも教えろよー!」
「はーい、なんでも良いから仕事してくださいね」
エルマさん、強いなぁ。
◆
「よく来てくれたオーグ君。まぁ気楽に食事を楽しんでくれたまぇ」
極一部の身内しか参加できないグリモア子爵家の夕食に、平民でありながらオーグ殿は呼ばれていた。
ここに居るのは屋敷の主であるグリモア子爵様と、そのご息女であるセリアお嬢様。
そしてグリモア子爵様に雇われた冒険者であるオーグ殿。
残りは執事である私ジョンだけだ。
今回の会食は秘密の会議の意味もあって、メイド達は部屋に近づく事すら許されず、彼女達の仕事は全て私が担当していた。
飲み物の減り具合をみて新たにワインを注ぎ、口元が汚れていたらナフキンで口元を拭う。
非常に気を使う仕事だ。
「いやー、相変わらず凄い食事ですねぇ」
オーグ殿は緊張ながら食事に手を付けるが、口にした途端その美味さに顔がほころび、次々と食事を口に運ぶ。
そのマナーはお世辞にも良いとは言えないが、ここでそれを注意する者はいない。
グリモア子爵様も、セリアお嬢様も人に言えなかった悩みが解決した事で上機嫌だからだ。
「そういえばオーグ殿、またしてもイーヴィルボアを討伐したそうだな」
「また? ……ああ、確かにイーヴィルボアならこないだ倒しましたよ」
「しかも聞いた所では単独で討伐したとか? あの巨体を単独とは見事な腕前だな」
「いやいや、相手が小柄だったお陰ですよ。もっと大型だったら危なかったですね」
グリモア子爵様の賞賛に、オーグ殿は謙遜して見せる。
「それでもBランクの魔物をお一人で討伐されるなんて、さすがはAランクの冒険者様ですわ!」
セリアお嬢様がオーグ殿のグラスにワインを注ぐ。
これは私の怠慢ではなく、お嬢様の意向を汲んであえて注がなかったのだ。
私は有能なので。
「まったくだ。謙虚にして有能! 私は良き冒険者と縁を結べたらしい!」
珍しくグリモア子爵様の酒の進みが早い。
悪酔いしない様につまみを多めに出しておくか。
「それにしても、ドラゴンやイーヴィルボアのオークション報酬は相当な額になったが、これだけあればもはや冒険者を続ける必要はないのではないかな? いっそこれからは騎士に転職などしてはどうだ?」
グリモア子爵様が本題に入った様だな。
彼はドラゴンを倒す程の逸材、であればこのまま冒険者を続けていけば、いずれ多くの貴族が彼がドラゴンを倒した冒険者だと気付いて手元に置こうとするだろう。
だが彼はこのグリモア子爵領で活動する冒険者。
しかもドラゴンを倒す程の逸材を逃す手は無い。
ここで騎士として召し抱えて他の貴族へのけん制もしたい所なのだろう。
場合によっては、貴族の令嬢との結婚も餌にするかもしれない。
そうなった場合はセリアお嬢様が悲しむだろうから、何か良い手を考えておかないといけないな。
まぁそれを考えるのは私の仕事なのだが。
うむ、そこは胃が痛いな。
しかし、ここでオーグ殿が予想もしてない言葉を口にした。
「え? ドラゴン? 何の事ですか?」
「何?」
オーグ殿の言葉にグリモア子爵様が怪訝な顔をする。
「いや貴公が倒して王都のオークションに出品したドラゴンとイーヴィルボアの事だ。王都でも話題になっているぞ?」
「ええ、そのおかげで私も素晴らしい竜核を手に入れる事ができましたわ」
しかし二人の言葉とは裏腹に、オーグ殿はますます訳が分からないと首を傾げる。
……まさか、いやそんなまさか。
「ドラゴンもイーヴィルボアもこの町の冒険者が倒したと聞いている。それは貴公が倒したのであろう? 貴公が目立ちたくないのは知っているが、ここで誤魔化す必要はないぞ」
そうだ、グリモア子爵様の言う通りだ。
とぼけなくて良いんですよ? とぼけていませんよね?
「いや、ドラゴンを倒したのは他の奴ですけど」
……。
「し、しかしイーヴィルボアを討伐したのであろう?」
「ええ、先日初めて討伐しました」
「初めて? 5頭目では無いのか?」
「いいえ、初めて……ですけど?」
……あ、ああ。
「ちらり」
「ちらり」
「ちらり」
三つの視線が私を見つめる。
「……」
「ジョン、どういう事だ?」
あ、あ、グリモア子爵様の目が怖い。
「……」
「ジョン、説明をしなさい」
セリアお嬢様が顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけて来る。
「ええと、どういう事なんですかね?」
私が聞きたいわぁぁぁぁぁぁ!!
「「「ジョン」」さん」
汗が止まらない。
これが滝のような汗という奴だろうか?
だがしかし、これ以上無言を貫く事は出来そうもなかった。
だから私は、意を決して口を開いた。
「は、ははは、オーグ殿はイーヴィルボアを倒せる実力者だったのは事実なのですし、旦那様も素晴らしい部下を手に入れる事が出来てよかったですなぁ。はははははっ」
「「ジョォォォォォンッッ!!」」
◆
物凄く叱られた。
凄く叱られた。
でも一応イーヴィルボアを討伐出来るAランク冒険者をスカウト出来たのでなんとか許して貰えた。
ありがとうオーグ殿。
本当にありがとう。
そして私は再び冒険者ギルドへとやって来た。
改めてドラゴンを討伐した冒険者をスカウトする為だ。
「ドラゴンを討伐した冒険者は居るかね?」
いつもの受付嬢に竜殺しは居るかを問う。
今度は間違えない様に受付嬢に直接紹介してもらうぞ。
すると受付嬢はなんとも言いにくそうな顔で私を見る。
「えーと、大変申し訳ありませんが、お探しの冒険者さんは危険領域の探索に出たので、暫く戻ってこないと思いますよ」
……終わった。
これにて第一章完結です。
次からは第二章『危険領域編』となります。
( ゜ω゜)あと余談ですが、有能さんはめっちゃ叱られましたが今も領主様の下で働いています。
デスクワークは有能なので。
(;゜ω゜)一芸に秀でていて良かったね!
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