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左遷の錬金術師の解決薬  作者: 氷純
第二章 雪町キノル

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エピローグ

 キノル冒険者ギルドの研究室でセラは途方に暮れていた。

 イルルが紅茶を淹れて、セラのそばにティーポットを置く。


「難航してるねぇ」

「正直、お手上げです」


 白化を起こす原因物質の特定は手詰まりの状態だった。

 元々、美白美容液としての効果があるかどうかを検査した時に様々な実験を行っている。


「原液にあたる白化スライムの体液を調べても原因物質がわかりません。ここの設備ではこれ以上の検査も難しいです」


 国立錬金術師ギルド本部にあるような大規模な検査機器が欲しい。サンプルを送ってあるが、左遷された身の上のセラの頼みごとを聞いてくれるとも思えない。


「魔光吸光分析装置とか、テラーの析出薬とか――もういっそ、国立錬金術師ギルド本部を乗っ取って使うしか」

「テロだよ、それ」


 セラも本気で言っているわけではない。

 この件はもう、民間レベルの検査では進展がないという話だ。

 冒険者ギルドは国と仲が悪く、口利きも逆効果だろう。

 八方塞がりを再認識して、セラはダ・クマに私的にもらった風笛草の葉を口に運ぶ。


「やっぱり疲れた時には甘いモノですね」

「言うほど甘くないはずだよ? 薬草にしてはそんなに苦みはないけどさ」


 そもそも、いまだに品薄が続く風笛草は高級品で、おやつ代わりに生でパクパクするようなものではない。

 どうにかしてテラーの析出薬だけでも買えないかと考えていると、部屋にハーニアがやってきた。


「王立騎士団からオースタという方が訪ねてきています」

「オースタさん?」


 キノルに来てから音沙汰がなかったが、風笛草の件はすでに報告書を国立錬金術師ギルド本部に上げている。いまさら訪ねてくる理由はないだろう。

 あるとすれば、別の左遷先でも決まったか。だとしても、命令書が届くだけの話で騎士のオースタが直接訪ねてくる理由にはならない。

 不思議に思いつつ席を立つ。


「ギルドホールでしょうか?」

「いえ、ギルド長室です」


 仲が悪いとはいえ騎士をギルドホールに立たせておくわけにはいかなかったらしい。ギルド長室なら無礼にはならないという判断だろう。

 入り組んだギルド会館をハーニアの後について歩く。


「ギルド長、セラさんと助手のイルルさんをお連れしました」

「入ってくれ」


 何やら疲れたようなマルドクの声が入室を促す。

 ギルド長室に入るとオースタが立ち上がってセラに一礼した。


「セラさん、お久しぶりです」


 頭を上げたオースタはすかさず一枚の封書をセラに差し出した。


「国からの命令書です。すぐに王都に戻ってください」

「次の左遷先は王都ですか」

「セラ、普通に栄転だと思うよ?」


 イルルに指摘されて、セラは気付く。


「言われてみれば確かに……」

「異動命令イコール左遷だと思っちゃってるね」


 その場の全員から憐みの視線を向けられつつ、セラは封書を開く。


「……いまさら戻って来いというから何かと思えば、そういうことですか」


 封書にはセラの直接の上司で開発部長カマナックの署名入りで王国全土で起きている異常事態について書かれていた。


 一か月ほど前から、濡れたものを白く脱色する原因不明の雨、白化雨があちこちで降っているという。

 国立錬金術師ギルド本部はもちろん、国の研究機関が総出で原因特定や白化した魔物の研究などを行っているがサンプルも人手も足りない。

 白化雨はどこで降るかの予測もできないため、研究用のサンプルとして採取できることも稀。


 そんな中、原因が同じと思われる美白美容液の分析をセラが頼んだ。貴重な研究サンプルが届けられ、国立錬金術師ギルド本部は大助かりだった。

 しかし、それでも原因は不明なまま。人や農作物、家畜にも白化雨の影響が出始めた地域があり、その治療や対策も必要になってきた。


 もはや一刻の猶予もなく、冒険者ギルドの反乱疑惑も相次いで立ち消えた今、カマナックが上層部を突き上げてセラを呼び戻すよう掛け合ったらしい。

 カマナックにしては珍しい走り書きのような雑な文字が、現場の混乱を現している。

 封書を読み終えたセラはマルドクに目を向ける。


「急で申し訳ありませんが、王都に戻ります」

「まぁ、冒険者ギルドとしては引き留める権限がないが……」


 マルドクはオースタをちらりと見る。


「オースタ殿に言っても仕方がないと承知の上で釘を刺しておこうか。キノル冒険者ギルドとして、セラさんには感謝している。彼女のおかげで品薄になっていた風笛草の仕入れに希望が持てた。ヤニク冒険者ギルド長からも要人として扱われる人物だ」


 あくまでも騎士でメッセンジャーであるオースタに、セラの待遇で文句を言っても仕方がない。

 マルドクはオースタを通じて国に意見しているのだ。

 オースタも理解して、マルドクの言葉を真摯に聞いている。


「キノル冒険者ギルドはセラさん個人を評価している。肩書きがなくとも、彼女を組織に迎え入れる用意がある。あまり不当に扱わないことだ」


 いつでも国立錬金術師ギルド本部から引き抜いてもいいんだぞ、と半ば脅しを口にするマルドクに、オースタは胸に手を当てて一礼した。


「国立錬金術師ギルド本部に伝えておきましょう」


 マルドクが執務机の上から二通の手紙を取ってセラとイルルに渡す。


「王都の冒険者ギルド宛の手紙だ。セラさんに便宜を図るように書いてある」


 ヤニクでもらった要人警護の依頼書と同じようなものだ。だが、回りくどい依頼書ではなく直接の手紙になっていた。

 暗示ではなく、本腰を入れて後ろ盾になってくれるらしい。

 セラが手紙を受け取って礼を言うと、マルドクはイルルの方に目を向ける。


「イルルさんも一度王都の冒険者ギルドに行ってほしい。美白美容液の件を含め、ヤニクとキノルの騒動の両方に冒険者ギルドの職員として立ち会った君の証言が欲しい。その、ヤニクからキノル、さらに王都と忙しく出向させてすまないが……」


 マルドクは言葉を濁す。オースタにセラの左遷の件で文句を言った手前、連続で出向をイルルに命じるのは気が咎めるのだろう。

 セラはイルルに笑いかける。


「左遷仲間ですね」

「せめて転勤族くらいにしようよぉ」


 イルルは肩を落としながらもマルドクから手紙を受け取った。

 マルドクがイルルに続ける。


「護衛にアウリオをつけておく。オースタ殿はあくまでもセラさんを呼びに来たから、イルルさんの護衛までは手が回らないだろうからね」

「つまり、アウリオさんも転勤族ですね」

「いや、冒険者なんだから転勤も何もないだろう」


 セラの軽口にマルドクが苦笑した。


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― 新着の感想 ―
雨まで降ってるってことは、外国とかのどっかの組織が王国瓦解を企んでいた! ってことはなさそうね サンプルとしてスライムも捕獲していきたい
一回目は押し付けられたって意味の左遷の気が強かったけど、二回目は特任調査官とかそういう役職名ちゃんと付けたれよとは思った。 警戒される可能性はあるが、左遷にしか見えないのよりはマシじゃないかな。 一回…
うっわ、全土に渡る大騒動かぁ
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