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左遷の錬金術師の解決薬  作者: 氷純
第二章 雪町キノル

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第十七話 調査行

 朝、村の男衆から山の悪主について聞いてくれたタ・ナーレが宿泊所に訪ねてきた。


「起きてるー? ボグス族伝統木の実パンを持ってきたよー。甘香ばしいよー」

「本当にいい匂いですね」


 網籠に厚みのある円盤状のパンが数枚入っている。表面に掛けられている赤と茶色の粒々は木の実を砕いたものだろう。

 タ・ナーレはセラの横から宿泊所を覗き込み、さび猫イルルを見つける。


「猫も食べられるよ。うちの集落の猫も食べてる。慣れないモノを警戒して食べない子なら、持って帰るからここに置いといてね」


 玄関横に木の椅子を置いて、タ・ナーレは指さす。

 セラの鞄の横で丸くなっていたさび猫イルルが顔を上げた。本物の猫のような仕草でタ・ナーレをじっと見つめる。

 タ・ナーレは撫でたそうにちらちらさび猫イルルに視線を向けつつ、セラに山の悪主について話してくれた。


「村の男衆の話だと、この冬はまだ見てないって。例年なら見かけるころだけどね。それと、去年は冬の半ばから見かけなくなったみたい。名のある冒険者が無断で山に入ってるんじゃないかって」


 山の悪主は腕の立つ人間に挑みかかる性格だという。ボグス族が見かけないのなら、凄腕の冒険者がボグス族の縄張りに侵入した可能性を考えるのも当然だろう。

 ただ、雪に含有する魔力量が減っていることを合わせて考えると、去年の終わりころにはすでに影響が出始めていたとも考えられる。


「雪に含有する魔力が足りず、山の悪主が身体を思うように構築できなかった可能性があります。少し考えにくいですけれど」

「考えにくいの? ならなんで調べてるの?」


 タ・ナーレが不思議そうに首を傾げる。

 セラは専門的な部分は省いて説明した。


「山の悪主が身体を構築できなかったと仮定した時、雪に含有する魔力が足りなかったという考察が今の私たちが得ている情報からの推測です。ですが、もう一つ、体の構築を阻害するような何かが雪に混入していた可能性も考えられます」


 後者の場合、その混入物が雪に含有する魔力を消費したかもしれない。


「いずれにしても、魔力含有量の低下による影響が出ているとみて、水源地の調査をしましょう」


 セラは網籠から木の実パンを取って、いくらかちぎってさび猫イルルに渡す。器用に前足で木の実パンを取ったさび猫イルルはタ・ナーレに背を向けて食べ始めた。

 セラもパンをかじりつつ、机の上に並べた機材から必要なものを鞄に詰めていく。

 タ・ナーレがセラが手に取る機材を熱心に見ながら声をかけた。


「水源地の調査の前にポーションを作ってほしいんだけど、先にお願いしていい?」

「昨晩のうちに調合しておきました」

「もしかして、寝てない?」

「ちゃんと寝ましたよ。寝不足で登山は自殺行為ですから」


 実体魔力のポーションを作って高速作業をしただけだ。それに、調合したポーションの分量も規定に満たない。

 タ・ナーレもポーションが足りないことに気付いたようだ。しかし、疑問を口にする前にセラから答えを教える。


「溶媒……えっと、素材を溶かすための水に含まれる魔力が少ないので、今までのレシピ通りに作っても効果が出ない場合があります」


 ポーションは服用者の体内魔力を使用して効果を発揮する。体内魔力が足りない場合、効果が出なかったり副作用が発生する。

 今回のポーションに副作用はないが、効果が発揮されない可能性はある。


「まず、子供には与えないでください。効果がないと思うので。それから、狩りに出るなどで身体強化を使った方も服用しない方がいいでしょう」

「結構、飲めない人がいるってこと?」


 不安そうな顔をするタ・ナーレに、セラは頷く。だが、不安に思う必要はない。


「子供たちや身体強化を日常使いする方は私が集落に戻り次第、個別に見ましょう。体内魔力を調べて適した調合をしたポーションをお渡しします」


 タ・ナーレの表情が明るくなる。同時に、さび猫イルルがピクリと反応した。

 セラはさび猫イルルをちらりと見つつ、補足する。


「キノルを出た時にはこの事態を想定していたんですよ。レシピは少しマイナーなだけで一般的なものです。副作用などの心配もありません」


 セラの補足を聞いてさび猫イルルが納得したように食事を再開した。

 セラはタ・ナーレにポーションを渡し、さりげなく同行を拒否する。


「タ・ナーレさんはポーションを配りつつ注意喚起をお願いします。それと、飲めない方の人数を調べておいてください。水源地の調査は冒険者の方と一緒に行きますので」

「わかった。任せておいて」


 説明を聞いたのがタ・ナーレ一人なのもあって、彼女は責任を持ってポーションを受け取ってくれた。

 セラは冒険者に同行を頼むとは言ったが、ボグス族出身の冒険者とは言っていない。

 タ・ナーレを送り出し、セラはさび猫イルルを振り返った。


「行きますよ」

「にゃー」


 木の実パンをきれいに食べ終えたさび猫イルルがセラの体をよじ登って胸元に入り込む。すっかり定位置だ。


「アウリオさんと合流して、水源地に急ぎましょう」


 もちろん、もう一つの目的地、風笛草の生息地にも。


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― 新着の感想 ―
一般的レシピだから副作用(ゲロマズ)の心配もない
少し調合をいじるって聞いただけで、ビビる猫w
お、追い付いちゃった、、、 今まで氷純さんの作品は完結済みものしか読んでこなかったので新たな体験ですね つらたん、、、 そういえば氷純先生は全部書き上げてから投稿されているんでしょうか?それとも7割く…
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