技術協力関係の締結
翌日、グラリッジズにて特別室を用意してもらい、そこで準男爵と会談する。
私もかわいらしく着飾ってもらい、兄は略式正装で席に座っている。
同席する外務次官がホワイト準男爵の到着を告げた。
「ダンマーク王国の未来の太陽と可憐なる黒薔薇にお会いでき光栄でございます」
準男爵が挨拶をしてくださった。
私が黒薔薇に例えられたのは美しいブルネットの髪のせいね。
「妹の無理な呼び出しに答えてくれ感謝する」
「ホワイト準男爵。来てくださりありがとうございます」
「なに、空を飛ぶというロマンが目の前にあれば飛びつきますとも!」
準男爵が席に着き、外務次官が資料を配ってくれる。
私が書いた今後の飛行機の展望とそれに付随する産業についての資料だ。
「こちらが、我が国が飛行機という物に注力する理由となります。
そして、技術協力にご了解いただければ特許情報の一部について格安でライセンスをご提供致します」
資料をじっと眺めた準男爵は早速といった感じで話し始める。
「公開特許であるグライダーの資料は読ませてもらいました。
手紙にも書いた通り非常に魅力的な提案だと思っておりますよ。
すでに、私はブリスリントンに工場の建設を計画しておりまして、ブリストル飛行機となる予定です」
「もう投資をされたのですね。私が言うのは何ですが気が早いのでは?」
まだ動力飛行が成功していないのに随分気の早いことだと思う。
「テューラ姫からの手紙で、近い将来エンジンを使った飛行機が空を飛ぶことは明白です。
すでに飛行船で実証されているのですから、翼で飛ぶことができる機械が出てきたならば、まず間違いなくプロペラがついて自由に空を飛べるようになるはずです。
それに姫が必要としているのはよりパワーのあるエンジンなのでしょう?
飛行機そのものに関する特許をダンマーク王国がお持ちなのを考えれば、我々はエンジン技術に関してご協力できると考えていますよ」
随分話が早いがそれだけ準男爵には魅力的な提案だったのだろう。
「ありがとうございます。
できればガソリンエンジンの大出力化をお願いしたいのです」
「ガソリンエンジンですか?ガスエンジンではなく…たしかドイツで自動車に乗せたと情報がありますが」
「はい、ダンマーク王国としてベンツ社より購入いたしましたが、蒸気機関やガスエンジンに比べて軽くパワーがあります。ガソリンエンジンは絶対に必要な技術です。
なにより燃料が安いですから。
灯油生成時に捨てていたものを使うわけですからね。
これによってより実用的な自動車ができその技術を応用することで航空機用のエンジンは形作られるわけです」
流石にここまで専門的になってくると私一人の知識ではない。
レーナ、資料有難う。
それに、ブリストルが作るであろうセントーラスは結局のところガソリンで動く。
より大馬力で軽いエンジンが欲しいが今の自動車のエンジンをそのまま載せても大した性能にならないとレーナから聞いている。
であれば技術力のあるイギリスと協力するに越したことはない。
そもそも、このホワイト準男爵に話を持っていったのはレーナからの提案なのよね。
「なるほど、ではさっそくガソリンエンジンの研究を始めます。ご期待に沿えるよう努力いたしましょう」
「では、契約成立ということでよろしいですか?詳細の文面については此方の外務次官が請け負います」
「わかりました。技術協力としてぜひ契約いたしましょう」
さて、私の仕事はここまで。
細かな契約書の文言なんかは私では無理なので文官に丸投げするしかない。
とくにイギリスはやり方が陰湿なのは世界的に有名ですからね。
でもこれで、ブリストルとの技術協力が結べた。
直ぐにとはいかないまでもエンジン開発をダンマークの独力で行う必要がなくなる。
ブリストルからのライセンス生産という形で自国で生産できるだけで十分。
飛行機の設計開発は当然、複合的な技術が必要になります。
エンジン、降着機や操縦系の油圧、計器類や電装品、それらすべてを自国で賄えるような国力はダンマークには残念ながらない。
関連する研究を国有で実施したところで人材が足りず他国に先を越されることは明白だからです。
であれば機体開発のみに特化し、他の技術は機体開発に伴う特許と引き換えに外国から入手しライセンス生産する。
それがダンマークの戦略。
そのための第一歩がブリストルとの技術協力体制なわけです。
レーナ曰く、将来ヨーロッパ各国が協力して1つの飛行機を作るようになるとのことですから、それを先取りするわけです。
とはいえ、あまりドイツ帝国から物を購入するのはリスクが伴います…
ロシアも同じです。
そのあたりの外交的感覚をよりつけねばなりませんね。




