ちょっとイギリス行ってくる
私は今、今年就役したばかりの巡洋艦ヴァルキリエンに乗り、クリスお兄様と共にイギリスへ向かっている。
表向きの目的は叔母であるイギリス王太子妃アレクサンドラ様へのご挨拶。
裏の目的は後に重要なエンジンを開発する会社を興すホワイト準男爵に飛行機に関する共同開発の提案。
ホワイト準男爵はブリストルに航空機会社を立ち上げ、後に大馬力空冷エンジンを作り出すとのこと。
すでに準男爵からは良い返事をもらえている。
王族でありながら長時間のグライダー飛行を実現したことから私が有名なのもあるが、目的が”動力を備えた自由に空を飛びまわれる飛行機の開発の協力”だったため非常に乗り気だったりする。
さらに叔母様のおかげでもあるのだけれど、飛行船に比べて自由に飛び回ることが可能となるという話からイギリス政府側も興味を示しているのが大きく働いている。
特許取得の時点で、すでに交渉を持ちかけられているのだから当然ともいえるだろう。
申し訳ないが特許権については未だ国を相手に売るつもりはない。
これらはあくまでダンマーク王国の独立・中立を維持するためのカードなのだ。
カードをうまく切ってもらうのはあくまで外務大臣や現場の外交官である。
私が現地でどうこう言うつもりはない。
今回の交渉だけは別なのだけれど…
今回の役目は”空飛ぶお姫様”としての宣伝と技術交渉でしかない。
「まさか私まで駆り出されるとは思わなかったぞテューラ」
「仕方がないではないですか、私はまだ7歳。お父様と向かうのでは大事になりますけれど、お兄様となら叔母に会いに行きたくて我儘を言った姫という体が成り立つのですから」
「妹の盾役とはな…」
「お兄様もすでに18歳なのですからこの機会に婚約者でも見つけてくださいませ」
「しかもまだ8歳の妹に結婚まで心配されるとは」
実際、クリスお兄様は後10年は結婚しないのだけれども、その時奥さん…のちの王妃となるのはドイツ帝国のシュベリーン大公の娘さんと結婚する。
アレクサントリーネ様はとても線が細くきれいな方だったけれど、第二次大戦期には生まれがドイツ帝国だったことから一時期は風当たりが強かった。
だけど、母国ドイツに反旗を翻したおかげで国民の人気は高かったのよね。
あの方とは私も仲良くしていただけれど…今世でも同じかどうかは分からないわ。
それに、私は政略結婚の道具になるつもりはないから、お兄様たちだって自分の意思を持っていいはずだもの。
まぁその前にルイーセお姉様の結婚を何とかしないといけないのだけれど…
*****
「イギリスも寒いんですのね」
「港だから余計だろう。明日はアリックス様にご挨拶するんだからしっかり休むんだぞ」
「わかりました。お兄様」
私達は、ロンドンにあるホテル、クラリッジズに一泊し、翌日ウィンザー城に向かう馬車に乗った。
一応国賓としての来訪なので護衛も多ければ半分パレードの様に馬車に乗っての移動だ。
王族として受けてきた教育をいかんなく発揮して笑顔で外に手を振る。
それほど時間もかかることなくウィンザー城へ到着すると、謁見の間にはいかず、叔母様が待つ応接室に通された。
「よく来てくれたわねクリスにテューラ」
「お久し振りですアリックス叔母様」
兄と共に礼をする。
叔母様には毎年の様にお会いする機会はあるけれどもこういうのは礼儀だからね。
「昨年の出来事はあまりにもだと思いますわ叔母様」
「まったくよ、王家のしきたりだか知らないけれど私もダンマーク王家の出。ダウナーが嫁いだ国を悪く言う気はないけれどロシアの皇女如きが何様だというのかしら」
昨年ヴィクトリア女王の戴冠50周年記念の式典で叔母様はロシアの皇女より下座に座らされたのよね。
王太子妃なのにひどい扱いだ事…
それでもまだ女王陛下との仲が良好だというからいいけれど、王太子のエドワード様は叔母様を無視して女漁りを繰り返しているそうだし…叔母様は王族とはいえ幸せな結婚とは言えませんわね。
ロシアに嫁いだダウナー叔母様のほうは夫婦仲もよいというのに…
「それにしてもテューラが準男爵に会いたいなんて…何を考えているの?」
「ダンマーク王国の未来の為です。
先だって私がグライダーによって空を飛んだことはご存じですよね?」
「えぇ空飛ぶお姫様…なかなか面白いことをするわね」
「はい、次に目指すべくはエンジンをつけた飛行機による飛行です。
そこで技術大国であるイギリスにおける有名な投資家と技術者を紹介してほしかったのです」
「確かにホワイト準男爵は鉄道工場をお持ちだけれど関係があるの?」
そう、ホワイト準男爵は既に鉄道車両の製造会社に出資していて、後にライト兄弟が初飛行をしたニュースからその将来性を鑑みブリストルにブリストル飛行機という会社を設立させる。
だけど、私が長時間の飛行を実現したことで風向きは変わったのです。
「はい、すでに良いお返事をいただいておりますわ。飛行機に積むエンジンの開発に乗り気ですの」
「まぁいいわ。準男爵との技術協力でグライダー関連特許の使用許可がもらえるというだけで協力しろと外務省と軍部がうるさいけれど、おかげで私の価値が上がったわ。クリス、テューラの暴走は貴方が止めるのよ」
「わかりました…とんでもない重責ですね」
お兄様の私への評価はどうなっているのです。
叔母様とのご挨拶も終わり、其の日の夜はウィンザー城で女王陛下を含めてディナーをいただきホテルに戻った。
いよいよ明日ここでダンマークの未来を握るかもしれない二人と会うことになる。




