第三王女テューラ、王族として初めて空を飛ぶ
1888年4月3日晴れ。
アマリエンボーからも観ることができる隣の島アマー島にてデンマークで初となる現代型グライダーによる実験が行われます。
ここは後にデンマーク国際空港となる場所で、周辺に小さな町はありますが割と広大な空き地です。
本日のパイロットは私。
この日のために地上で実際にグライダーに乗り込み操縦訓練を繰り返しました。
「テューラ様、基本的に操縦桿を倒した通りにグライダーは動きますからね!急激な操舵は控えてください。今日は初飛行ですから無理に長く飛ぶ必要もありません」
実は前日、レーナによるテスト飛行はされており機体が無事に浮くことは確認されています。
飛行時間は1分にも満たないものでしたが、各操作に対しての飛行特性はレーナの設計通りとのこと。
それに1/3スケールの模型飛行機にて本グライダーの飛行特性は把握済み。
今回は急激な機動は避けるようにリミッターも取り付けてあります。
さらに報道関係者も詰め掛け、お父様だけなく王妃であるお婆様も見学にこられています。
「最悪、昨日の私と同じく1分ぐらい飛べればそれで充分ですから気負わずに飛んでください」
「えぇわかっていますわ」
レーナからうまくやれば上昇気流を捕まえることで長時間空に上がっていられるとのことですが、このグライダーにはタイヤなどなく胴体着陸となるため、あまり高度を上げるのは怖いですわね。
レーナと手伝いのメイドたちがキャノピーを閉めてくれます。
外界の音が遮断され聞こえにくくなるため、スタート時は旗振りで知らせてもらうことになっています。
ちょっと緊張する…これまでにデモ機を使って地上で操縦訓練はしましたけれど実際に飛ぶのは初めてですからね。
半分寝っ転がるような姿勢のまま外を見るとレーナが赤い旗を振っています。
いよいよスタートですね
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テューラ姫が乗ったグライダーが200m先にある蒸気機関に繋がれたワイヤー巻き取り機によって加速していく。
私が設計したグライダーが緩やかに加速し始めある程度の速度になったところでフワリと舞い上がった。
そのまま加速を続けグライダーからワイヤーが切り離される。
観客席からは歓声と拍手が上がっている。
ひとまず私は胸を撫で下ろした。
前世の持てる知識を総動員して模型も作ってなんとかこうして形にしたグライダーが空を舞っている。
なんとか騙し騙しここまでくることができた。
あとはテューラ姫が無事に着陸できることを祈るだけ。
上昇したグライダーは順調に観客たちの上を旋回し始める。
うまくいけば上昇気流を捕まえられるかもしれない。
グライダーはうまく飛べば数時間は飛べる。
本日の成功を持って世界各国に特許の出願を行う予定で、このテストフライトの前には宮殿のテューラ姫の執務室で缶詰になっていたのだ。
私が書いた特許を姫様とマリーナ様が他の国の言語に翻訳してくれたのだ。
前世ではその国で出せば世界各国に特許を申請できたけれど、この時代はそうじゃないらしいため、特許は同時に各国に出さないといけない。
でもこれで、飛行機関連技術の基礎中の基礎になる技術をダンマーク王国が抑えることができる。
これはテューラ様の考えている特許技術で国際社会で存在感を増して中立を維持するという方針に弾みがつくはずだ。
まだ8歳でしかない私たちだけれど、確実に国を動かせる。
そういう技術を開発できたわけだ。
次は有人動力飛行か…グライダーはなんとなったけれど、エンジンが大きく重たいため今あるガソリンエンジンをそのまま使うのは難しい。
なんとか技術のブレイクスルーが必要だけれど…何か良い手はないだろうか…
…それにしても姫様飛びすぎじゃない?もう10分は飛んでるのだけれど大丈夫かしら?
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私は結構必死に操縦桿を握っていた。
うまいこと上昇できれば長時間の飛行も可能とのことでしたけれど、ずっと旋回してるために姿勢を維持するのはなかなか体力が必要です。
レーナの言う通り体を鍛えておいたのが良かったとは思いますがかなりきついですわね。
機体についている時計を見るとすでに10分近く飛んでいるため、そろそろ降りても良いでしょうか?
この機体、地上を確認するのが難しいんですわよね…
足の間から下を見ればレーナが黄色い旗を振り回している。
良い加減降りてこいって意味の旗ね。
私は操縦桿を押し下げて降下を開始する。
降下すると機体は加速する。
つまりそのまま着陸しようとすると機体が破損する可能性があるので、速度計を確認しながら高度を下げる。
仮にも現代型グライダーなのだからと速度計と高度計がついている。
現在の速度は時速60km離陸した時には時速30km程度だったのでもっと速度を落としたい。
すでに速度計のメーターはレッドラインを超えているのでこれを下回る速度で着陸しなくてはいけない。
高度を下げ、ダイブブレーキを展開します。
これで速度が抑えられるはず。
みるみる速度が落ちてくるのでそのまま芝生の滑走路に滑り込むように着陸です。
バスンと衝撃が加わって芝の上を滑っていきます。
あとはもう何もできません。止まるのを待つだけ。
ごとごと揺れるのがなんとも怖いです。
ようやく止まると皆が駆け寄ってきました。
キャノピーを外されレーナの手を取りなんとか立ち上がると皆が歓声をあげていました。
お婆様、泣いてらっしゃるのですか。
私は大丈夫ですよ。
右手を握り空高く突き上げると歓声がより大きくなりました。
皆に囲まれ、次に記者たちに囲まれもみくちゃになりながらも何とかグライダーによる飛行は成功したわけです。
これで私の目標に一歩近づいたと言えるでしょう。




