世界の空を席巻!
1923年4月、実はこの月、前世ではダンマーク農民銀行が経営破産して私たち王族は大打撃を受けました。
ですが、THIのメインバンクである農民銀行は第一次大戦中に名前を変えダスケン銀行となり、双発機TH-502や4発機TH-504の海外からへの売上の入金などにより破産することはありませんでした。
まぁその前に経営体質を見直して社名を変更していますから、そこに山と積まれた外貨が入ってくれば暗い影はどこへやらでしょう。
結果的にTH-5シリーズはイギリス、アメリカ、フランス、そして日本に対してライセンス生産を認めました。
ソ連?知らない子ですね。
ドイツ?そんなお金はないと思います。
今のうちにしこたま稼ごうという魂胆があります。
何せあと7年もしないうちに世界恐慌が訪れますから、なるべくそれまでに稼いでお金を国内で循環させたいわけです。
特にTHI傘下の子会社や下請事業者も含め、今はてんやわんやの状態。
労働基準法があるので、残業や休日出勤は追加費用を支払っていますから、労働者にお給料がどんどん入る状態。
結果、コペンハーゲン近郊の住宅着工件数は上昇の一途をたどり、夜の繁華街は大いににぎわう状態になっています。
「金曜日の夜は華やかさが違うね」
「本当に、みな楽しそうだわニールス」
私も今年で43歳、だいぶ年を取ってきましたが、ニールスとの夫婦仲は良い状態です。
今日は久しぶりに二人だけでデートです。
「久々に洋服やバッグをたくさん見たよ」
「各国から最新のブランドも入ってくるようになったから、どこを見ても楽しいわ」
輸送型となるTC-5はヨーロッパ各国のブランド品をコペンハーゲンに持ってきます。
我が国の輸出品の1位はついに航空機とその部品類になり、酪農国家から航空機国家に変更となったような状態です。
北海油田からのタンカーはひっきりなしに訪れ、アメリカからは自動車運搬船が、マークスが開発した世界最大のコンテナ船によって家具や家電などの工業製品の輸入も堅調、といったところです。
前世では世界恐慌よりも一足先に景気が悪化し、アメリカなどへ労働者としてわたる人が多かったダンマークですが、今現在労働者の流出はない状態。
我が家の家電もすべて入れ替わったのは記憶に新しいところです。
「今夜はノーマを予約したんだ」
「あら素敵!」
コペンハーゲンを代表するレストランの予約を取っていてくれたなんて、久々にニールスと二人での晩餐だわ。
「テューラはいつも忙しそうだからね…たまには二人でゆっくり食事をしたいと思って」
「ありがとうニールス。とてもうれしいわ」
特別室を用意してくれ二人だけの晩餐となった。
いつもは子供たちもいるからなかなか騒がしい。
とはいえ、クリスはすでに20歳、航空学校を卒業して、今はダンマーク航空でTH-5のパイロットを務め世界中を飛び回っている。
長男のリックスも16歳、高等学校で薬学者になるべく勉強をしている。
次女マリーはまだ8歳だけれど、しっかりした子に育っている。
小学校での勉強が楽しいとのこと。将来の夢はニールスのようなお医者さんになること。
長男と次女は医学を目指したのに、一人だけパイロットを目指した長女。
ちなみに、王女がメインパイロットのTH-5に乗れると幸せになるなんて言われている。
厳密には王女ではないのだけどねクリスは…まぁダンマーク航空において宣伝を買って出ていて、よく街中の広告でもTH-5と一緒に移る娘を見ることがある。
かっこいい制服を着てにこやかに映るクリスに恋する少年は多いそうだ。
「クリスはすごい人気だよね」
「毎日何通もファンレターが届くもの…検閲もたいへんなのよ?」
「別にテューラがやっているわけではないだろう?」
「一応私も目を通しています」
「そうなのか…」
「とはいえ、あの子もだれかいい人を見つけてくれるといいのだけれど」
「そればっかりは時の運…だと思うよ僕らみたいに」
「…そうね、そうよね」
ゆっくりと食事が運ばれコース料理を堪能し、雑談に花を咲かせる。
久々にゆったりとした時間はとても楽しかった。
*****
「テューラ様、月産100機達成です!」
「本当に、100機もつくったのね…」
「まぁ来月からはだいぶ落ち着きます。当初の目論見通り最大でも60機程度ですね」
「これ以上、労働者に残業と休日出勤を強要したら、それこそストライキが起きるわ」
アメリカからの大型受注をさばききったTHIは祝杯が上がるような状態だった。
今月までに出荷したTH-5シリーズの総生産数は1500機。
他国の旅客機の生産数を大きく凌駕する生産数です。
ローンチから1か月、世界各地に降り立ったTH-5を見た各国からの受注量は当初600機、その後増え続け、現在バックオーダーがいまだに200機ほどという状態です。
なにせライセンス生産の契約を結んだと言っても、各国すぐに生産ラインが組めるわけではないですから、うちは大型機を大量生産することに特化させてますからね。
結果として、ダンマーク国際空港は滑走路の数が6本まで増え、管制塔の高さもいよいよ100mに迫る高さとなりました。
そして、いよいよ導入されたのが、音声無線装置。
多くの飛行機がタキシングする飛行場において、もはやモールス信号での指示は不可能。
うちだけではなく、イギリスにアメリカも協力してくれ、ようやっと音声通信ができるようになりました。
とはいえ同時に発言すると混線して何を言っているかわからなくなるので、扱いは難しいのですが、それでもより迅速に、それぞれの飛行機に指示を出せるようになったことは安全運航に必須の条件でした。
戦前は1時間に1本飛行機が飛べばよかったところ、今は5分に1便は離着陸しますから。
他国から飛んでくるTH-5もいます。
「なるべく宮殿周辺と市街地上空は飛ばないようにしてますけど、管制官は死ぬほど忙しいそうです」
「夜間は離着陸しないのが救いかしら?」
「いくら誘導装置があっても危険ですからね」
「飛行場の為だけに発電所がある状態ですからね今は」
夜間の飛行がないとはいえ天候が悪かったり、出発時間によっては日没後の着陸はあるため、空港の近くには専用の発電所が建設されています。
ライトにより滑走路の位置を表示し、滑走路へ進入する際の適切高度かを示すライト、空港設備の照明、さらにはTHIの飛行機組み立て工場の照明や設備の電力として専用の火力発電所が稼働していたりします。
「ほんと、大規模になったわね」
「アマー島は、今では航空機基地なんてよばれてますからね」
島中が航空機関連企業と航空運航会社がひしめき合ってますからね。そして島の1/3は滑走路関係ですから。
住民の方々には悪いことをした気もします。
とはいえ、ダンマークのアマー島は航空機といえば、ダンマークと世界に言われる所以にもなっています。
まさに世界の空を席巻したダンマークの象徴ですね。




