悪ガキ三人組
「あはははは!これ、楽しいわねー!」
自動車が届いてから1週間、お母様の許可を得て我が家では友人二人を呼んでお茶会をしているのですが、私の部屋まで中庭を自動車で疾走するインゲボーお姉様の声が聞こえてきます…
おかげでマリーナさんとレーナが苦笑しているじゃない。
「第二王女殿下はとても愉快な方ですわね…」
仮にも男爵令嬢であるマリーナがちょっと呆れたように言うので私も素直に言葉を返します。
「もともとスケートや乗馬を嗜まれていましたが、まさか単なる”スピード狂”だとは思ってもみませんでしたわ」
「あの計画もテューラ様ではなく、インゲボー様のほうが良いのでは?」
「エンジンが付いたら乗ると言い始めそうですわね」
私達が計画しているのは”現代型グライダー”を作成すること。
私が5歳の時に知り合った彼女たちは私と”同類”です。
二人とも私よりも先の未来の知識を持っているようで、私のダンマーク王国の未来についての論説を聞いて、私に接触してきました。
二人とも異語同音に『是非とも未来について話したい』なんて手紙が送られてきたのです。
そして「まるで月へ行くことを宣言した大統領のようだった」と言われたのですが私は何のことだか分らなかったため、私よりもさらに未来の世界からやってきたというのが分かったのです。
二人ともお爺様が国会議員故に私に会うことができたというのもありますが、私と同じく前世の知識があることからこの国の将来が危ないという思いで互いに協力してくれています。
流石に前世の記憶があることは大人たちには内緒です。エクソシストを呼ばれて幽閉なんて願い下げですからね。
そこから3人で国の未来のための研究を始めたものの、一番最初に作り上げた紙飛行機から始まり輪ゴムを使った模型飛行機による飛行特性の確認・研究を始め、宮殿の中庭で様々な形の飛行機を飛ばしまくり、時には衛兵にぶつけてしまうなんてこともあったせいで、今ではお母様からも悪ガキ3人組みたいな扱いを受けておりますが…
「なにより、まず空を飛ぶのは私が最初でなくてはいけませんわ」
幾らレーナのおかげで現代的なグライダーが設計できそうだと言え、まだ私たちは7歳の子供です。
逆に、子供だからこそ体重が軽いので機体強度もそれほどいらず、木製フレームと布張りによる設計で何とかなるはずだと考えているのです。
「レーナ、設計のほうはどうですの?」
「あと1ヶ月は欲しいですね。誰も詳細設計ができないですから私が全部図面を引いていますので」
「よく図面が引けますよね?前世でそれに関する仕事でもしていらしたのですか?」
マリーナさん、聴きにくいことをズバッと切り込みますわね。
「えぇ、これでも大学で”鳥人間サークル"でしたから」
「アマチュア飛行機の設計をされていたわけですわね」
「テューラ様の情報で人力飛行機についてはもう少し時間をいただければ実現できそうなんですけど、まずはグライダーとして飛ばすことを優先しますよ」
ここでいう人力飛行の技術とはイギリスで発明された自転車に使われているギアとチェーンをつかった駆動伝達方法を使うことでプロペラを回すというやつです。
ただ、人力飛行機は当然”体力勝負”となりますし、いきなりそこへ行くのではなく、まずグライダーで有人飛行機に必要な技術をしっかり取得しようというのが今現在の私たちの計画です。
目指すグライダーは完全な現代型グライダー。
主翼・水平尾翼・垂直尾翼をもち、それぞれエルロン、エレベーター、ラダーを備えたものです。
本来の歴史では1903年にライト兄弟が人類初の動力飛行をしますが、その時のエルロンロールはたわみ翼による制御でした。
今目指すのは、より現代的な形状です。
ワイヤーによって操縦桿とつながれたリンクを介し、各部を動かす事で姿勢制御を目指しています。
そして、自動車からガソリンエンジンを取り出し、グライダーを牽引するための装着の制作と動力飛行のためのエンジン研究に使う予定。
最悪パワーが足らないのであれば人力や蒸気機関も考えますが、技術を手に入れないといけませんから購入したわけです。
工業技術はメカニカルな物であれば基本的にリバースエンジニアリングが出来るのです。
要はコピーして技術をパクるわけです。
「とにかく機体設計をすすめますよ。後はテューラ姫から紹介いただいた工房で1/3サイズの模型を作ってもらい、飛行特性に間違いないかを確認してから実物大の物を作りますから」
「レーナ、本当に家具職人でよかったのですか?」
「大丈夫です。作る飛行機は木造ですから…木工加工の専門と言えば北欧なら家具職人でしょ?」
「そうなのですかね?」
「そうですよ。北欧家具と言えば世界で有名なんですから」
それはきっとスウェーデンの話ではないですかね?
あそこは良質な木材が取れますからヨーロッパ各国に家具を輸出していますし…我が国は一番有名なのはやっぱり酪農ですからね。
「テューラ様、グライダーが成功した場合特許はどこまで押さえるおつもりですか?」
「父とも相談しておりますが英、独、仏、露、米、伊にはだしますよ」
そう、この特許がまず第一。
そして次に動力飛行を成功させるためにある力を借りるつもりです。
今の内から叔母様にお話を通しておかねばならないですわね。




