混沌とする世界
1916年、世界各国の兵器の進歩は目覚ましいものがあり、THIでも新型機の開発が進んでいる。
イギリスでは戦車が登場し、航空機も当初は布張りが主流だったものが、ダンマークのAH-1のように全金属化しつつあります。
さらにドイツは自国の技術でプロペラ同軸機銃を開発したらしく、その戦果が目覚ましいこととなっています。
さらに、ドイツの潜水艦の脅威は客船ルシタニア号撃沈事件で明確になったと言っていいでしょう。
そもそも、ドイツの潜水艦は作戦海域と想定した航路においてはどこの船でも攻撃するような姿勢を見せており、ダンマークは猛烈に抗議していたのだけれど、結局事件は起こってしまったわね。
公式にドイツより中立国の船は攻撃しないという発表がされるまでの間、酪農品の輸送がすべて飛行機に切り替わった出来事は、ロンドン空輸作戦などと後に称されることとなりました。
「とんでもない騒ぎでしたわね」
久々に顔を出してくれたマリーナにねぎらいの言葉をかける。
彼女はこの戦争の被害を何とかするためにかなり奔走している。
「おかげで、航空機用燃料の確保に不安が出てきています。自国で何とか採油できるとはいえ、採油した油は結局船舶輸送なのですから、ドイツの攻撃にさらされたら終わりですわ」
「我が国が戦略物資の輸送はしていないと発表しても、今や石油は戦略物資ですからね…」
「テューラ様はすでに重々承知とはおもいますけれども、今やダンマークは資源立国でもあります。イギリスからもドイツからも石油を売ってくれと、せがまれる立場です」
「でも、のらりくらり躱しているのでしょう?」
「もちろんですよ。イギリスはそもそも北海油田の共同出資者ですから自国のリグで掘ればいいわけですし、ドイツについては知ったことではありません。ロシアに喧嘩を売った時点でロシア製石油が手に入らなくなることなんてダンマークの小学生だって知ってますよ」
そうね、クリスだけでなくリックスすらわかるわね。
現在ダンマークはまだロシアからの石油の輸入は続けているのよ。
そろそろ手を引く予定だけれども、最大限購入できるものは購入しようという魂胆ですわ。
イギリスで稼いだ外貨でロシアでお買い物、というのが今の大きな流れ。
ロンドンへの空輸では乳製品の価格が高騰してそれもそれでえらい騒ぎだったようですけど、こっちもずいぶんお金を使いましたからお相子でしょう。
「情報局からですけれど、各国での農産品の価格の高騰が続いているそうです。ダンマークでもインフレ気味なのは変わりませんが」
「マリーナ含め政治家の皆さんが何とか統制しているのでしょう?」
「えぇ、航空機輸送が可能になったおかげもあって、塩ダラなどの北海水産物を空輸できています。少々割高ですが、ドイツの比ではないですね。懸念となるのは酪農に必要な飼料ですが、ロシアからの買い付けが順調です。それもだいぶ高値になっておりそろそろ限界ですね」
「どちらにせよロシアからは手を引くもの、叔母様もこちらへ戻ってくるそうよ…ニコライ2世はさすがに国内にとどまると…」
「こればかりはどうにもならないと思います。国家元首が今逃げ出すわけにはいかないでしょうから…」
こればっかりはどうにもならないわよね…
それに下手に匿うのも問題になりそうだし…難しい問題だわ。
「とにかく、今の時代国内の安定を図ることを最優先といたしましょう」
「そうよね…マークスの海上輸送も今は安定しているのよね?」
「はい、護衛船が全く足りていませんが、補うための水上偵察機をTHIの子会社が製作してくれましたから、活用してますよ」
実は今年から、AH-1を水上機化した偵察機が船団護衛についていたりします。
マークスの新造船には水上機を格納できる倉庫スペースがあり、輸送船団の行く先に対して対潜も含めた偵察をしているのです。
「すべてを航空機にするのではなく、初めから船団護衛用の飛行機を作ったほうがよかったかもしれないわね」
「こればっかりはやってみないとわからないというやつですよテューラ様」
全くその通りね。
私は前世で引きこもり王女なんて呼ばれていたぐらいだもの。
時世の流れはわかっていたつもりだけれど、大きく政治にかかわることもなければ軍にかかわることもなかったのだから…前世の記憶があるからと言ってなんでも万全に備えることができるわけではないのよね。
でも、前世のダンマークよりよっぽど国力があり、この世界大戦のさなかにおいても国民の生活が多少困窮する程度で済んでいます。
それだけ、うまく皆で立ち回ることができたという事でしょう…
史実通り、1919年に戦争が終わればいいのですが…どうなることやらですね。




