父の死と女性参政権
1912年6月、史実よりも1か月ほど長生きした父、フレゼリク前国王が崩御した。
私は今年一年は喪に服することになるわけだけれど、兄、クリスチャン10世の治世は安定している。
というより、国会が安定した政治を執り行えているといったほうがいい。
今の兄は国民に寄り添う王というブランディングに成功している。
国の公式行事以外にもスポーツ競技などにも積極的に顔を出しており、我が国の王であるという認識をしっかりと植え付けている。
新聞にも写真を載せているし、寄稿もしており、国民を思っていることを明確に示していたりする。
そして、兄が”女性の活躍”についての発言をしたことが最後の一撃となり、史実よりも3年早く、女性参政権についての法案が可決成立した。
そして、マリーナが私の家にやってきた。
「ようやく正式に政治家になれます」
「マリーナには今後も期待しているわ」
この法案可決によりマリーナをはじめとする女性活動家たちは色めきだった。
国民もそれは歓迎しており、そもそも一般工場法改め労働法の制定などにこの活動家集団が一役買ったことは言うまでもない。
もともと、我が国においては市民参加型の政治運営がされていたからこそだと思う。
ちなみに、前世では1915年に女性参政権が認められるも、第一次大戦中だったこともあり実際に選挙が行われたのは戦後である。
「マリーナはダンマーク自由党から出る予定かしら?」
「えぇ、その通りよ。一応与党ですから」
「でもお爺様は保守でしたわよね?」
「関係ないわ。私たちがやるべきことは、更なる近代化と国力の増強よ?いくら技術があって進歩しても根本的にはダンマークは酪農国家、大戦と経済恐慌を乗り越えるために!」
「そ、そうね」
マリーナが言う内容はまさに私が成し遂げようと思っていたことだけれど、まさか友にこれほど支えられるとは思っていなかったわね。
「ところで、あと2年もすれば大戦が起こるわけだけれど…何か手を考えていて?」
「世界と見比べてもダンマークの保有する"輸送機"の数は尋常ではありませんから、大口取引先の英国への酪農品の輸出はユラン半島北に建設中の空港から直接空輸をします」
「航空機にまで”コンテナ”を積み込むやつね」
「はい、船舶コンテナとはサイズは違いますけどね、航空コンテナというアルミ製の箱ですよ。このコンテナ…というよりもカゴですね。これごと下すので荷物の積み下ろしが楽になりますよ」
「とはいえ、ドイツからの圧力というものがあるでしょう?」
「ないとは言いませんが、ダンマークは中立です。公海規定のおかげでうちの近海で海戦は起こらないでしょう」
そうは言うが、戦争に絶対はない。
戦争法があるがそれが用をなさなくなるのは前世でも知っています。
「法律が気休めだというのはわかりますが、うちは中立国です。わざわざけんかを吹っ掛ける必要はありません。何のための現国王の婚姻ですか」
「…まぁそうだけれども」
えぇ、お兄様の結婚はそういった政治的な部分ももちろんあるわ。
でもねぇ…
「あの時は国民が非常に困窮したのよ。海上航路の封鎖はダンマークにものすごい打撃を与えたわ…」
「それを逃れるための空路ですわよね?」
「えぇそうだけど」
「実はですね…対潜哨戒機っていうのを軍が開発しておりまして」
「なんですって?」
「ソナーというんでしたか、あと磁器探知機を使って水に潜っていても見つけられるそうですよ」
「そ、そんな技術があるのね」
これも技術の進歩かしら?
第二次大戦のころにはこれらの対潜装備はあったとのことだけれど、第一次大戦時点で磁気探知機なんてあったのかしら…
ソナーはあるはずよね、そうでなければ潜水艦は潜ったまま航海できないもの。
*****
マリーナが帰った後、私のもとに娘のクリスがやってきた。
早いもので彼女はもう9歳で、小学校に通う年になっている。
「お母さま、お願いがあってまいりました」
「なにかしらクリス?」
「将来の夢の作文が出たのですが、わたくしパイロットになりたいのです」
なんとまぁ、わが娘は飛行機乗りになりたいと…
確かに貴族が乗る乗り物という向きもありますが…
「お母さまも子供のころグライダーや飛行機にお乗りだと聞きます!インゲボーおばさまだって立派なパイロットです!わたくしもパイロットになりたいと思います」
本当なら私は止めたいと思ってしまいます。
今後パイロットになるということはいやが上でも戦争に巻き込まれる可能性があります。
しかもこれから起こる戦争ではなく、次に起こるであろう戦争に。
あの悲惨な戦争からわが子を遠ざけたいという思いは普通だと思うのです。
ですが、娘の目は真剣そのもの。
これを否定するすべを私は持っていません。
「わかったわ、クリスのすきなようになさい。お母さんも応援するわ」
私の答えに娘の顔がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます!お母さま!」
そういって、家庭教師とともに部屋を出ていきました。
きっとこれから宿題の作文を書くのでしょう。
後で見せてもらいましょうね。
彼女がどんな思いでパイロットになりたいのか、もっと深く知る必要があると思うわ。




