父の退位と兄の即位
時は少し進み1911年5月、体調の悪化が深刻な父に替わり王族としての実務をこなす兄が正式に即位することとなった。
本来の王国典範では死後の即位しか認められていないのだが、実質的に王族としての公務をする兄の姿勢に国民の賛同が得られた形だ。
「これで、しばらくゆっくりできるよ」とは父の言葉。
母と共にアマリエンボー宮殿を後にし、より静かな場所にある屋敷へ移動した。
ニールスとは別の主治医をつけてのことで、ニールスはクリスチャン10世となった兄の主治医となった。
そして、この間に私は3人目の子供を出産した。
娘のクリスにつぎ、次女となるマリーだ。
どちらも私に似ていると思う。
第二子で長男に当たるフィリはどちらかといえばニールスに似ているわね。
そしてようやく各国で旅客機が正式に就航し始めている。
ロンドン↔︎ベルリンやロンドン↔︎パリの直行便なども誕生している。
過去にも耳にしたことがあるブリティッシュエアやルフトハンザ、エールフランスという航空会社が誕生したのだ。
しかし我が国も含めて飛行機の搭載量というのはまだまだ限界がある。
大型輸送となるといまだに飛行船が力強い。
「といっても飛行船の天下はこれぐらいが限界ですよ」
「新しいタイプのエンジン開発が進んでいると聞いたけれど?」
「ブリストルとウチが共同で"ジェットエンジン"の開発を始めましたよ」
「実現できそう?」
「直ぐには無理でしょうねぇ30年後には実現できるのではないかと」
流石にここまでくるとそう言うものなのね。
ダンマークの航空機開発から各種工業製品の先行投入によって世界の技術進歩は前世よりも明らかに進んでいるけれど、飛行機の性能と言う点ではまだまだと言った感じなのよね。
やはりレーナのおかげもあって我が国が一歩抜きん出ている感じだけれど、問題はエンジンスペックだとレーナはぼやいている。
自国での開発は必要だけれど、予算は有限。
現時点でもブリストル社におんぶに抱っこなのよね。
事業提携していなければいまだに200馬力程度のエンジンしか手に入らなかったところだもの。
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久々にレーナとマリーナの時間が揃ったので我が家でお茶をしている。子供達は家庭教師と乳母に任せているわよ。
「星型エンジンの開発も順調に進んでいますから、1000馬力越えも目前ですよ」
「ジェットエンジン実用化までに2000馬力をこえられるかしら?」
「こればっかりは専門家に聞くしかないですね…今ブリストルが開発しているジュピターってエンジンは期待ができそうですが」
それは色々なものの性能向上に繋がりそうですわね。
「テューラ様に報告です。次の国会でいよいよ女性参政権について法案を出しますわ」
「マリーナも動いているようね」
「えぇ、私自身が早いこと政治の表舞台に立ちたいと思っておりますから」
「…ずっと暗躍しておりますものね」
今や与党の裏のドンなどと呼ばれ始めているマリーナはいよいよ表舞台に出ようとしているようですね。
「陰ながら応援いたしますわ」
「ありがとうございます…ところでレーナ」
「なに?」
「あなた、子供はどうなの?」
「なかなか当たらないのよね…ところでマリーナはまだ結婚しないの?」
「私は一生独身でいいと思っていますわ」
私たちも31歳となりましたらマリーナも結婚していていい年齢なのですが、まだ独身ですのよね。
「いま私が結婚すると色々問題なのよ」
「理由つけて結婚しないだけでしょう?付き合っている殿方はいると聞いたわよ」
レーナの発言にマリーナが固まります。
「…どこからの情報かしら?」
「ふっふっふ」
私もその情報を持っていますけどね。
国立図書館の司書の方とお付き合いしているのではと情報局から連絡をもらっていますわ。
マリーナやレーナに近寄る人間は全て確認されておりますので。
私がこのことを説明すると、マリーナは項垂れてしまった。
「理解はいたしましたが、気持ちがついていきません」
「情報局からは問題なしと言われているので結婚して大丈夫ですわよ」
「そう割り切れません…彼の気持ちもあるでしょうし」
「大丈夫だと思うのですけどね」
まぁこればかりは本人たちの意思ですもの、外野がとやかく言うことではありませんわね。
「…そういえばあと3年ですが…テューラ様は何か対策を?」
「いえ、何も。軍はきっちり防衛方法を検討しておりますし、アレは我が国の貿易に打撃を与えますが、それ以外の影響はありませんでしたから」
「ダンマークは中立です。どこともお付き合いしますし、どこにも媚びません」
私の答えにマリーナが付け加えてくれます。
「平穏に生きたいですね」
「えぇ、全くです」
第一次大戦まで後3年、わざわざ火薬庫に首を突っ込むつもりはありません。
しかし、前世と比べて大きく世界の様相は変わっております。
いくらなんでもドイツが前世と同じようにシュリーフェンプランに則って行動するとは思いたくないのだけれど…世界情勢は常に注視する必要があるのですよね…




