兄への相談ごと
クリスお兄様の結婚式から3日後、私は兄の執務室へ訪れました。
「お待たせいたしましたお兄様」
「いや、大丈夫だお前も忙しいだろうからな」
クリスお兄様に促されて執務室のソファーに腰を下ろす。
「私たちの結婚式の時にも話したが、実はテューラの婚約について父たちと祖父たちで揉めている」
「そうでしょうね…」
私の立ち位置はかなり面倒くさいことになっているから当然だ。
THIの代表の一人であり、ダンマーク王国航空機産業に大きな影響を与えている人間。
仮に国外に嫁がせるとなれば、THIと完全に切り離す必要があるうえに、技術流出という形で国益を損なう可能性がある。
逆の可能性もあり、嫁いだ先の国からの圧力が高まることも考えられるわけだ。
かといって、ルイーセお姉様の様に国内貴族に嫁がせるのも考え物だ。
THIは国内企業であり、王家の肝いり企業でもあるわけで、私が嫁ぐとその貴族は頭一つ以上抜け出ることになる。
突如莫大な資産と航空機に関する技術を手に入れられることになるわけだからである。
で、最後は婿入りとなるが、これもこれで問題だ。
国内でも国外でも婿に入れるとなると発言権が強化されるわけだからまぁ面倒くさいことになる。
「兄い様、私の希望を言ってもよろしいですか?」
「あぁ、構わないよ」
「では、身分を問わず、私が好いた方との結婚をお許しいただけませんか?」
私の言葉にお兄様の眉がピクリと上がる。
私の言い方で気が付いたのだろう。
「まさか、平民と結婚したいなどと…」
「平民も、例外ではございません」
「しかし、お前は仮にも王族なのだぞ!!」
まぁお兄様の言うこともごもっともなのだけれど、国内の政治バランスと今後を考えると私の要求は通す必要があるのよ。
「お兄様、落ち着いて聞いていただきたく思います」
「…わかった、テューラの考えがあるのだな?」
私は頷く。
ここが正念場ね。
「まず、私の立ち位置は大変面倒くさいことになっています。
ルイーセお姉様の様に国内貴族に嫁げばその家の利になりすぎます。また私を国外に出すのも不味いと皆様お考えですわよね?」
「あぁそうだな…とはいってもだな」
「さらに言えば、ここまで民主化が進みイギリスやドイツを見習った立憲君主国家として邁進している現状において、王族はより国民に寄り添う必要があるのです。
それは政治に口を出しはしても民の象徴であるという立ち位置を守る為にも必要なことです」
「それが平民との結婚だと?」
「10年後、さらには20年後の世界の王族は、平民から婿や嫁をもらうようになります。
例外はありません。
なぜなら、貴族は所詮名誉職でしかなくなるからです。
これは何も国家転覆だとかを狙う話ではなく、知識を持った民意によって、そして資本主義という経済構造、国家としての進化に他ならないのです。
私はその先陣を切るつもりです。
ダンマーク王国が”王国”として民の誇りとなる為に」
お兄様は黙ってしまいました。
なにせお兄様は即位後に失ったユラン半島の旧領を取り込むために民意によってえらばれた内閣を解体して革命一歩手前まで突き進んでしまう人です。
王族としてのプライドが高いですからね。
「テューラ、お前は前にも民意を聞けと、民の象徴になれと言っていたな」
「はい、言いました」
「10年前の私は、祖父や父の様に国を導くということを強く思っていた。
だが、時代の流れは違うということも理解している。
普通選挙が何度か実施され、政府・内閣という制度によって政治を主に取り仕切るのは政治家と官僚になりつつある。
それに、選挙で選ばれた政治家たちと夜会や会談で交流を持ち、それぞれの専門家はより深い知識を持って民の意見を聞き、まとめ、政策に落とし込んでいることは理解している」
お兄様としてもご自分で動かれておられたのですね。
この激動の時代において王族が何をすべきであるかということを考えてらっしゃったのですから。
「それらを考えた時、何時か”貴族”という枠組みは18世紀より前の”領主”や”地主”という立ち位置ではなくテューラの言うように名誉職となることは理解しているつもりだ…だがテューラ、話して王族が平民と結婚するというのは今なのか? 本当に今必要なのか?」
「お兄様は何を心配されておられるのですか」
そこまで理解していて、何を心配されているのかわからない。
「お前が幸せに穏やかに暮らせるのかが心配なんだ…相手の素行は調査すればいいが、平民と結婚するとなると国から資金は出せなくなる。
自分たちの収入だけで暮らしていくことになるんだぞ?」
なるほどそこを心配していたのですか!
私は確かに王家の予算も使って生活していますが、THIの給料がそこそこあることをお兄様失念してらっしゃいますのね!
「お兄様、御心配には及びません。
もしどうしても心配というのであれば、お相手を婿として迎え新たに伯爵位でもいただければ結構でございます。まぁそれすらTHIの売り上げから考えれば不要だと思いますが」
そういうと、お兄様はちょっと寂しそうな顔をされまして…
「そうか…わかった私からも両親へ話そう。テューラも自分から説明してほしい」
「わかりました、お兄様」
こうして、少なくとも後の国王であるクリス兄様を説得することが出来たので一歩前進したと言える。
兄が折れてくれれば両親と両祖父母を説得するのはそれほど大変ではないわ。
私の実績を正しく評価してくれているもの。
結婚したことで家族関係が崩壊するなんて御免なの。
こうして根回しをしておけば、いざニールスと結婚するとなってもそれほど揉めることもないはずだわ。
あとは、ニールスをどうやって振り向かせるかですわね…




