巻き戻った世界
私の3歳の誕生日は盛大にお祝いされた。
ただ、翌日に熱を出して寝込んでしまった。
この時の王宮医はおじいちゃん先生で、子供特有の発熱だろうと念のため解熱剤をくれたわけだけれど、私が熱を出した理由は前世の記憶を思い出したからに他ならない。
「テューラ大丈夫かい?」
クリス兄様の問いかけに頷いて答えるけれども、私の頭の中は大混乱だ。
65歳で死んだはずの私が3歳に戻っているのだから。
お兄様もお姉様も若すぎる。
何よりまだ結婚していないし、ルイーセお姉様が生きている…だめだ泣きそう…
ってそうじゃないわ。
何で私生き返ってるの?
どうして?
死ぬ間際の、人生をやり直せたらなんていう願いが叶うなんて思ってもみなかった。
でも今は体が熱のせいで怠く思考がまとまらない。
目を閉じた私を気遣って兄姉たちは部屋を後にしてくれた。
「…ちゃんと昨日までの記憶もある」
ここはアマリエンボー宮殿の父の宮殿の一室である。
私が生まれた場所でもあり幼少期は、こことシャルロッテンルンド宮殿で兄姉たちと過ごしたものだ。
「今は1883年ということよね…我が国はどこの属国でもなければ中立国でもない状態…お爺様の政略結婚作戦のおかげで各大国に叔母さま達が嫁いでいらっしゃるおかげよね」
お爺様もとい現国王のクリスチャン9世は『ヨーロッパ貴族の義父』なんて後世で呼ばれる人。
プロイセンとの戦争に負けても我が国が独立を保てて何とか成り立っているのはこのおかげも少しはあると思う。
でも、その力が何時までも続くわけじゃない。
1904年、今から11年後には日露戦争に巻き込まれる形でなし崩し的な中立国となる。
それではダメだ。
大国の都合でいかようにも転んでしまう。
「まずは、ダンマーク王国が自他ともに認める独立国になる必要があるわ…そのためにも勉強をしないといけないし、人脈だって広げなくてはいけないわ」
私は風邪が治ってから勉強に真剣に取り組んだ。
英語、独語、仏語、露語を必死に習い、メイドに頼んでイギリスからネイチャーを取り寄せてもらったわ。
19世紀末のこの時期は科学技術の進歩が目覚ましく、その力が国力を左右するほどなのですもの。
今この時代の知識を必死にかき集めることにした。
兄姉たちは熱を出してからの私の変わりように驚きつつも勉強を教えてくれた。
そうよ、兄姉たちの不幸な未来も変えて見せるわ…
私の結婚より先にやることはたくさんあるのだから。
5歳の初め、私の方針は固まった。
大国は何故強くなるか、結局は技術立国であることだ。
ダンマーク王国は今現在イギリスにおんぶにだっこで産業革命と後に呼ばれる重工業に手を出しているがさほど規模は大きくない。
内需を賄えればいい程度であり、酪農立国なのだ。
それが悪いわけではないが、将来にわたって安定して外貨を稼げるかといえばそうではない。
イギリスもドイツも特許を押さえ自国が有利に立つようにしているわけで、であればダンマーク王国も同じように特許権を押さえることで外交カードにできる。
それについては私の未来知識が役に立つ。
もうすぐガソリン自動車がドイツで開発される。
つまり自動車関連特許を今から獲得するのは難しい。
では船舶はどうか?
我が国も海洋国家であるが、イギリスやドイツにはかなわない。
そもそも、我が国の海軍は今や弱体化しており、資金力があるイギリスとドイツの建艦競争は過熱中だ。
ましてや船は技術の粋を結集しているので開発資金が膨大にある国が強く、建造自体も年単位の話のため効果はすぐに出てこない。
であれば私が目指すべきはまだ実現していないもの、飛行機関連技術を先んじて押さえてしまえばいいということだ。
目指すべくはまず1889年に行われるパリ万博での飛行機の展示…
動力有人飛行まで行けなくても現代的なグライダーを展示できるだけでも違ってくる。
目指すべきはさらにその先1893年に行われるシカゴ万博までに大西洋横断飛行を達成できればと考えている。
グライダーと動力飛行機による特許を世界各国で押さえ、外交カードとする。
各国からの独立保障が得られれば中立を宣言してスイスのような立ち振る舞いができるはずだ。
私は目標を定め動き始めたのだ。




