何とかニールスと近づくための我儘と新たな計画
1898年2月、アマリエンボー宮殿の医務室の一つで今日もカウンセリングという名の交流を続けてる。
「テューラ様は恋愛小説もお好きなのですね」
「はい、幼少期から科学雑誌をひっくり返してたせいで意外に思われるかもしれませんが」
もうすでに小さなお茶会状態ですわよね。
ある意味仕事を妨害しているかもしれませんが、ニールスも嫌そうなそぶりはありませんし、私は甘えている状態です。
「そうですね、飛行機の構想をたちあげたのはテューラ様と聞いておりますから、意外ではありますが…女性らしい趣味と思いますよ」
にっこりと微笑むニールスが眩しい。
12歳上ということを忘れてしまうわ。
数え年数だと、私はすでに80歳近いおばあちゃんですけど…この恋心に終わりはないのよ。
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カウンセリングの翌日、T H I本社に赴いた私に最近彼氏との関係が良好でボチボチ結婚式を挙げるかもしれないとレーナに惚気られながら報告を聞いています。
「つまり、次に出来上がる4発輸送機はコペンハーゲンからロンドンやベルリン、さらにはサンクトペテルブルグに向けての旅客を期待できるというわけね?」
「そうです、ですが流石に飛行高度の問題がありますから、イタリアローマへ行くのは難しいと言わざるを得ません」
「でも、ヨーロッパ北側の大都市は結べるのよね?」
「そうなります。ロンドン、パリ、オスロ、サンクトペテルブルグ、ベルリン、ワルシャワなどへの路線と各都市からの相互飛行が可能です。
問題はパイロットの確保と、航路の安全です」
「パイロットの育成はわかるけれど、航路の安全?戦争をしているわけではないのだから、撃墜されるなどの心配はありませんでしょう?」
第一次大戦までにはこの4発機を護衛する戦闘機が必要になるでしょうが、今それが必要だとは思えませんし、どういう事でしょう?
「ちがいますテューラ様。
航路の安全というのは飛行そのものの安全のことです。
船だってぶつかるんですよ?
航空機が行き交うようになり空を飛行機が飛び回るようになると飛行機同士の衝突などが起こらないようなルール作りとそれを指示する方法を確立しないといけないわけです」
なるほど、自動車と同じようにルールを国際的なものとしないといけませんし、さらには無線についても進化させないといけないわけですね。
今の無線通信といえばモールス信号しかありません。
聞いて、それを解読して、返信してというのは時間がかかりますから、船や車より圧倒的に早いスピードで飛ぶ飛行機がそんなことをやっていると指示が伝わった時には時すでに遅しとなりそうですわね…
「ので、テューラ様にお願いなのですが」
「…なんですかレーナ」
「イギリスの叔母さんに連絡をとって無線通信についての技術開発協力をとりつけてもらえませんか?」
「レーナは私のこと単なる便利ツールと思っていませんこと?」
「それは否定しません」
そこは否定して欲しかったわね。
「まぁ分かりましたわ。詳しい情報とどこへアプローチするのか教えてくださいまし」
「あと、できればドイツからの技術も欲しいのです」
「…お兄様に相談してみますわ」
お兄様の婚約者はドイツ帝国の公爵令嬢ですからね…チャンスはありますわ。
「ところで、4発機のテストはどうなのです?」
「今の所良好です。一部修正箇所が見つかってきていますが、今年中に就役自体はできます」
「となると、そろそろ航空会社の設立が必要ですわね…」
この構想自体は昨年のドイツによる飛行船商業運行時に決まった内容ではありますが、いよいよ本格的に動き始める必要がありそうです。
マリーナにいって法整備などについては研究会が発足しており官民一体の検討会がだいぶ煮詰まっておりますので、T H Iと違って完全民間の企業として成立する予定です。
それに伴う法整備についても、すでに進んでおりますが、安全に"運行"するための技術がまだ不足している状況です。
「無線、レーダーなどの電子機器についての強化が必要ですわね」
「そのあたりの技術は私では太刀打ちできませんから、政治的な力でねじ伏せてくださいテューラ様」
「ねじ伏せてどうするのですレーナ…」
まぁともかく、世界初の民間航空会社を設立させねばなりません。
これはマリーナとも相談ですわね。
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「レーナの言う通り時期尚早感が否めませんが、各機体が十分距離を取れるような時間割で飛べばしばらくは誤魔化せると思いますよ」
「まぁそうなりますわよね」
相談した開口一番マリーナは私も考えていたことを答えてくれました。
まぁそうなりますよね。
時間を開ければ通信のタイムラグがあっても安全を確保できます。
「ただ、他国が乗り入れるようになるとそうも言っていられないでしょう。
事故が起こる前に航空管制のルール作りをしないと人命を失う事故が起きかねませんよ」
「そのためにも電子機器の開発ですわね。
すでにアリックス叔母さまを通じてイギリス科学相には問い合わせ中ですの。
今回はドイツにも依頼を出しておりますわ。
お兄様の婚約者であるヘレーネ公爵令嬢を通じてですけれど」
ふむとマリーナが頷く。
「どちらにせよ、その他の技術を航空技術が追い越している状態ですから、待っているぐらいなら開発資金を確保した方がいいでしょうね。
いま、ダンマークはかなり外貨を獲得していますから」
そう、航空機だけでなく、資源輸出が好調で我が国はかなり外貨を獲得している状態です。
特にドイツのアルミニウム需要が飛行船の関係でかなり高い影響です。
我が国から鉄道を使って陸路でドイツへ輸出されている氷晶石はかなりの量です。
自国でも使っていますけど、使用量はドイツが圧倒的ですわね。
「そうですね、たまには技術ではなくてお金で解決できないかお父様と相談してみますわ」
こうして、金の力で徐々にではありますが、航空機に関連する必要技術を我が国は買い漁り始める事になりました。




