インゲボーお姉様の結婚
1897年5月、インゲボーお姉様の結婚式が執り行われました。
お相手はスウェーデンのヴェステルイェートランド公爵カール王子殿下。
政略結婚ではありますが、お二人の仲は良好でして、二人して飛行機を乗り回すようなご家族です。
私達のお母様は王位継承権はありませんがスウェーデン国王カール15世の孫にあたりますから、本国での人気もなかなかです。
カールまみれでわかりにくいですわよね…
前世でもインゲボーお姉様は幸せなご結婚をなされ、一時期は王妃陛下や王太子妃殿下が公務をされなかったため、インゲボーお姉様が肩代わりしておりました。
まぁそこは今世でも変わらなそうです…
「では、行ってまいります」
「お気をつけてインゲボーお姉様」
パイロットスーツを着たインゲボーお姉様とカール王子をみんなで見送ります。
新婚旅行で飛行機を使ったルイーセお姉様も、カールお兄様も普通に正装でしたから、違和感が半端ではなく、一部顔が引き攣っている貴族もいますね。
今回はクリスチャニアを経由してストックホルムへインゲボーお姉様が直接操縦してスウェーデンに向かいます。
今回使われるT-08C/Dはそのままスウェーデンに売却されます。
それも5機もです。
これは、我が国で研究され始めた航空機の軍事利用についてのある程度の方向性が決まったことによります。
現時点で武装した飛行機はない上、飛行船も武装しておりませんから、まずは偵察に使うという本来通りの飛行機の使用方法を試し始めておりまして、その有用性はカメラによって誰の目が見ても明らかとなりました。
このT-08C/D型は機体内の床にある蓋をあけカメラを設置できるように改造された機体です。
これにより、地上の状況を撮影し、敵の布陣、補給の状況など一切の間違いなく記録・共有できるというわけです。
これはレーナが、偵察機ならカメラぐらいつけないとといったことから始まったもの。
アメリカから輸入したフィルムカメラという最新のカメラを使用したこの偵察行動に陸海軍は飛行機の有効性を認めました。
ちなみに、このT-08C/Dですが、これとは別に、軍用偵察機として二人乗り双発機のA-01が開発されました。
ベースとなるのはT-08Cですが、よりボディーが細くなり機体を軽量化。
速度も200km/hまで高速化した飛行機となりました。
機体色は裏側がミディアムグレー、上部は地上迷彩という迷彩柄が施されています。
はじめこの色について軍は理解してもらえませんでしたが、実際にカラフルなダンマーク陸軍の軍服と同じ色に塗装したA-01と迷彩が施されたA-01を飛ばし、どっちが見つけやすいかということを実践し、迷彩柄が採用されました。
プロペラが風を切るバババという音はどちらも変わりませんが、明らかに迷彩柄のほうが発見できなかったわけです。
「敵が偵察されていることを理解できないなら、こちらはより有利になる」
とはレーナの言葉。
私が記憶している2つの大戦ではみな地味な色の服を着ておりましたが、まだナポレオン戦争時代の服装が基本の制服の陸軍は今回の結果を以て、軍服の選定も始めた程です。
なにせ、空から見ると目立ちますから偵察実験の際、布陣から何から全部わかってしまったんですよね。
ダンマーク王国は他国より先に迷彩について本格的に研究が始まったと言えるでしょう。
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飛び立つインゲボーお姉さまたちが乗ったT-08を見送った後、私はTHIにて仕事を少しして宮殿にもどってきました。
少し今後のことを一人で考えようと思ったのです。
飛行機開発はもう全てレーナにおんぶにだっこです。
細かな設計などできるわけではありませんし、レーナのほうが私よりも未来の知識を持って飛行機を開発し始めており、太刀打ちできません。
マリーナは国内政治にどっぷりです。
現在はご自身のお祖父様の秘書官みたいなことをしており、外交にも口出し中。
クリスお兄様はドイツの公爵令嬢と婚約中。
そして私は現在フリーなわけです。
お祖父様もお祖母様も私の扱いには困っているようで、婚姻の話がどこからもありません。
正確に言えば”どこからのお誘いもお断りしている”状態です。
今や国外に出せないお姫様の地位を確固たるものとしております。
ニールスにはあまり会えていません。
どうしようかずっと悩み中。
いきなり馴れ馴れしくするのも違うし、かといって医務室通いなんてしては健康を心配されてしまいますし、それは今のタイミングでするべきではありません。
恋ってどうやってするんでしたでしょうか…
それに、今から10年は激動の時代です。
前世では1901年には大きな選挙があり、ダンマーク自由党が圧倒的な勝利を収めます。
私とニールスの逢引がバレるのもこの年、そして1904年には日露戦争が勃発し、翌年ノルウェーがスウェーデンから独立し、カール兄様がホーコン1世として国王になります。
すでにノルウェーでは独立の機運は高まっておりますし、政治に関しても保守政党は窮地に立たされています。
現行のダンマーク法では本来王族があまり国の政治に口を出すのは良くないのですが、私が引っ掻き回した重工業化の影響で増える国民に対して仕事も十分にあり移民もほとんど発生せず、民衆の力が強いため国家防衛に予算を半分もつぎ込もうとする政治家たちは肩身の狭い思いをしています。
それとは別にTHIと軍の関係は良好。
軍用バイクの開発も順調で、陸軍に馬の代わりとして納品予定だったりとダンマーク王国内は前世とは全く別の歴史をたどっています。
それとは別に歴史通りに進んでいることもあるわけで…
私は今後どうしていけばいいのか少しゆっくり考える必要があったのです。
ちょっと更新のペースが落ちております。
歴史的事実を確認しながら書くのは大変なのです。
2~3日に1回更新できるように頑張っていきます。




