相次ぐ結婚式とT-08Cの就役
1896年5月6日、ルイーセお姉様の結婚式がコペンハーゲン聖母教会で大々的に行われた。
本来ならボヘミアへ嫁ぐはずだったお姉様はフェロー諸島兼グリーンランドの領主という肩書でコペンハーゲンで暮らすことになる。
まぁ王侯貴族の婚姻なので幾ら民主化が進んできていると言っても一大イベントである。
特に、ここ数年の重工業化の進展と、昨年から発売された4ストロークの小型ガソリンエンジンを搭載したバイクが販売されるや、国民のステータスになりつつあり、この辺りを主導したお父様はかなり人気がでている。
もちろん、大きな政治的な決定については政治家を含め、市民集団による民主主義が発展してきており、国民の意思の反映という点では他国より進んでいるかもしれない。
ちょっと立憲君主国家として政治や経済に口を出しすぎな気もするが、前世のクリスお兄様よりはましだと思っている。
そして1896年5月15日、ダンマーク飛行場…もといコペンハーゲン国際空港に私を含めいつもの3人組で赴いている。
まぁそのほかにも報道関係者であったり、国のお偉いさん方も同席しているんだけれど。
理由はルイーセお姉様の新婚旅行出発の見送りである。
これは多分に政治的な意味を含む新婚旅行である。
飛行機にてフェロー諸島、アイスランド、グリーンランドをめぐり、道中スウェーデンやイギリスにもよる予定。
お姉様とエルブレヒト伯爵には飛行機に乗って市中引き回しにあってもらうことになったのだ。
航空機の有用性を国内外に示すために、各国にもお願いして空港を作ってもらった。
イギリスについてはブリストル飛行機の関係もあるからすでに飛行場があったけれども。
そして今回使われる機材はT-08C、何気に全金属飛行機だ。
製造が出来たジュラルミンをふんだんに使用し、外板も含めてアルミ合金化し、機体重量を軽減。
機内の居住性も向上した。
総積載量は変わらないが、今回お姉様がのる機体のほかに、予備とメイドたちを乗せるための2機が同行する。
予備は故障した際の日程を変更しないためだが、そのほかに旧型のT-08Aもコペンハーゲン国際空港で待機し、何かあれば即向かえるようにしてある。
とはいっても、今回は飛行機の有効性を内外に再度見せつけるためのフライトであり、安全には最大限気を使ったし、飛行試験もずいぶん行った。
シャーロットは2週間かけてこのT-08Cで既定のルートをすでに飛行試験済みであり、少々速度が向上したT-08Cでのお姉様の新婚旅行における主パイロット兼メイドとして登場する。
他の2機にはそれぞれ陸軍と海軍から選出されたパイロットたちものる。
まぁ随分と人選が面倒くさかったよ…
「お姉様道中のご無事を祈っておりますわ」
「ありがとうテューラ、お土産楽しみにしていてね」
にっこり微笑むお姉様は幸せそうだ。
引込み思案とはいえ王族としての責務を果たすつもりのようで安心する。
前回のお姉様の結婚は不幸だったうえに、自殺したなんてうわさまで流れたほどだった。
今世はその心配もなさそうだ。
少なくとも海外領土は母国語が通じるし、スウェーデンもイギリスも一時の滞在に過ぎない。
社交が苦手なお姉様でもそれぐらいは出来るもの。
皆が見送るなか、T-08Cはゆっくりと加速しふわりと空に舞い上がった。
お姉様、怖がってないといいなぁ飛行機乗るのたしか初めてだし。
ルイーセお姉様がダンマークを立ってから1週間後、カール兄様が私の部屋に訪ねてきた。
実はカールお兄様は従妹にあたるモード姫と婚約しており、来月はバッキンガム宮殿で結婚式をする予定だったりする。
二人とも仲が良いし、ダンマークとイギリスの繋がりをより強くするという意味合いもあるんだけれど、その裏の狙いとして、スカンジナビア半島におけるノルウェーの独立に向けての準備だったりする。
カール兄様は後に600年ぶりに復活するノルウェー国王になるからね。
「テューラ、すまないんだが私の願いを聞いてくれないか?」
「どうしたんですお兄様そんなに改まって」
「モードがルイーセと同じような新婚旅行がしたいと言い出してね…」
「まぁ!」
なんとなくは予想していましたよ。
実はルイーセお姉様の出発の日にはイギリスからモード姫も来ていたのです。
それで羨ましくなったのでしょう…カール兄様は今ダンマーク海軍士官ですから、新婚旅行は北欧3カ国歴訪となっていますし、各国間の移動だけでも飛行機を使いたいということのようです。
スウェーデン国内やノルウェー国内については5tトラックを改造した王族専用車を用意しており、各国に移送済みですから、そちらを使うとして国家間移動だけでもということでしょうね。
海軍としてもカール兄様を乗せる意味はあるでしょうし…
「わかりました、THIに声掛けして整えましょう。お姉様と同じ飛行機でも文句言わないでくださいましね?」
「あの飛行機で十分だろう、モードも大変気に入っていた。
乗ってきた船並みに内装が豪華で驚いたと言っていたからな」
「いっそロンドンへ向かうのも船じゃなく飛行機にしてしまっては?まだ間に合うと思いますよ」
「提案ありがとう、モードとも相談してみるよ」
そういえば、まだモード義姉様は宮殿に滞在しているんでしたわね。
きっと同じように飛ばすことになるんだろうなぁ…




