ダンマーク王国軍航空技術研究所の設立
1895年2月、THI本社の会議室にはダンマーク王国陸海軍の高級将校と私を含めた役員、そしてお父様であるフレゼリク王太子が集まり、ダンマーク王国航空技術研究所設立に関する最後の調印を行っています。
すでに私、軍のお偉方がサインし、最後にお父様がサインすれば終わり。
「これにて、ダンマーク王国航空技術研究所が設立しました」
パチパチと拍手が起こる。
ここ、THI本社と研究棟とは別に、もう一つダンマーク空港に研究施設がたち、それがこの技術研究所となる。
建物はイギリスから輸入できた製鉄設備で作られたH鋼を中心とした、エッフェル塔にも使われた建築鋼材による大きな建物で、こちらは今拡張中のTHI製造工場にも使われている。
大きな実験機・・・例えばB29クラスの飛行機なら数機並べられるサイズがある。
そして、レーナが絶対に必要だ、どうしても必要だと譲らず作ることになった大型の風洞実験室も作られた。
彼女いわく、計算で飛行機が設計できる限界だとのこと。
彼女自身の知識限界もあるらしく、本当に自分の知識が正しいか、より効率的な飛行機の形状は何であるか、正しく把握するためにもある程度の大きさの模型での実験が必要だとのこと。
大型のプロペラを備えたトンネルのような形状のそれは、プロペラにて発生させた風をつかって飛行機や自動車の特性を見るという。
これの建造自体は莫大なお金がかかったが、試験用の飛行機を作って実際に飛ばすより安全、かつコストを削減できると力説され、それら資料をTHIとして国に提出し軍からも予算をひねり出してもらった。
「テューラ、THIとして軍にたいし言うことはあるかい?」
私はお父様の発言に頷く。
「私達THI社は本来、民間向けの乗り物を作る会社として立ち上げました。
ですが、国防を考えたとき、軍に対し多大な協力ができると信じております。
特に、航空機に関していえば、他国に先んじた技術によってより高性能な空飛ぶ乗り物を提供できます。
軍の皆様に置かれましては、我が国の防衛戦略としてご助言いただければと思っております」
私の発言に拍手が返されるが、一人の将校が手を上げた。
「この度、THIからの提案は大変興味を引きましたが、御社が作る航空機が防衛においてどのように活用できるかいま一度伺っても?」
「はい、まずは軍の皆様も考えられておられる偵察に使用できます。
空から敵の布陣が見られれば、より柔軟に防衛の作戦が立てられるでしょう。
また、逆に敵の航空機による偵察を阻止する必要があります。
航空機だけでなく、飛行船も含みますが、空からの情報を敵に渡すことは我が国に不利となりますのでそれを撃破できる航空機が必要です。
更に、敵に直接打撃を与えることも可能になると考えております」
「それはどのように実施するお考えですか」
「すでに飛行し量産を開始したT-08A、これは飛行距離を考えなければ1tもの荷物を詰めます。
つまり、その重さ分の爆弾を積むことが可能です。
これを敵直上に落とす…たとえば、ダイナマイト1tを敵上空から落とす事が可能なわけです。
それは相当な破壊をもたらすものと予想できます」
誰かが生唾を飲むゴクリという音がする。
軍事関係者ならその威力はよくわかっているだろう。
もしそれが自分の頭上に落とされるなんて考えたら怖くて仕方がない。
そして、それは今までのような要塞が全く意味をなさないことも意味している。
「これは我が国だけが行えるわけではないということです。
T-08A以上の性能を持つ航空機はすぐにでも出てくるでしょう。
すでにTP-09~11による戦闘用航空機の研究が始まっておりますが、それは他国も同じでしょう。
すでに一部の特許情報やライセンスはダンマークが中立を得るために使われ、共通認識になっています。
私達は先んじて防衛のために、これら航空機の活用と防衛方法の構築をする必要があるわけです。
この研究所は両軍の垣根なく開放されています。
航空機はどちらの軍にも属さず、どちらにも属する平等なものです。
そこのところは両軍ともご理解いただきたいと思いますわ」
私は締めの言葉として釘を差した。
どうしても軍という組織はそれぞれの命令系統の関係から仲が悪い。
国家予算における軍事費というのは決められており、どちらがどれだけ好きにできるかという争いは常に起こる。
それは結果仲が悪くなるという悪循環を生むが、航空機に関して言えば、どちらも必要とする技術だ。
レーナいわく、今は陸海軍しかないが未来では空軍という航空機を専門に扱う軍ができるとのこと。
国によって陸軍から分かれたり海軍から分かれたりしたらしいが、ダンマークでは早期に空軍を作りたいと考えている。
これはクリスお兄様やカール兄様更には海軍提督をしているヴァルデマー叔父様と話し合って決めたこと。
私一人では判断がつかなかった。
とはいえ、今までの常識が通用しない航空機という物体を兵器化するうえでは結局マリーナやレーナの知識のほうが深い。
彼女たちにはこれからも協力してもらわないといけないだろう。
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「というわけで、軍と共同の研究所ができたわけ」
マリーナとお茶をしながら経緯を話す。
「お疲れ様でございました。
無事にまとまってよかったです」
「あなたとレーナのおかげよ。
私一人では軍の戦略だとか兵器の進化なんて正しく把握できなかったわ」
「そのあたりは私にお任せください。
戦略シミュレーションゲームで鍛えた戦術の作り込みから必要となる兵器系統まである程度理解しているつもりです」
「…その戦略シミュレーションというのは?」
たまにマリーナもレーナも私の知らない言葉を使う時があるのよね…
「チェスの現代版です。
より大きな盤面で政治・金・兵器の調達から同盟関係まで合わせて遊ぶので大変ですよ」
「未来ではそんな複雑なことができるようになるのね…」
このあたりはレーナよりもマリーナのほうが得意なようで、我が国の政治体制についても思いがあるらしいです。
彼女自身、なれるものなら将来祖父の跡を継いで政治家になりたいという思いがあるようですからね。
それについては私も協力したいと思っております。
王族としてあまり関わりすぎるのは良くないとは思いますけれど。




