必要なのはどんな大衆車?
1894年9月、THIは新入社員を迎え順調に規模を拡大しています。
TP-076の量産型、T-08Aは販売開始直後からそれなりの受注数を得ました。
それなりなのはその価格の影響。
どうしたって5万クローネは高すぎたのだ。
仕方がない為、王家専用機としてダンマーク王国としても1機を購入。
今度ルイーセお姉様たちがフェロー諸島とアイスランド、グリーンランドへ来訪する予定。
各島に滑走路の建設も始まっており、今まで航路しかなかった配達物に近い将来飛行機が加わることになるだろう。
そのためのパイロットの育成も進んでおり、王家専用機とは別に国内郵便貨物用に分割払いで国の郵便事業にぶち込んだりもした。
何せ1ヶ月に2機しか製造できないぐらい製造効率が悪いのだ。
原価率なんて6割を超えている。
そこで、レーナを始めてTHIの役員たちが国内で売れる大衆向けの乗り物について提案してきた。
「つまり国産車を作りたいというのね?」
「はい、そうです。今我が国を走り回る車はドイツ製かフランス製、相手側もそれなりに高額で売っており、貴族か豪商でもない限り購入は難しい現状で、それを打開したいわけです」
THIの役員の一人、カール・アルントが説明をしてくれる。
彼は5tトラックの開発を主導してくれた人物でドイツ系の家の出だ。
ダンマークの重工業化に乗り気で是非THIで働きたいと言ってくれた人でもある。
「ただ国産車を作ると言っても、大国の高級車にかなうとは思いません。
5tトラックは成功しましたが、国内で所有する企業が少ない現状で、国民が車を手に入れるというのは、非現実的ではないかしら?」
私の言葉にうなずくほかの役員もいる。
「そこで提案したいのが、”エンジン付自転車”です」
「なんですって!?」
カールの発言を聞いて声を上げたのはレーナだった。
飛行機開発の祖である彼女は当然役員の一人だ。
航空機部門の裏のとりまとめ役ともいえる。
「どうされましたか?レーナ殿」
「いえ、発想に驚かされてしまって…カール氏は小型のエンジンを自転車に取り付け、こぐ必要のないものをお考えですか?」
「その通りです。すでに86年にはドイツにて特許が出願されておりダイムラーが原形を作っています」
たしかに自転車にエンジンを取り付けて動かすものは私も雑誌で見たことがありましたが…あれもそれなりの値段だったと思うのです。
「現状、ブリストルからの技術供与もありTHI社内でもエンジンについての基礎が出来上がりつつあります。低出力ながら小型のエンジンについては製造可能です。
また、国内の自転車メーカーのおかげで製造する部品はそろっています。
あとは乗り心地の改善とどこまで安く仕上げるかです」
なるほどと思う。
小型のバイクであれば国土の狭いダンマークにはちょうど良いかもしれない。
そう考えているとレーナが声を上げた。
「概ね良いと思います。より乗り心地を考慮しダンパーの開発を並行して行ってください。
飛行機の主脚にも必要な技術ですから」
こうして"原付"の製造が決まった。
また、5tトラックを改造して乗合馬車ならぬ、バスの開発も同時に提案された。
「都市間を移動するには鉄道もありますが、どうしても駅はある程度の人口の都市にしか建設する意味がありません。
それ以外の農村部や鉄道敷設が難しい地域への交通手段として有効だと判断します」
これにはレーナも即賛同してくれた。
ますます国内の馬の需要が減ることが予想されるが、今は軍が買い上げているからいいが馬の畜産から牛や豚などへの転換を国が補助を出して行うほうが良いかもしれない。
今度お父様へ相談してみよう。
こうして、原付とバスの製造が決まった。
バスに関してはインゲボーお姉様の車が役に立つだろうな…
先に製造するのはバスのほうだ。
既にあるラインを少しいじるだけで何とか生産できるだろう。
アルミ生産のめども立ってきたというので、外板には錆びないアルミが使われるかもしれない。
原付もベースの自転車フレームにアルミを多用することになるだろう。
まだ、飛行機にアルミ部材を使うのは危ないらしい。
そのキモとなるジュラルミンはドイツで実用化されたとはいえ、かなり高価な合金のようで、レーナはさらに強度が高いジュラルミンを越えるものを作ろうとしている。
レーナ曰く、亜鉛、マグネシウム、銅の付加を試しているらしい。
そして、その傍らで化学薬品と塗料メーカをよんで塗料の改良をし始めている。
防錆塗装だそうで、塗料内に亜鉛粉を混ぜ込めないかだとかやっている。
どうもジュラルミンはアルミなのに錆びるらしい。
その対策の為塗料は必須なのだとか…
私もどんなものが空を飛び、陸を走り回ったか知っていても、このあたりの技術開発がどうなっているのか、必要な技術が何かまでは知らない。
レーナやマリーナ、他の技師たちからの要望を父や兄につたえて動きやすくするのが今の私の役目になっているのよね。




