大西洋横断飛行機TP-076の開発と横断飛行の成功
1894年5月、THI本社に隣接するダンマーク飛行場に一機の飛行機が止まっている。
既存のT-03と違い両翼にそれぞれエンジンが1つ、主材は木製ながら今までの飛行機と違い全体的になだらかな流線型を称え、コックピットも密閉式となった飛行機、その名も TP-076 アトランティック。
大西洋を横断するためにこさえられた飛行機です。
乗員はパイロットを含めて6名、最大50馬力のエンジンが2つ。
今回もメインパイロットはシャーロット・リンデンバーグさんを予定。
もう一人、サブパイロットとしてアウトゥーラ・ブラウンが乗っている
この飛行機、なんで当初から6人ものれるようになっているかというとモールス無線機も搭載し、さらには抽選で選ばれた新聞社の記者を2名乗せるため。
本当に飛んだのか?だとか無着陸と言いながらどこかに降りたんじゃないかだとか言われたくないのでこのような形となりました。
高翼配置で翼とエンジンが一体になったような形状でボディは楕円形をしております。
この飛行機が飛ぶようになるまでにTP-076の数字の通り、4機の試作機と6回の手直しが入り今の形になりました。
「理論上の飛行距離は燃料満タンで7,000km、最大離陸重量は燃料込みで3t、最高速度は150km/hです」
レーナが機体について説明してくれています。
今日は関係者と報道関係者への発表会。
それまでにテスト飛行で機体の性能評価と燃費については計算済み。
理論上トラブルが無ければココからニューヨークまで飛べるはず。
「この飛行機は、飛行機という乗り物がより実用に耐えるものであることを証明するために作られました。目先の目標は大西洋の横断。ダンマーク王国の威信をかけた計画です」
すでにアメリカには協力を打診済み、この報道公開の1週間後に実際に大西洋を横断する予定です。
本来ではあればパリ→ニューヨーク間をチャールズ・リンドバーグが飛びますが、同じような名前の私のメイドが史実よりも30年以上早く飛ぶことになります。
これは我が国が1895年までに大西洋を飛行機で横断すると発表したことにもよりますが…
実はドイツの飛行船が昨年9月に大西洋を横断したのです。
アルミ製造を始めたものの、ドイツの技術力の進歩は早く…あっさりとジュラルミンを製造したドイツは飛行機ではなく、全金属性の飛行船でもって大西洋を横断
20名もの人を乗せてゆっくりと優雅に大西洋を越え、船より早く新大陸に着くを実現したのです。
これに焦ったTHIは総力を挙げて今持ちうる技術でこの飛行機を作り上げました。
レーナ曰く後1年頑張ってジュラルミンを製造できるようになって全金属飛行機を飛ばしたかったとのこと…
何でも高望みしてはいけないと思うのです。
まずは出来ることを積み上げないといけませんから。
レーナの記者たちへの質疑応答が終わり、私が最後の〆の言葉を話す番になりました。
「我が国はどこよりも先んじて、この航空機技術の粋を集めた”旅客機”を飛ばします!
新大陸だけではなく、ヨーロッパ各国の距離もこの飛行機によってより縮まるでしょう!」
この飛行機自体はルイーセお姉様の為でもあるのだから、ちゃんと成功したいところ。
既に100時間の飛行を終えてフルオーバーホールを行ったTP-076は、準備万端である。
余裕を持ったこの1週間は最後の整備チェックとなる。
シャーロットさんたちも予備機でテスト飛行を繰り返す。
今回は夜間飛行も加わる為、天測による飛行も行うから最後の確認の意味もある。
さて…どうなることか…
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「姫様!電報です!!!」
記者会見から1週間と3日、華々しい式典と多くの国民が見守る大歓声の中、イギリスのタイムズ紙の記者二人と通信係を乗せた飛行機が大量のフラッシュを浴びながら離陸した。
その後は定期的な無線連絡がされ、飛行の無事を確認されながらの飛行が続いていたようだが…メイドが慌てて電報を持ってきたということは多分到着したんだろう。
「無事到着したのかしら?」
「そのようです姫様」
じゃあ明日の新聞はでかでかと第一面ね。
電報は簡潔に「アトランティック、ニューヨーク到着」とだけ書かれていた。
コイツは売れるわ…世界の速達郵便の歴史が変わる。
最大離陸重量3tは伊達じゃない。
燃料満載時の搭載量は600kgていどだけれど、ヨーロッパ圏内を結ぶだけならもっと積める。
ダンマークからロンドンへ朝採れたての牛乳をそれなりの量輸送できるんだから。
ただ、販売価格は5万クローネになるだろうとのこと…
あまりにも高額…仕方が無いのだけれど、数をそろえられる会社なんてそうはないだろう…
分割での支払いだとか積み荷の運賃だとかを考えないと採算は取れないと思う。
飛行機そのものって儲からないんだなぁと実感したアトランティックの大西洋横断成功の報だった。
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「うまくいって良かったよ」
「お疲れ様レーナ」
珍しく今日はマリーナ様と二人でカフェに来ている。
大西洋横断飛行の成功から1カ月、ダンマーク王国を含め世界各国は空飛ぶ乗り物ブームになりつつあった。
動力飛行からわずか6年、世界の空飛ぶ乗り物技術の進歩はすさまじいことになっている。
イギリス、フランス、ドイツは既にドーバー海峡横断を成功させ、次は大西洋だと意気込み、実はアトランティックが飛ぶ1年も前、飛行船の大西洋横断の影に隠れ、イギリスの水上機による大西洋横断が成功していた。
そう、道中何度も給油を繰り返しての横断だ。
乗員2名ながら無線機を備えイギリス海軍総出で海上での給油を繰り返しながら飛行着水を繰り返してカナダのニューファンドランド島からイギリスのベルファストまでの横断に成功していたのだ。
「どうしても無着陸飛行にこだわる必要があるから、あんな未来的な形状の飛行機になってしまったのよ」
「おかげで5万クローネでしたっけ?地方の都市予算並みよ?」
「量産効果で下げるわよ…まぁ量産するほど売れればいいのだけれど」
レーナがため息をつく。
T-03は成功した商業飛行機だが、金持ちの道楽の域から出ない。
「まだ飛行機の有用性に関しては疑問が出ているからね」
「乗客を乗せなくとも船より早く荷物を届けられるという部分を強調するしかないわ」
「そういえば今回も軍が興味を示しているわよ」
「水上機化して船舶補給でもさせます?」
「T-03は偵察機として有効性が軍で確認されているからね。より人が乗れて無線通信ができるならそれに越したことはないでしょう」
「そろそろ空戦ドクトリンを考えないと、軍にもっと売り込み出来ないわね」
「ドクトリン?」
「戦略よ…いい?今回のTH-076は燃料を減らせば最大で1tは物が乗るのよ?
つまり250kg程度の爆弾なら数個を敵の頭の上に落とせるのよ」
「…途端に物騒になってきたわね」
こくりと頷いたレーナはマリーナに近づき小声でしゃべる。
「WW1での飛行機の活躍がその後の軍用機の在り方を決めたわけ、それを先取りする」
「姫様とも相談しましょう。それこそ軍と直接話すことになるわよ」
後日この件はテューラ姫を通じてTHIと軍の結びつきを強化する流れとなる。
飛行機関連技術の軍事転用を研究する研究会が正式に発足することとなったのである。




