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「リューちゃん聞いて、聞いてっ!! あのさ、大道芸人が集まる眼鏡橋で……」
「ユゼル!! 主が魔術師が集まる集会で【完璧な人間】の経過報告に自分を連れて行くと言ってくれたっ!!」
ユゼルが帰ってきてすぐ何かを言おうとしたのを遮って報告をする。
「えっ……? リューちゃんすごいねっ!!」
すぐに喜んでくれるユゼルに、いつもは【完璧な人間】に関しての話をすると微妙な顔になるのだが、それでも喜んでくれるので気を良くして、
「お前も自分のように主に認めてもらえるといいな。ああ、そう言えば、先程、眼鏡橋の話をしたが、あそこに屯うのは惰性で生きている輩ばかりだから参考にならないだろう」
わざわざ行く価値はないのだから行ってどうするんだと忠告をする。そう言えばこいつは大道芸人が好きらしく暇があれば観に行って、毎回その話ばかりしている。全くくだらないと思っていると先ほどまで嬉しそうに喜んでくれたのが一変して、悲しげに顔を歪ませる。
「ユゼル……」
何かあったか?
問い掛けようとしたら、
「ごめんっ。なんでもないから」
と明らかになんでもないような態度で告げてくる。
「だが、お前……」
様子がおかしいと告げようとしたら、ユゼルの身体が溶けて、服だけになる。
どこ行ったんだと辺りを見渡すと服に僅かなふくらみ。
にゃあ
黒い毛並みの青い瞳の猫。ユゼルの本来の……猫の姿を見るのは久しぶりだ。
「どうしたっ!!」
何で急に、いや、本来の姿になるってことは……。
「精神が不安定になって本来の姿に戻るなんて、セッテアールと同じくらい未熟な証明だな」
何をしているんだと窘めたつもりだった。だけど、ユゼルにとって自分の言葉は、そうと受け取られないものだったようで、
なぅ~
ユゼルの悲しげな鳴き声と共に、開いている窓から出ていってしまう。
「なんだ?」
意味が分からない。アイツはいつもしゃべるだけしゃべるのに肝心な時はしゃべらない。悲しいのなら理由を言えばいいものを。
猫や犬だった時と違い、今は言葉が交わせるものなのに………。
「んっ?」
そう言えば、人間になる前はこんなすれ違いはなかったな。言葉は一切通じないはずなかったのに。
「なんでだったんだろうな…………」
首を傾げるが、理由が分からない。
「とりあえず、追いかけてみるか……」
外に出ると暗くなっているので明かりが必要だとランプを持っていくことにする。
「面倒なことをさせて……」
必死に探すが、あいつはもともと黒猫だ。闇の溶け込んでは全く見えない。
「ったく。どこ行ったんだ」
文句を言いつつしばらく街を歩いていく。アイツの仕事先の店。よく行く店とかも覗いたがそれらしい影はない。
「どこ行ったんだ。アイツは。主に心配かけさせるなどと………」
が、結局見つけれずに家に戻ることにする。
明日になればひょっこり帰ってくるだろう。流石のあいつもそこまで心配かけさせるようなことをしないだろうしな。
などと一人納得して家に戻っていく。
そんな様子の自分をじっと見ている影があるのに気づいていなかった。
なぅ
屋根の上。鼻を使えばすぐに見つけられる場所にユゼルはじっと隠れていた。
なぁぁ
本来の犬の能力を使えば見つけれらる場所に隠れたのは見つけて欲しいと願っていたから。
だけど、結果はこれ。
犬の鼻を使えば臭いで探せるのに。犬の耳を使えば鳴き声で気付いてくれるのに……。【完璧な人間】にこだわっている結果探せない。
悲しくて辛くて……それがどんな意味を持つのか上手く伝えられなくてぐちゃぐちゃする気持ちで戻る事も出来ずにただじっと様子を窺うだけ。
犬と猫のままならよかったとは思わない。【使い魔】になったことで人の姿を得て、話すことが出来るようになったから。だけど、以前よりも心が伝わらない気がする。
それを説明したくてもどう説明すれば分からず、ただ【完璧な人間】になろうとしているリューステインに悲しく思うだけ。
と、思っていた矢先に猫の本能で空気の変化に気付き、警戒をする。何者かが近づく気配。
「――こっちを探ってくるからもしかしたと思ったけど……」
器用に屋根の上を歩きながら近づく存在。
「お前も違和感を感じたモノか」
人ではない。人だったら気付かないが、獣の聴覚なら気付く、心臓の音ではないものが身体を動かしている音。
「戻るのに迷っているなら少し付き合わないか」
誘う言葉に警戒する気持ちはある。だけど、そこに何の悪意もないことは臭いで感じられる。そして、なにより。
なぁぁぁぁ
人間のふりをし続けることに疲れたのでその言葉に甘えることにした。
ユゼルの不安をどう伝えればいいのか困っていた。




