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82話―デイルシュルナ攻城戦

「おーい、そろそろ交代の時間だぞ」


「お、やっとか。これでようやく宿舎に戻って暖まれるぜ」


 アゼルたちが行動を開始した頃、デイルシュルナを囲む城壁の上に設けられた通路にて衛兵の交代が行われていた。夜風が吹く壁上は寒く、見張りを終えた兵は戻ろうとするが……。


「ん? なんだあれ。松明……か? なんか近付いてくるな」


「大量に灯ってるな。まさかとは思うが敵襲、か?」


「どうだろうな、ちょいと双眼鏡で見てみるか」


「だな。どれどれ……!? ひ、ヒエエェェェ!!」


 四人いる衛兵のうち、一人が携帯していた双眼鏡を取り出し明かりが見える方を覗く。その直後、叫び声をあげ腰を抜かして座り込んでしまった。


 それを見た残りの三人は、互いに顔を見合わせる。そのうちの一人が、双眼鏡を覗いた衛兵に何を見たのか問いかけるが、震えるばかりで何も話さない。


「おい、どうした? 一体何を見たんだ」


「あ、ああ、うあああ……」


「ダメだこりゃ。しょうがねえ、代わりに俺が見る」


 同僚の姿を見て呆れた衛兵の男は、通路の上に落ちた双眼鏡を拾い上げ覗き込む。そして、彼は見た。城壁都市デイルシュルナに向かって進軍する、無数の骨の騎士たちを。


 手に持った松明の光に照らされた、意識を持たぬ骸の軍勢が突き進んでくるのを見た衛兵は言葉を失ってしまう。少しして、辛うじて声を出すことが出来た。


「て……敵襲、敵襲だ! 他の衛兵たちを集めろ! スケルトンの大群がこっちに向かってきてるぞ!」


「なんだと!? ならすぐ……ぐはっ!」


 仲間を呼びに行こうとした女衛兵だったが、壁の外から飛来した()()()に頭部を貫かれ、その場に倒れ絶命する。通路の壁に備え付けられた松明に照らされた死体の頭には、大きな矢が生えていた。


「うん、命中しました。このゴーグル、夜でも昼間みたいにものが見えて便利ですね」


「いいなぁ、後でアタシにも貸してくれよ、アゼル」


「ええ、いいですよ」


 スケルトンたちの最後尾付近、シャスティが引く荷車の上に乗ったアゼルは先制攻撃を放った。どんなに離れた場所もよく見えるゴーグルのおかげで、狙い違わず敵を射抜いたのだ。


「飛距離も凄いですわね。ここから壁上まで、軽く百メートル近くありますわよ?」


「その程度の距離、問題はありませんよ。かつてのジェリド様は、四キロメートル離れた敵への狙撃を成功させたこともある……本人がそうおっしゃっていました。ですので、そこらの凡人ならともかく、アゼル様であれば百メートル先の敵などただの的ですよ」


 荷車の左右を固めるアンジェリカとディアナがそんな会話をしている間に、アゼルは第二射の準備を行う。右腕に装着されたボウガンに矢をつがえ、狙いをつける。


 ゴーグルに映る生命反応を確認しながら、アゼルは引き金を引き再び矢を放った。風切り音と共に、矢は暗闇の中を飛翔していく。見事、二人目も仕留めたようだ。


「やりました、これで壁上にいる相手は二人です。敵が迎撃の準備を整える前に、一気に仕掛けましょう! スケルトン、ゴー!」


 アゼルが号令をかけると、スケルトンたちの行軍速度が大幅に上がった。目指すは、街の正門。そこを破ってしまえば、一気に市街地へ雪崩れ込むことが出来る。


 とはいえ、そう簡単に突破を許すほど衛兵たちは腑抜けてはいない。運良く生き延びた二人の衛兵は、連絡用の魔法石を使い敵襲を仲間に知らせる。


 即座に迎撃の用意が整えられ、転移魔法により瞬く間に壁上の通路に二十人の弓兵隊がズラリと並んだ。


「松明をあるだけ燃やせ! 視界を確保しつつ、敵が見えたらすぐに矢の雨を降らせてやるのだ!」


「ハッ!」


 弓兵隊は矢をつがえ、敵が現れるのを今か今かと待つ。そんな彼らの前に現れたのは、頭上に盾を構えた状態で勢いよく走ってくる百体を越えるスケルトンだった。


「な、なんだあの数は!? ここまでの数がいるとは聞いていないぞ!」


「ま、まさか……枢機卿様がおっしゃっていた、例のネクロマンサーがいるのか……?」


「ええい、狼狽えるなお前たち! 所詮はただの骨、お前たちが持つ聖別された矢の前には無力だ! 恐れることなく殲滅するのだ! 射ち方、用意! てー!」


 あまりにも多すぎるスケルトンを前に怖じ気づく部下を叱咤激励しつつ、隊長は矢を射たせる。しかし、彼らは知らなかった。恐怖は、地上から来るだけではないことを。


「ん? なんだ、空に何か……うわっ! す、スケルトンだぁぁぁぁ!!」


「カカカカカカカ……」


 アゼルはスケルトンたちを進軍させつつ、何体かをボーンバードに乗せて直接壁の上に送り込んでいたのだ。大量のスケルトンを発見すれば、敵の注意は地上に向く。


 そうすれば、夜の闇による視界の悪さも手伝い、上空からスケルトンを送り込むことも容易に出来る。それがアゼルの考案した『天地挟撃作戦』なのだ。


「どうやら、上手く行ったみたいですね。地上と空、両方から攻めれば……堅牢な城壁も突破は楽です」


「流石ですわ、アゼルさま! その知略、お見事としか言い様がありません! さあ、わたくしたちも参りましょう!」


「アゼル様、私は地上からスケルトンたちをサポートします。貴方様は上空より侵入し、内より門をお破りください」


「分かりました。それじゃあ、行きましょう。シャスティお姉ちゃん、アンジェリカさん!」


「おう!」


「かしこまりましたわ!」


 アゼルはボーンバードを呼び寄せると、シャスティたちと共に背中に乗り込む。そして、スケルトンの奇襲で大混乱に陥っている壁上通路へ追撃を仕掛ける。


「見えてきましたね、さあ、大暴れしますよ! チェンジ、剣骸装(ブレイダー)モード! とうっ!」


 気合い十分、やる気爆発なアゼルは覇骸装ガルガゾルテの形態を変え、ボーンバードの背を蹴って通路に飛び降りる。すでに、スケルトンの手により四人ほど倒されているようだ。


「また敵……貴様は! おのれ、教会に歯向かう神敵め! あのスケルトンどもは貴様の仕業か!」


「ええ、その通りですよ。あなたたち創命教会が裏で行ってきた悪行も、ここで終わりにさせてもらいます!」


「舐めるな! お前たち、かかれ!」


 隊長の号令の元、衛兵たちは剣を手にアゼルに襲いかかる。通路は横幅が広く、下手をすれば囲まれてしまう危険もあったが……アゼルにとって、そんなのは問題にもならない。


 祖先より受け継いだ鎧の力と、これまでの戦いで培ってきた戦闘の才覚があるのだから。


「ならば、返り討ちにして差し上げます! 戦技、ツインボーンブレイド!」


「ぐあっ!」


「くっ、こいつ早い!」


 力強いステップで縦横無尽に通路を動き回りつつ、アゼルは両腕のブレードを振るい衛兵たちを切り刻んでいく。羽根のように軽い骸装により、スピードにも磨きがかかっている。


「てりゃああっ!」


「くっ、調子に乗るなよ! 第二隊、出ろ! あのガキをハリネズミにしてやれ!」


「これは……増援ですね。なら……チェンジ、重骸装(フォートレス)モード!」


 形成不利と見た隊長は、部下共々一旦後退し、転送魔法を使ってさらなる援軍を呼び込む。増援の弩弓隊が現れるのと同時に、アゼル目掛けて無数の矢が放たれる……が。


「う、嘘だろ……このボウガンは、鋼鉄もブチ抜く最新式のヤツなんだぞ……。それを受けて、無傷だなんて……」


「残念でしたね。どんな武器も、この骸装を貫くことは出来ません。さあ、反撃です!」


「く、クソッ! こうなったら、一度撤退……」


 通路にいたスケルトンは全滅させられたものの、鉄壁の防御を誇る重骸装を纏ったアゼルに傷一つ付けることは出来なかった。このままでは不味いと、衛兵たちは退却しようとする。


 しかし、それを許すほどアゼルたちは甘くない。衛兵たちを挟み撃ちにするように、シャスティとアンジェリカ、追加のスケルトンたちが降り立ったのだ。


「よーう、こんな素敵な夜にどこ行こうってんだ? 言っとくがよ、一人として……逃がすつもりはねえぜ?」


「ええ。覚悟してくださいまし。ね?」


「あ、あ……」


「全員、総攻撃!」


「う、うわあああああーーー!!!」


 逃げ場を失った哀れな衛兵たちの断末魔が、デイルシュルナの壁上にこだまする。あっという間に、部隊は全滅した。後は、正門を解放してスケルトンを呼び込むだけ。


 ……と、思われたその時。顔を垂れ布で覆った一人の人物が、通路に現れた。


「やれやれ。ここまでの暴挙を許すとは、衛兵どもも使い物にならぬな」


「てめえ、ナニモンだ? ただ者じゃあねえみてえだがよ」


「私か? 私は創命教会を纏める枢機卿の一人……だった者。今は……法王ゼルガトーレ様の手足たる分身だ」


「ゼルガトーレの……!」


 シャスティが問うと、枢機卿は布を剥ぎ取る。現れた顔は、ゼルガトーレと全く同じであった。


「歓迎しよう。我らに歯向かう愚か者たちをな!」


 デイルシュルナを守る枢機卿との戦いが、幕を開けようとしたいた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字発見 裏でお粉ってきた 裏で行ってきた、では? [一言] 珍しくアゼルが攻める側になってるな(゜ロ゜) 普段は敵に襲われてばかりだったが今回は文字通り攻め戦なのですΣ(゜Д゜ υ…
[一言] 枢機卿が現れたようだな。手始めに仕留めたいが……油断ならねえぞ。
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