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65話―指名手配:アゼル・カルカロフ

 見聞報告会が行われた日の夜。創命大神殿にて法王ゼルガトーレの元に、アークティカ帝国にいるスパイから一つの知らせがもたらされた。


「報告致します、法王猊下。本日、聖女長アストレアと例の末裔が接触したとの知らせが届きました」


「なに!? そういえば、ヤツの仲間に聖女が一人いたな……確か今日は見聞報告会の日……チッ、アストレアに引き会わせたな」


「アストレアは我々の動向を探り、すでに不穏な動きを見せています。もし両者が合流するようなことがあれば……」


「ふむ、やむを得まい。夜が明け次第、即座に声明を出せ。アゼル・カルカロフは我ら創命教会に歯向かう異端者。身柄を拘束せよ、とな」


 不愉快そうに顔をしかめつつ、ゼルガトーレは部下に指示を出す。アストレアが自分たちの秘密を掴み、アゼルに伝えることだけは阻止しなければならない。


 そのため、予定を早めアゼルの指名手配令を各国へ向けて表明することを決めた。


「ですが、アークティカやイスタリアが素直に従うでしょうか。あの二国は末裔への恩があります。特にアークティカは、国ぐるみで匿うことも考えられますが……」


「その程度は予想済みだ。すでに第八特務部隊『シシスの薬箱』を潜伏させている。皇帝エルフリーデが、声明に従わなかった時は……フフフ」


 アゼルを狙う者たちが今、動き出す。



◇―――――――――――――――――――――◇



 次の日の朝。朝ごはんを食べ終えたアゼルたちは、冒険者ギルドの一階で依頼を眺めていた。今日はどの依頼を受けようか……と考えていた、その時。


「ああ、いたいた。やっぱりここにいたな。フン、どいつもこいつも、品のないツラをしてやがる」


「……どちら様でしょうか。ご用があるのでしたら、こちらのカウンターにお願いします」


 ギルドの中に、ガラの悪そうな八人の男たちが入ってきた。全員が鎖帷子とメイス、バックラーを持ち武装している。額に巻かれたハチガネには、創命教会のシンボルが刻まれていた。


 どこか剣呑な雰囲気を纏う男たちに、受け付け嬢が静かに声をかける。アゼルたちが見守っているなか、男の一人が小バカにするように話し出した。


「用? 用なんて一つさ。オレたちは法王猊下の声明を伝えに来た。本日をもって、創命教会はアゼル・カルカロフを神敵とし指名手配した! オレたちに引き渡してもらおうか!」


「なっ……!?」


「アゼルさまを……」


「し、指名手配!? どうして、ぼくが……」


 創命教会の使者の言葉に、アゼルたちのみならずその場にいた冒険者や受け付け嬢たちも驚きをあらわにする。動揺するアゼルに、男が声をかけた。


「なんでかって? 簡単な話さ。お前の持つその死者蘇生の力は教会にとって不都合なんだよ。だから消えてもらう。それだけのこった」


「待てよ。アタシは何も聞かされてねえぜ。さっきの声明、本当に法王猊下がおっしゃったこと……」


「うるせえ! お前ら、やれ! 問答無用だ、邪魔する奴らは纏めてブチ殺せ! あのガキを捕らえろ!」


「おおー!!」


 シャスティが問いただすと、男は強引に遮り攻撃を仕掛けてきた。それを見たアゼルは、苦虫を噛み潰したような顔をする。


「話は通じません、か。なら……」


「いや、ここは俺たちに任せてお前は逃げろ。こんなうさんくせぇ奴らの言うこと、到底信じられねえしな。お前ら、迎え撃ってやれ!」


 アゼルが迎撃しようとすると、近くにいた冒険者の男がそう声をかけてきた。そして、腰から下げた剣を抜き、他の冒険者と共に教会の使者たちに突撃していく。


「邪魔をするな! 貴様らも破門にされたいか!」


「へっ、いいぜ別によ。俺たちとっちゃ、うさんくせぇ神なんぞより死んでも生き返らせてくれたアゼルの方がよっぽどありがてぇんだからな!」


 そんなやり取りをしつつ、エントランスで大乱闘が始まった。教会の使者たちは皆屈強な体躯をしているが、僅かとはいえ数で上回る冒険者たちに苦戦を強いられていた。

 

 戦いの最中、こっそり受け付け嬢がアゼルたちの元に近寄り、カウンターの方を指差す。


「アゼルさんアゼルさん、こっちに裏口があります。ここから逃げてください!」


「ありがとうございます。シャスティお姉ちゃん、アンジェリカさん、行きましょう!」


「ああ!」


「はい!」


 カウンターの奥にある裏口を通り、ギルドから脱出したアゼルたち。これにて一安心、かと思われたが……。


「いたぞ、ギルドから出てきた! お前ら、あのガキを捕まえろ!」


「ははーっ! 全ては、偉大なる教会のために……」


「チッ、教会の信者どもか! 面倒くせぇな、おい!」


 ギルドに入ってきた者らとは別の教会の使者に扇動された信者たちが、アゼルを捕らえるために大挙してギルドに押し掛けてきたのだ。


 全員目が血走っており、とてもではないが正気には見えない。


「まずいですわね、この数を突破するのは厳しいですわ!」


「こうなったら、スケルトンを……」


「その必要はない! アゼルくん、こっちだ!」


 やむを得ず、スケルトンを呼び出して暴徒を蹴散らそうとするアゼルに、どこからか声がかけられた。声のした方を見ると、馬に乗ったアシュロンが二人の部下を連れ接近してきている。


「うわああ、あぶねえ!」


「避けろ避けろ! 当たったら死ぬぞ!」


「こら、逃げるなお前たち! それでも敬虔な創命教会の……うぎゃっ!」


 流石に自分たちの身体を犠牲にしてアシュロン一行を止める気概のある者はいなかったようで、あっさりと暴徒たちは道を開けて蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 その代わり、逃げなかった教会の使者はアシュロンの部下が乗る馬にはね飛ばされ、無残な骸となった。


「お、お父様!? どうしてここに!?」


「話は後だ、まずは宮殿に避難するぞ。すでに皇帝陛下やギルドのグランドマスターもいる。さあ、乗れ!」


「わ、分かりました!」


 アンジェリカの問いに答える間も惜しいらしく、アゼルたちを乗せアシュロン一行は宮殿へ帰還する。道中、続々と騎士たちが集まったおかげで無事宮殿にたどり着けた。


「なんとか無事に到着出来たな。さ、陛下がお待ちだ。謁見の間に行こう」


「は、はい。それにしても、一体何が起きているんでしょうか。どうしていきなり、指名手配なんて……」


「それに関しては、我々にも分からないのだ。夜明けに突然、教会の使者を名乗る者たちが現れて宣言していったのだよ。君が教会の大敵だと」


「意味わかんねえ。なんでアゼルを敵視するんだ。何も悪いことしてねえのによ」


 謁見の間に向かう途中、アゼルたちはアシュロンから事情を聞く。しかし、何故教会が突如アゼルを指名手配したのかは謎のままであった。


 少しして、謁見の間に到着する。中に入ると、皇帝エルフリーデとグランドマスター・メルシル、そしてゼヴァーが急いでやって来た。


「アゼルくん! よかった、無事だったか! つい先程、ギルドから連絡があって心配していたんだよ」


「ぼくなら大丈夫です、メルシルさん。でも、他の冒険者さんたちが……」


「なに、大丈夫さ。彼らはみなタフだからな、そう簡単にはやられは……うおっ!?」


「あああああああ、アゼルさん! この度は、この度は本当に申し訳ないいいい!」


 メルシルと話していると、物凄い勢いでゼヴァーが滑り込み、それはそれは見事な土下座を披露した。額をカーペットにこすりつけ、ひたすら平謝りする。


「おい、おっさん! 一体全体どういうことだよ、これ! なんでアゼルがこんな目に合ってんだ!?」


「それが、私にも皆目分からんのだ。今分かっていることは、法王猊下がアゼル殿を神敵に認定したことと、アストレア様が本国から脱出なされたこと……ぐえっ!」


「ちょおぉっと待て! なんでそこでアストレア様が出てくんだよ!? まさか、アストレア様に何かあったってんじゃないだろうな!?」


 アストレアの名を聞き、シャスティはゼヴァーの首根っこを掴み揺さぶる。乱心したとしか思えない法王の行動と、アストレアの動きに不吉なモノを感じ取ったのだ。


「あわわ、シャスティお姉ちゃん、落ち着いて! ね?」


「そ、そうですよシャスティ。実は、そのアストレア様から今朝言伝てを預かっているので……あいた!」


「なんだ、それを早く言えよ! で、なんだってんだ!?」


 シャスティが手を離したせいで、ゼヴァーはしりもちをつく。尻をさすりつつ、司祭長はアストレアからの伝言をアゼルたちに伝える。


「アストレア様は、この騒動の裏に何かがあると睨み、秘密裏に本国を脱出して自ら調査に乗り出されたそうです。そこで、アゼル殿と合流し、共に調査を進めたいと……」


「そうだったのですね……。それで、今アストレア様はどこにおられるのですか?」


 アゼルが問うと、ゼヴァーは襟元を正したあと口を開いた。


「アークティカ帝国の南、砂漠と交易の国エルプトラでございます」

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― 新着の感想 ―
[一言] 流石に冒険者達は生き返らせて貰っただけに恩知らずなアホはいなかったか(ーー; しかしこれだけ早く御触れが広間っていたら移動も面倒だな( -д-)仕方ない空から行こうか(´Д`) でも下手に大…
[一言] やってくれるようだなゼルガトーレのジジィ……! 仕方ねえ、一旦トンズラするしかねえようだな……。
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