表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/311

63話―聖女長アストレア

「きゃー、可愛い~! 噂には聞いてたけど、こんなちっちゃい子が英雄さんなんだ~」


「おいでーぼうやー、美味しいお菓子があるわよー。はい、あーん」


「わっ、わっ、わっ……」


 集会が行われる教会の礼拝堂に着いた途端に、アゼルは聖女たちから凄まじい歓迎を受けた。十人ほどの聖女に囲まれてもみくちゃにされ、アゼルはあたふたしてしまう。


「こらー! お前ら、アゼルを返せ!」


「やーよ、いいじゃないのちょっとくらい。私たちだって英雄様を可愛がりたいもーん」


 シャスティらが引き剥がすよりも早く、奥の方へと連れていかれたアゼルはひたすらに聖女たちに甘やかされる。少しして、騒ぎを聞き付けたゼヴァーがやって来た。


「ええい、うるさいぞお前たち! 何をやってお……おや? これはこれはアゼル様、礼拝に参られたのですかな?」


「あ、ゼヴァーさん。実は、シャスティお姉ちゃんから今日集会があると聞いて……」


「ああ、なるほどなるほど。そういうことでしたら、ご同席してもよろしいですよ。アストレア様も、常々アゼル様に会ってみたいとおっしゃっていましたから。ほら、聖女たち、席に着け! 集会が始まるぞ!」


 ゼヴァーがシッシッと手を振ると、聖女たちは名残惜しそうにアゼルから離れ所定の長椅子に座る。アゼルはシャスティたちの元に戻り、ちょこんと座った。


「大丈夫かアゼル。変なことされてないか?」


「は、はい。大丈夫です……」


「全く、不届きな……。アゼルさまのお身体に軽々しく触れるなどと……」


 シャスティとアンジェリカがそんなことをブツブツ呟いている間に、ゼヴァーはテキパキ集会の準備を行う。二つの取っ手が付いた大きな壺を運び込み、祭事用の机の上に置く。


 壺は上部にいくにつれ細長くなっており、一番上の口のところに栓がしてあった。照明が落ち、ゼヴァーが栓を抜くと、白い煙が壺の中からもくもくとあふれてくる。


「わっ、何か出てきました……」


「よーく見てな。今からおもろいことが起きるぞ」


 その言葉通り、煙が少しずつ形を変え、人の姿へと変化していく。少しして、シャスティらと同じく修道服に身を包んだ女性の姿となった。


 少し違う部分があるとすれば、ハチガネの部分に創命神の象徴である木の芽を抱く胎児の紋章が刻まれていることと、アストレア自身が絶世の美女であることだろうか。


『今日もまた、見聞報告会が始まるのですね。愛しい我が子たちにまた会えて、嬉しく思います』


「お久しぶりです、アストレア様。お変わりありませんかな?」


「はい。こちらは何も……あら? あの方は……』


 ゼヴァーと挨拶をしていたアストレアは、アゼルに気が付くと壺から離れてふよふよ漂いながら近付いていく。じっと下から覗き込み、にこやかに笑う。


『まあまあ、あなたが噂の……。こんにちは、小さな英雄さん。はじめまして、私はアストレア。創命教会の聖女長をしているの。よろしくね?』


「よ、よろしくお願いします……」


 ニコニコ微笑むアストレアを見て、アゼルはぼけーっと挨拶を返す。慈愛に満ちた柔らかな笑顔を見ていると、何故だか安心して眠くなってしまうのだ。


 次にアストレアは、シャスティの方へ顔を向け声をかける。その声は、一段と柔らかいものだった。


『久しぶりですね、シャスティ。元気にしていますか? ひもじい思いはしていませんか? 悪い人たちに騙されたり……』


「ちょちょちょ、待った待った。心配してくれるのは嬉しいけどよ、みんな見てるから! それにもう、アタシも子どもじゃないし……」


『ふふ、そうね、シャスティはもう立派な大人ですもの。でも、ついつい心配してしまうわ。あなたは、私の娘のようなものだから』


 優しくシャスティの頭を撫でた後、アストレアは壺の方へ戻っていく。その後らゼヴァーの仕切りのもと、見聞報告会が始まった。


 聖女たちがこの四ヶ月の間に見聞きした世俗の情報を報告していくなか、アゼルは小さな声でシャスティに話しかける。


「シャスティお姉ちゃん、アストレアさんに凄く愛されてるんですね。ぼく、羨ましいです」


「まあ、あれ以来親代わりに育ててもらったからなぁ……。もう一人のおフクロだよ、アストレア様は。まあ、いい加減子ども扱いはやめてほしいけど……」


「……ティ。シャスティ、次はお前の番だ。はようアストレア様に報告をせぬか!」


「おあっ!? もうアタシの番かよ!?」


 ゼヴァーに指名され、シャスティは慌てて立ち上がる。他の聖女たちがクスクス笑っているなか、恥ずかしそうに頬を掻きつつもシャスティは話し出す。


「あー……どっから話すかな。まあ、とりあえずアゼルと出会ったとこからでいっか……」


 そして、シャスティは語り出す。死した後にアゼルと出会い、死者蘇生の力で新たな命を与えられたこと。ガルファランの牙との戦い、そしてアゼルたちと過ごした日常。


 シャスティの言葉に、アストレアやゼヴァー、聖女たちは真摯に耳を傾ける。特に、ヴァシュゴルやセルトチュラとの決戦のくだりは皆顔を輝かせていた。


「……とまあ、こんな感じだな。とりあえず、最後にアタシが言いたいことは……アゼルは強くて可愛い。これだ」


「ええ……」


 報告会の内容にそぐわない結びの言葉に、アゼルは少しだけ戸惑いを見せる。が、アストレアをはじめとした聖女たちとアンジェリカはシャスティに同意していた。


『そうですね、これほど大きな勇気を持っている子などそうはいません。皆さん、小さな英雄さんに拍手を送りましょう。彼のおかげで、私たちは平和に生きていられるのですから』


「わー!」


「うう……は、恥ずかしいです……」


 アストレアの号令のもと、万雷の拍手が鳴り響く。面と向かって誉められたアゼルは、恥ずかしさのあまりシャスティの背中に顔を埋めてしまう。


「いやーん、可愛い! 子犬みたいできゅんきゅんしちゃう!」


「ねーシャスティ、その子一日貸して? たくさん甘やかしてあげたーい!」


「アホか! アゼルはなぁ、アタシのモンだってーの! 一日たりとも貸しゃしねーよ!」


 すっかりアゼルにメロメロになった聖女たちに、シャスティはべーと舌を出す。何故かそこからガールズトークが始まり、途端に収拾がつかなくなってしまった。


「えーい、まだ報告会は終わっておらんぞ! お前たち席に戻れ! 戻れと言うに! ……ダメだな、こりゃもう無理だ」


 きゃいきゃい大騒ぎする聖女たちを鎮めようとするゼヴァーだったが、全く静かにならないのを見て早々に諦める。机の上で頬杖をつき、ふてくされるのだった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「はあ、はあ……。ようやく霊獣の森に着いたぞ。全く、ガルファランの牙どもめ。どこから私の情報を嗅ぎ付けてくるのやら。おかげで、旅程が大幅に伸びてしまったではないか」


 その頃、霊獣の森の入り口にたどり着いたリリンは文句をブー垂れていた。本来ならイスタリアから一ヶ月で到着出来たはずなのに、牙の刺客に度々襲われたせいで遅れてしまったのだ。


「まあよい。この森の奥のアジトに、私の記憶が……」


『誰かと思って見に来てみれば……お主、確かアゼルの知り合いだったな?』


「む、そなたは……ムルか」


 その時、一陣の風を従え霊獣の森の主ムルが現れた。アゼルが呼び出した分身としてのムルとは何度か会っているリリンだが、本人と顔を合わせるのは今回が初めてだ。


『アゼルはおらんのか? 歓迎しようと思ったのだが……』


「ああ、実は故あって一人でここまで旅をしてきた。この森の奥に、ガルファランの牙が使っていたアジトがあるのは知っているだろう?」


『当然だ。奴らのことを思い出すと、今でもはらわたが煮えくり返る思いだ』


 かつて娘たち共々ヴァシュゴルによって殺されたことを思い出し、ムルは不愉快そうに唸り声をあげる。が、すぐに気を取り直してリリンに尋ねる。


 かつての敵のアジトに、何の用があるのかと。


「……実はな。そのアジトに私の過去の手がかりがあるらしいのだよ。私は知りたい。自分が何者なのかを。だが、生憎私はこの森の地理に疎い。そこで、無礼を承知で頼みたいのだが……」


『アジトの場所まで案内してほしい、だろう? よいよい、アゼルの仲間の頼みだ、無下に断るような真似はせん。乗るがよい、リリンとやら。私が連れてってやろう』


「そうか、それはありがたい。手間をかけさせて済まんな」


『気にするな。アゼルには一生をかけても返しきれない大きな恩がある。そなたを助けることが恩返しになるのなら、こころよく協力するさ』


 リリンはムルの背に乗り、霊獣の森の奥深くへ向かう。その先で、待つモノも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 何か上と下の話の空気が偉い違いようだな(゜ロ゜) 上層部は手遅れっぽいけど例の神託(詐欺)が下ってもここならまだ匿って貰えるか( -_・)? アゼル自身もちっちゃいだけで別にリオみたいな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ