300話―生者と死者の想いを束ねて
「ど、どうしてここに!? 兄さんは、もう」
『どうどう、落ち着けって。どうしてって言われてもよ、ここはあの世だぜ? そりゃあオレがいても不自然じゃねえだろ』
「あ、確かに……」
突如現れたカイルに取り乱してしまったアゼルだったが、冷静に考えれば二人とも死んでいるのだ。あの世で再会したとしても、不自然ではない。
『それよりも、だ。ずっと見てたぜ、お前の戦い。だいぶ苦戦してるようだな』
「……ええ。あの単眼の力が、思っていた以上に厄介過ぎて……。死者蘇生も封じられた上で、殺されてしまいましたし……」
『大丈夫だよ。あたしたちが、アゼルに力を貸してあげる』
落ち込むアゼルに、カイルとは別の声が届く。声のした方を見ると、そこにはリジールが立っていた。
「リジールさん!」
『ありがとう、アゼル。闇霊を滅ぼして、仇を討ってくれて。今度は、あたしたちがアゼルを助ける番だよ。ねぇ、ドゥノン」
『ああ。久しぶりだな、アゼルよ』
リジールの呼び掛けに応え、闇の中からさらに一人現れる。姿を見せたのは、かつてカルーゾに仕えていた堕天神――ドゥノンだった。
「ど、ドゥノンさんまで!?」
『驚いたかな。私は、君に恩がある。君のおかげで、過ちに気付き贖罪を果たせた。その恩を返す機会が出来て、嬉しく思うよ』
「そんな、恩だなんて……。でも、ぼくを助けると言ってもどうやって?』
『オレたちの持つ死者としての魔力を全部、お前に流し込むのさ。そうすれば、魂が肉体に宿るための力もよみがえるはずだ』
『でも、その方法が使えるのはアゼルと強い繋がりも持つ者だけ。だから、あたしたちの出番なわけ』
「みんな……」
続々と現れる頼もしい仲間たちの言葉に、アゼルは感極まって涙を流す。が、その直後……。
『おう、オレ様も協力してやるってんだから感謝しやがれよアゼル』
「ぞ、ゾダン!? 何でお前まで!?」
『あ? 決まってんだろ。お前はオレに勝ったんだぞ? なのに、あんなつまんねぇ相手に負けて死ぬってのが気に入らねえんだ。死ぬんだったら、てめえの天寿を全うしてからにしろやボケ!』
言葉こそ汚いが、ゾダンもまたアゼルの復活を願っていた。死闘を繰り広げた宿敵として、ある種の絆が芽生えていたのだ。
「みんな……ありがとう、ございます」
『全く、泣き虫だなお前も。さあ、手を出しな。オレたちの力、全てを渡すから』
「はい! 分かりました、兄さん」
アゼルが手を前にかざすと、その上にカイルたちの手が重ねられる。温かくも冷たい、不思議な魔力がアゼルの身体の中に流れていく。
四人の持つ死者の魔力が、失われた魂の活力をよみがえらせる。肉体に留まるための力が復活し、アゼルの意識が遠退きはじめた。
魂が元の身体に戻り、蘇生しようとしているのだ。
『忘れるな、アゼル! オレたちはずっとお前と共にあるってことを!』
『あたしたちの力があれば、きっと単眼の魔力を打ち破れるよ! だから、諦めないでね!』
『今度こそ、引導を渡すのだ! 悪しき者に、永遠の眠りを!』
『また死にやがったらタダじゃ済まさねえからな! あの世の果てまででも追っかけて、ボコボコにしてやるぞ!』
「見ていてください……必ず、ラ・グーを……倒し、ます……から……」
カイルたちの激励に応え、アゼルは笑う。直後、少年の意識は闇に呑まれた。
◇―――――――――――――――――――――◇
「アゼルの仇だ! 例え刺し違えようとも、貴様だけはここで殺す!」
「やってみろ、闇縛りの巫女よ。あの小僧よりも、数段実力で劣る貴様らに出来るのならばな!」
その頃、現世では拘束が解けたリリンたちがラ・グーと死闘を繰り広げていた。アゼルの仇を討たんと闘志を燃やすが、一人、また一人と倒されてしまう。
「食らえや! 戦技、ヘルムクラッ」
「邪魔だ。邪戦技、カースブラスター!」
「ぐあっ!」
「シャスティ! 貴様、よくも!」
シャスティが倒れたのを皮切りに、次々と仲間たちが敗れ倒されていく。アンジェリカ、メレェーナ、アーシア。
魔戒王としてのラ・グーの圧倒的な強さの前に、残るはリリンだけとなってしまった。
「ぐ、くそ……。もう、ここまでなのか……」
「よく頑張ったが、所詮はムシケラ。我を倒すことは叶わぬ。貴様らも、あの小僧のように石にしてや」
「誰を、誰のように石にするですって? ラ・グー」
リリンたちにも石化の魔の手が伸びようとした、その時。復活を果たしたアゼルが、ラ・グーにそう声をかけた。
「アゼル! 生き返ったんだな……よかった、本当によかった」
「へへ、なんだよ……心配、させやがって……」
「アゼルさま……。アゼルさまぁ……!」
「あたし、信じてたよ。アゼルくんなら、絶対何とか出来るって」
「ふ、どうだラ・グー。貴様の思い通りになど、ゆかぬだろう……ぐ、ゴホ」
リリンたちは口々に喜びの言葉を呟き、涙を流す。一方のラ・グーは、必勝の策を破られ激しく動揺していた。
眼を見開き、大量の冷や汗を流しながら後ずさりする。その姿には、先ほどまでの余裕は欠片もない。
「バカな、あり得ん! 我の呪縛は完璧に効いたはずだ! なのに、何故生き返れる!?」
「力を貸してくれたんですよ。兄さんやリジールさん、ドゥノンさんにゾダンが。ぼくに生きろとね! チェンジ、重骸装モード!」
「死者が、そんな奇跡を起こすなど! あり得ぬ、あり得てはならぬ! もう一度、貴様をあの世に送ってくれるわ! 邪戦技、カースアイ・イレイザー!」
再びアゼルに引導を渡さんと、ラ・グーは見開いた眼から太いレーザーを放つ。が、アゼルに直撃する寸前でかき消されてしまう。
「な、何が起きた!? 我の技が消されるなど」
「ムダですよ。お前の攻撃はもう、ぼくに届かない。兄さんたちが、ぼくを守ってくれているから。ラ・グー、お前はぼくに勝てはしない!」
「黙れ! ならば、この聖礎ごと貴様らを消し去ってくれるわ! 最終奥義、カースロア・エクスプロージョン!」
追い詰められたラ・グーは、闇の魔力を凝縮させて大爆発を起こし、アゼルたちを纏めて消し去ろうとする。が、そんな真似はアゼルが許さない。
「そんなことはさせません! ぼくに宿る炎の欠片よ、今こそその力を解き放て! 戦技、ホーリーフレア・バインド!」
「ぐっ、なんだこの鎖は!? 縛られたところが、燃える……ぐっ、ガアアアア!!」
内に秘めた炎片の力を解き放ち、アゼルは無数の炎の鎖を呼び出してラ・グーの動きを封じる。聖なる力によって、凝縮していた闇の力が小さくなっていく。
「アゼル、今だ! 今なら、奴にトドメを刺せるはず!」
「分かりました、リリンお姉ちゃん! ラ・グー、覚悟! いでよ、ヘイルブリンガー!」
リリンの叫びに頷き、アゼルは己の得物を呼び出し走り出す。空中に吊り上げられたラ・グーは、単眼の力を使い攻撃を止めようと足掻く。
「やめろ、やめろ! こっちに来るな! 単眼の……」
「そんなものは、もう効かない! 戦技、プロミネンスフラッシュ!」
「ぐあああっ! 眼が、眼がああ!」
眼を見開いたところに強烈な光を浴びせられ、単眼の呪縛は不発に終わった。アゼルは持てる魔力を全て、ヘイルブリンガーに注ぎ込む。
すると、斧が陽光を思わせる黄金の輝きに包まれ周囲を照らし出す。正真正銘、最後の一撃が今――宿敵へと放たれるのだ。
「これまで使わなかった、七つ目のルーンマジック。それは、お前を殺すためだけに存在している最後の切り札だ! 食らえ、ラ・グー! サンライトルーン……ジャッジメント・デイブレイカー!」
「ぐっ……があああああ! バカな、魔の王たる我が……敗れる、のか。こんな、ちっぽけな……ムシケラ、相手……に……。いやだ、我は……まだ、死にたくな……」
金色に輝くヘイルブリンガーに切り裂かれたラ・グーは、絶望に呑まれながら消滅していった。最後まで、生に執着しながら。
「さようなら、ラ・グー。これで……お前の野望も、完全におしまいです」
遥か空の彼方を見ながら、アゼルはそう呟く。――今、真なる大地の夜明けがもたらされたのだ。
全ての王の意志を継ぐ、次代の希望の手によって。




