299話―単眼の魔王、降臨
「何をするつもりかは分かりませんが、やらせませんよ!」
『妨害などさせぬわ! これでも食らえ!』
「! 身体が、動かない……!」
トドメを刺そうとするアゼルたちに、眼球だけとなったラ・グーは黒い波動を浴びせて動きを封じる。その後、上空へ浮かび上がり魔力を解き放つ。
『冥土の土産に見せてやろう。我が混沌たる闇の意志より授かった、魔戒王の力を! アーシア、貴様の父グランザームをも越える究極の強さをその目に焼き付けるがいい!』
そう叫ぶと、粘土を捏ねるように眼球が変形していく。途中から黒い霧に包まれ、完全に姿が隠れてしまう。
身動きが取れないアゼルたちは、ラ・グーが変化していく様を見ていることしか出来ない。そして……。
「さあ、刮目して見るがいい! これが我の王としての姿だ!」
霧が飛散し、ラ・グーが姿を現す。翼が生えた大蛇から、黒い法衣を着た人間の女へ変わっていた。髪の毛は無数の蛇になっており、眼はこれまでと変わらず単眼だ。
「そんなのが真の姿なんですの? どんな化け物になるかと思えば、拍子抜けですわね」
「侮るなよ、小娘。我の真の力を見せてやる!」
アンジェリカにコケにされたラ・グーは、顔を歪めながら両腕を振りかざす。すると、アゼルたちの身体が自由に動かせるようになった。
同時に、ライフルが元の二丁拳銃に戻ってしまう。ラ・グーの魔力が干渉し、結合を解いてしまったようだ。
「このまま貴様らをなぶり殺すことも出来るが、それではつまらん。我に歯向かった愚かさを徹底的に刻み込んでから殺してやろう!」
「フン、やれるものならやってみろ! サンダラル・レイン!」
「容赦はせん! 冥門解放、参の獄! 『旋壊掃射』!」
素早く後ろに下がり構えを取るラ・グーに、リリンとアーシアが先制攻撃を放つ。雷の矢と闇の槍が雨あられの如く襲いかかる。
「くだらぬ。数を揃えたところで意味などない! 暗黒魔法、単眼の呪縛!」
「バカな! 私たちの攻撃が……」
「砂にされた、だと!?」
眼を見開き、ラ・グーは己の分身であるガルファランも用いた忌まわしき魔法を唱える。すると、勢いよく飛来していた矢と槍が砂になり消滅してしまう。
「飛び道具がダメなら白兵戦です! 皆、いき」
「させぬ。まずは貴様からだアゼル! 他の者どもは退いてもらおうか!」
これはまずいと危機感を抱き、アゼルを先頭に全員で仕留めにかかろうとしたとしたその時。アゼル以外の五人の身体が、黒いリングで束縛される。
そのまま遠くへ弾き飛ばされたうえ、アゼルの元に戻れないようそれぞれが小さなドーム状のバリアの中に囚われてしまう。
「お前、皆に何をした!」
「邪魔者どもに消えてもらっただけだ。貴様が死にゆく姿を、たっぷりと見せつけてから殺す。だから……存分に苦しみ、絶望しろ! アゼル!」
「そんなのはお断りですね! チェンジ、剣骸装モード!」
一対一の状況に追い込まれても、アゼルの心は折れない。覇骸装を変化させつつ武器を消し、素早くラ・グーに飛びかかる。
「くっ、ここまできてアゼルを応援することしか出来ぬとは……!」
「くやしい……! でも、このリングぜんぜん取れないよー!」
「ちくしょうめ、ラ・グーの野郎よくもやりやがったな! ここから出たらブチのめしてやるからな! 覚悟しやがれ!」
場外送りとなったリリンたちは、アゼルの助けになれないことを悔しがる。今の彼女たちには、アゼルの勝利を祈りつつ、もがくことしか出来ない。
「ガルファランを倒した時のように、お前も始末してやる!」
「やれるものならやってみろ。貴様の持つ蘇生の力を以てしても、我には勝てぬぞ! 邪戦技、ウィップネスブレイド!」
ラ・グーは後ろに飛び退きつつ、己の左腕を蛇腹状の刃を備えた鞭へと変えてアゼルに向けて振り抜く。ステップで避けながら、アゼルは距離を詰める。
「そんな古いネタ、もう見切り済みなんですよ! 戦技、アルティメイタムソード!」
「ムダだ、そんなもの我には届かぬ! 単眼の呪縛!」
相手の喉を狙い、アゼルは腕を突き出す。が、ラ・グーの単眼の呪いによって右腕に装着されていたブレードが砂になってしまう。
即座にもう片方のブレードで薙ぎ払おうとするも、腕を掴まれ攻撃を止められてしまった。万力のような握力があり、振り払えない。
「このっ、放しなさい!」
「ああ、いいとも。放してやろうではないか、こんな風にな!」
「うあああっ!」
「アゼル!!」
ラ・グーはアゼルの左腕に鋭い蹴りを放ち、へし折ってしまう。痛みに呻いているところへ、追撃の回り蹴りを叩き込み吹き飛ばす。
花畑を転がり、アゼルは折られた腕の痛みに顔をしかめる。一方のラ・グーは、己の持つ圧倒的な強さに酔いしれていた。
「ククク、素晴らしい。これが王の力か! この小さなヒトの身体に、はち切れんばかりの魔力がたぎっているのを感じるぞ。これなら……ヌッ!」
「ごちゃごちゃと……うるさいんですよ!」
アゼルは痛みに耐えつつ覇骸装を射骸装モードに変え、ラ・グーの眼を狙い矢を放つ。攻撃は避けられてしまったが、体勢を立て直す猶予は生まれた。
「今のうちに、蘇生の炎で腕を!」
「フン、相変わらず忌々しい力だ。だが、もうすぐ無意味になるがな」
自死からの蘇生による怪我の治療を行うアゼルを見ながら、ラ・グーは意味深な言葉を呟く。体勢を立て直したアゼルは、スケルトンの群れを呼び出す。
「サモン・スケルトンナイツ! 皆、ラ・グーに攻撃です! 戦技、ボーンラッシュアロー!」
「たかだか五十体程度で、王の力を解放した我に勝てるものか! 邪戦技、ゴルゴニアンウェーブ!」
「まずい、逃げろアゼル!」
スケルトンたちを前衛にして、アゼルはその後ろから援護射撃を行う。対する、ラ・グーは地中から闇の魔力で出来た無数の大蛇を呼び寄せる。
あまりの禍々しさに、リリンは逃げるよう叫ぶ。が、ラ・グーが獲物を逃がすことはない。スケルトンたちは、大蛇の群れに貪られ全滅してしまう。
「そんな、スケルトンたちが!」
「ククク、あっけないものだなぁ? 精強なスケルトンどもが、一瞬で全滅だものな!」
「まだです! まだ終わりません!」
「いいや、もう終わりだ。そろそろ、貴様には滅びてもらおうか。単眼の呪縛!」
スケルトンが全滅してなお、アゼルは諦めない。狙いをつけて矢を射とうとするも、単眼の力によって動きを止められてしまう。
「また、動きが……!」
「待ち望んでいたぞ、この時を。貴様を永遠の闇に葬り、雪辱を晴らす瞬間を!」
「ムダだぞ、ラ・グー。アゼルには死者蘇生の力がある! 何度殺しても無意味だ!」
「そうだ、アーシアの言う通りだぜ!」
「果たして、本当にそうかな?」
アゼルの眼前に立ち、愉悦に顔を歪ませるラ・グーにアーシアとシャスティがそう叫ぶ。が、単眼の魔戒王は態度を変えない。
カッと眼を見開き、アゼルに呪いの力を送り込む。すると、少しずつアゼルの身体が石に変わっていく。
「な、なにあれ!? アゼルくんが石になっちゃってるよ!」
「ラ・グー、お前、ぼくに何をした!」
「ククク、貴様の持つ蘇生の力を封じさせてもらっているのだよ。肉体は石となる、だが……死ぬわけではない。仮死状態になり生き続けるのだ、永遠にな!」
手足の先から、ドンドン石化が進行していく。身動きの取れないアゼルたちは、ただ見ていることしか出来ない。
「だが魂は別だ。肉体が完全に石になった時、貴様の魂は身体に宿るための力を完全に失う! そうなれば、いくら蘇生の炎を受けようとも貴様は生き返れないのだ! クハハハハハハハ!!」
「兄さんや、リジールさんと同じ……」
「そんな、それじゃアゼルさまはもう……!」
ラ・グーの高笑いを聞きながら、アゼルたちは顔を青ざめさせる。すでに、首から下は完全に石に変わってしまっていた。
アゼルの顔を覗き込み、ラ・グーは声をかける。
「さようなら。我が宿敵よ」
「――!」
アゼルが声を出そうとした直後。一気に石化が進行し、アゼルは物言わぬ石像に変わり果てた。リリンたちが絶句するなか、ラ・グーは勝利の叫びをあげる。
「クハハハハ!! これで、我の勝利だァァァァ!」
どこまでも続く花畑に、邪悪な叫びが響き渡った。
◇―――――――――――――――――――――◇
「う……ここは、一体」
目を覚ましたアゼルは、真っ暗な空間にいた。頭がボーッとしていたが、少ししてこれまでのことを思い出す。
「そうだ、ぼくはラ・グーにやられて……。死んじゃったんだ」
拳を握り、悔しそうに顔を歪める。試しに蘇生の炎を出して復活してみようとするが、全く出る気配がない。
ラ・グーのいった通り、魂が肉体に留まるための力が失くなってしまったのだ。がくりと崩れ落ち、アゼルは涙をこぼす。
「このままじゃ……皆も、殺されちゃう。でも、今のぼくには……」
『おいおい、お前らしくもないな。まだ諦めるのには早いだろ?』
「え!? こ、この声は!」
その時。絶対に聞こえてくるはずのない声が、アゼルの耳に届く。顔を上げると、そこには――すでに死んだはずの、カイルがいた。




