298話―単眼の蛇竜を打ち倒せ!
眼前で起こった爆発をモロに受け、ラ・グーは身悶える。それでも、眼球には傷一つ付いていない。
薄い魔力の防護膜を張り巡らせ、眼を守っているようだ。今のうちにと、アゼルたちは猛攻を仕掛ける。
「今です! 全員で総攻撃を! 戦技、アックスドライブ!」
「任せろ、アゼル! サンダラル・アロー!」
「特大のを食らわせてやるぜ! 戦技、スターダストハンマー!」
「ならば余も! ダークネス・ストラトス!」
アゼル、リリン、シャスティ、アーシアの四人が一斉に攻撃を叩き込む。相手の巨体故に下半身にしか届かなかったが、大ダメージを与えられた。
「ぐうううっ! おのれ……ムシケラ風情が調子に乗るな!」
「だ、ダメ……これ以上は抑えられない! みんな、離れて!」
怒りで顔を歪ませ、ラ・グーは力強く両の翼を羽ばたかせる。メレェーナの超重力によって地上に押さえつけられていたが、その枷を外そうとしていた。
凄まじい怒りによって、リミッターが外れているようだ。メレェーナの力と魔法をもってしても、浮上を阻止することが出来ない。
「うひゃあっ!」
「まずは貴様だ、菓子女! 我を侮辱したこと、死を以て償わせてやる! ギガテイル・ハンマー!」
「メレェーナさん、危ない! バインドルーン、キャプチャーハンド!」
拘束が解けた衝撃で倒れ込んだメレェーナに、勢いよくしっぽが振り下ろされる。間一髪のところでアゼルが救出し、事なきを得た。
「ありがと、アゼルくん。もうちょっと長く拘束しとければよかったんだけど……」
「いえ、あれだけ攻撃を叩き込めたんですから十分ですよ。ただ……空に逃げられたのはちょっと厳しいですね」
遥か上空へ飛翔したラ・グーを見上げながら、アゼルはそう呟く。身体をななめに傾け、ギョロリとした眼で地上を睨みながら、ラ・グーは闇の力を溜める。
「一度空へ舞い上がれば、もうこちらのものだ。一人残らず消し炭にしてくれる! カオスソニック・ブラスター!」
「危ない、避けろ!」
ラ・グーは溜め込んだ闇の魔力を口に集め、地上にいるアゼルたち目掛けて衝撃波を放つ。リリンの叫びに応じて、アゼルたちは攻撃を回避しようとする。
が、再び単眼が怪しく輝き土の柱が隆起する。アゼルたちの行動を妨害するべく、バロルキネシスを用いて逃げ道を塞いでいるのだ。
「くっ、邪魔だこの……ぐあっ!」
「シャスティお姉ちゃん!」
「まずは一人! 残りの奴らもすぐに殺してやろう! 何度生き返ろうが問題ない。もう二度と生き返りたくないと思うようになるまで! 苦痛に満ちた死をくれてやる!」
「……んのやろ、こっちの攻撃が届かねぇからって調子コキやがって!」
俯瞰視点からの巧みな妨害により、シャスティが最初の犠牲者になってしまう。幸い、事前にアゼルがかけておいた蘇生の炎によってすぐ生き返ったが。
「まずいですね、こうも相手の攻撃が激しいとボーンバードに乗って飛ぶこともままなりませんよ」
「むう……土柱を蹴って飛び上がろうにも、そんなことをすれば衝撃波の餌食だ。いくら余でも、アレの直撃を食らえばひとたまりもない」
「わたくしの操気二種はあんな高度までは届きませんし、覇骸閃はじっくり狙いをつけないと当たりませんし……八方塞がりですわ!」
もう一度ラ・グーを地上に落とそうにも、激しい攻撃を掻い潜り接近するすべがアゼルたちにない。となれば、残る戦術は一つ。
地上から直接ラ・グーを攻撃し、地に叩き落とすのみ。それ以外に、活路はない。
「アゼル、どうする!? このままでは、じわじわとやられてしまうぞ!」
「……一つだけ、方法がないこともないです。ただ、上手くいくかは五分と五分……賭けになりますよ、リリンお姉ちゃん」
「それでもいい! 私たちに手伝えることがあれば、全力で支援するぞ!」
「ごちゃごちゃと何を喚いている! さっさと滅びるがいい! バロルキネシス、出力上昇!」
反撃の策を実行しようとしているアゼルたちを仕留めるべく、ラ・グーはさらに攻撃を激化させる。先ほど見せた土塊による攻撃も加わり、勢いは止まらない。
「わわわわ、まずいよアゼルくん! これはいつまでも避けられない!」
「今から、一人ずつ順番に皆のところに向かいます! ぼくが来たら、少しでいいので魔力を分けてください!」
「いいぜ、任せな! アゼルならキッチリ、あの野郎に一泡吹かせられるって信じてるぜ!」
「ええ、任せてください!」
猛攻を掻い潜りながら、アゼルは仲間たちの元に向かう。リリンたちは降り注ぐ衝撃波や土塊から逃げ回りつつ、アゼルが来るのを待つ。
「アゼル、こっちだ!」
「分かりました、リリンお姉ちゃん! 今そっちに行きます!」
「奴らめ、何をする気だ? まあいい、何をしようとも無意味だ。どうせ、ここで奴らは死ぬのだ。少しばかり遊んでやろう……クッククク」
アゼルたちの目論見など知ることもなく、ラ・グーはそう呟きほくそ笑む。これまで手を煩わせて来た者たちを、徹底的に弄んでから殺すつもりだ。
土柱を操作し、わざと道を塞いでアゼルが仲間と合流しにくくなるよう仕向ける。どこまでもアゼルたちを小バカにしていた。
「もう、邪魔! こんな柱、すり抜けられれば……あ、そうだ! こんな時には……奥義、レイスフォーム!」
進路妨害により思うように進めず、苛立つアゼル。そんな時、レイスフォームの存在を思い出す。
極めて短い時間だが、物体をすり抜けることが可能なのだ。しかも、インターバルもほとんどいらない。
「これなら障害物なんて関係ありません! 皆、すぐに行きますね!」
「なんだ、あの姿は! 闇霊……いや、違う。まあいい、小細工をしようが運命は変わらぬ!」
金色に輝く霊体となったアゼルを遠目に見ていたラ・グーは驚くも、すぐに持ち前の傲慢さを発揮しバロルキネシスを続行する。
それが、致命的なミスだとも気付かずに。その間にも、アゼルは仲間たちの元を巡り魔力を受け取っていく。
「アゼルさま、わたくしで最後ですわ!」
「ありがとうございます、アンジェリカさん! これで……準備は整いました! 後は、これを使うだけです!」
全員から受け取った魔力をタリスマンに封じ込めてストックしつつ、アゼルはあるものを呼び出す。それは、カイルの形見である二丁の拳銃と、タリスマンだった。
タリスマンに宿るカイルの記憶を頼りに、アゼルは二丁の拳銃を融合させていく。
「兄さん、ぼくに力を貸してください! 皆から集めた魔力を、二つのタリスマンで増幅させれば……!」
「な、なんだありゃ!? 銃が……融合しやがった!」
「あんな細長い筒、あたしも見たことないよ! アゼルくん、何するつもりなんだろ?」
ラ・グーの攻撃を避けつつ、シャスティたちはアゼルの行動を見て驚く。長距離狙撃用のライフルへと姿を変えた銃を構え、アゼルはラ・グーを狙う。
引き金に指をかけながら、アゼルは呟いた。
「より遠く、より速く、より強く! 兄さんのように、正確に……ラ・グーを貫いてみせる! 発射ぁぁぁぁぁ!!」
タイミングを合わせ、引き金を引くと弾丸が放たれる。アゼルの想いと、仲間たちの魔力。そして、カイルの遺志が込められた弾丸は、まっすぐラ・グーの元へ向かう。
「クハハハ! そんなちっぽけな鉄の塊など消し炭にしてくれるわ! カース・ブレス!」
「負けない! ぼくたちの想いは、そんなものには絶対に! 」
「バカな、我のブレスを貫いて……グッ、ガァァァァァァ!!」
弾丸の勢いは衰えず、ブレスの中を突き進み――ラ・グーの眼を貫いた。凄まじい叫びをあげた後、単眼の蛇竜は力を失い地に落ちる。
それと同時に、バロルキネシスの効果も消えた。身動き一つしないラ・グーを見て、アゼルたちは歓声をあげる。
「やったな、アゼル! これでクソトカゲ野郎も終わりだ!」
「わーいわーい! さっすがアゼルくん、かっこよかったよ!」
「ああ、本当に。素晴らしい勝利だよ。余も感無量だ」
シャスティ、メレェーナ、アーシアの三人は勝利を喜び、アゼルを讃える。リリンとアンジェリカも、満面の笑みを浮かべていた。
「一時はどうなるかと思ったが、一人も欠けることなく勝ててよかった。本当にな……」
「ええ、わたくしたちもお役に立てて嬉しく思いますわ!」
「はい! さあ、ギャリオン様のところにかえ」
『何を喜んでいる? まだ我は滅びてはおらぬぞ』
ギャリオンの元に帰ろうとした、その時。息絶えたはずのラ・グーの頭部から転がり落ちた眼球から禍々しい声が響く。
「まさか、まだ生きて――!?」
『そうとも。まだ我は滅びてはおらぬ。魔戒王としての力は、まだ使っておらぬからな。見せてやろう、大いなる闇の王としての我が姿を!』
眼球が浮き上がり、禍々しい黒い光を放つ。邪悪なる魔の王が、今――真の姿を解放しようとしていた。




