297話―最後の戦い、始まる
「ラ・グー!? お前、どうやってここに!」
「ククク、貴様に宿る生命の炎の魔力を追ってきたのだよ。おかげで、邪魔者どもを纏めて始末出来るというわけだ!」
「! させない! サモン・スカルタイタン!」
突然の襲来に驚くアゼルに、ラ・グーはそう答えながら急降下する。狙うは、ギャリオンが暮らす水車小屋だ。
それに気付いたアゼルは、骨の巨人を呼び出しラ・グーにぶつける。無理矢理軌道を変えさせ、小屋から離れた花畑に叩き落とす。
そのまま相手を押さえ込もうとアゼルはスカルタイタンを操るも、怪しげな眼光を浴びて骨の巨人は消滅してしまった。
「スカルタイタンが一瞬で……!」
「ククク、ムダなことだ。チャチな骨など歯牙にも掛けぬわ!」
「……相変わらず、傲慢極まりないなラ・グーよ。その不遜さ、いっそ懐かしく感じる」
「出てきたか、ギャリオン。ククク、我には分かるぞ。いくら見た目を若く取り繕おうとも、肉体の衰えからは逃れられぬようだな」
スカルタイタンを始末したラ・グーは、小屋から現れたギャリオンにそう声をかける。アゼルたちに見詰められるなか、かつての王は頷く。
「そうだな。今の私は、炎片を維持するために全ての力を捧げ、失った燃え殻。お前を倒すことなど、到底不可能だ」
「クハハハ! 情けないものだな、え? ハリボテの王とは片腹痛い」
「だから、代わりにぼくたちが戦う! ラ・グー、今日ここでお前を倒す!」
「我を倒すだと? やれるものならやってみるがいい! 貴様らのはらわたを引きずり出し、残さず喰らい尽くしてくれるわ!」
勇ましく叫ぶアゼルを睨み付けながら、ラ・グーは大きく眼を見開き翼を広げる。それに呼応するように、アゼルたちもそれぞれの得物を呼び出す。
「ラ・グーよ。貴様の野望もここまでだ。余が直々に貴様を裁いてくれる! 二度と抜け出せぬ永遠の闇の中に沈むがいい!」
魔槍グラキシオスを構え、闇の力をほとばしらせながらアーシアが叫ぶ。
「千年前は、四王の力を以てしても貴様を殺せなかった。だが、今回は違う。アゼルと共に、今度こそ引導を渡してくれようぞ!」
一行で唯一の炎の聖戦の経験者であるリリンは、かつてのリベンジをせんと闘志をみなぎらせる。
「ああ。最後の怪物退治といこうぜ。そのでっけぇ目玉、アタシのハンマーで叩き潰してやるから覚悟しな!」
愛用のハンマーを担ぎ、シャスティは不敵な笑みを浮かべラ・グーを見上げる。
「ここまで来たのですから、最後までフルスロットルで行きますわ! この大地に生きる全ての者たちのためにも、負けられません!」
身体強化の魔法を自身に施しつつ、独特なファイティングポーズを取りながら、アンジェリカは決意を叫ぶ。
「腐っても神様だもんね、悪い闇の眷族はやっつけちゃうよ!」
これまでにないほどのやる気をみなぎらせ、メレェーナはフンッと気合いを入れる。皆、最後の戦いへの備えは万端だ。
ギャリオンをのぞいた全員が小屋から離れ、ラ・グーを滅ぼさんと走っていく。それを見た単眼の蛇竜は、小バカにしたように笑う。
「フン、どれほど集まろうが所詮ムシケラはムシケラに過ぎぬ。それを嫌というほど分からせてやろう! スケイルスコール!」
「やらせはしません! ガードルーン、イジスガーディアン!」
ラ・グーが身体をよじると、剥がれ落ちた無数の鱗が鋭いつぶてとなってアゼルたちに豪雨のように降りかかる。アゼルは仲間たち一人ひとりをドーム状のバリアで守り、攻撃をやり過ごす。
「ギャリオン様はその中に隠れていてください! ちょっとやそっとじゃ壊れませんから!」
「分かった! 偉大なる勇者たちよ、武運長久を祈るぞ!」
小屋ごとバリアに包まれたギャリオンは、アゼルたちの勝利と生還を願い祈りを捧げる。相手の攻撃がやんだのを見計らい、まずはアーシアが仕掛けた。
バリアの外に出て、右手に持った槍を振るう。
「我らはみな、この旅で強くなった。それを教えてやる! 受けてみよ! ダークネス・ストラトス!」
「そんなもの、押し返してくれるわ! カース・ブレス!」
螺旋状の闇の衝撃波が槍から放たれ、ラ・グーに襲いかかる。余裕で跳ね返せるとばかりに、ラ・グーの口から闇の炎が放たれた。
が、炎を受けても衝撃波の勢いは衰えず、逆にブレスを切り裂き突き進んでいく。そのままラ・グーの胴体に直撃し、強靭な鱗を貫き肉を抉る。
「ぐうおあああ!! バカな、一介の大魔公に王たる我が力負けするだと!?」
「余を侮るなよ、ラ・グー。暗域でも一、二を争う名門の血が余の中に流れている。単なる叩き上げの貴様になど負けるものか」
「黙れ! 青二才が、減らず口を叩くな! ギガテイル・ハンマー!」
プライドを傷つけられたラ・グーは激昂し、アーシアを狙ってしっぽを振り下ろす。そこにメレェーナが割り込み、ペロキャンハンマーでしっぽを受け止めた。
「なんだ貴様は、邪魔をするな!」
「おーっと、させないよ! リリーン、今だよー!」
「任せろメレェーナ! バイドチェーン!」
神の腕力をもってすれば、巨大なしっぽを受け止めることは造作もないようだ。メレェーナの呼び掛けを受け、リリンは封印魔法を唱える。
ペロキャンハンマーにラ・グーのしっぽを縛り付けて身動きを取れないようにするつもりだ。当然、ラ・グーはすぐにそれを看破する。
「フン、こんな鎖で我の動きを封じることなど」
「出来まーす! 粒々キャンディ、超重力モード!」
「ぐっ、重……!? な、なんだこの滅茶苦茶な魔法は!」
ペロキャンハンマーごとしっぽを振り回そうとするラ・グーに対し、メレェーナは服に仕込んでいた大量の粒型キャンディを魔法で重くした。
破天荒な戦法に、思わずラ・グーは戸惑いを見せる……が、すぐに冷静になり眼を光らせる。すると、大地が割れ、無数の尖った土の塊が宙に浮かぶ。
「動けぬのであれば、相応の戦術に切り替えるまで! 我が単眼に宿るバロルキネシスの力、見せてくれる!」
「皆さん、警戒してください! 攻撃が来ます!」
「全員纏めて挽き肉にしてくれるわ!」
「なら……フレアシャワー!」
土の塊が落ちてくるなか、万が一に備えアゼルは自身を含め仲間たちに蘇生の炎を与える。これで、ある程度の備えにはなった。
「チッ、滅茶苦茶なことしやがるぜ! 生き残りたきゃ、あの土くれを全部叩き壊せってか!」
「クハハハハ! 貴様らの力を以てしても、全ての土塊を破壊することなど不可能だ! いくらでも造り出せるのだからな!」
四方八方から飛んでくる土の塊を破壊して攻撃を防ぐシャスティたちに、ラ・グーは余裕の声をあげる。聖礎全域に働く太陽の炎片の力により、抉れた土が即座に再生するのだ。
これでは、いくら攻撃を防いでもキリがない。いずれジリ貧になり、全員纏めて土の塊にすり潰されてしまうだろう。
「まずいですわね、メレェーナさん以外自分の身を守るので精一杯……。なら、ここはわたくしが! 戦技……操気・餓捨髑髏!」
「アンジェリカさん、一体何を!?」
「土くれを壊し続けても意味がないのなら、攻撃の発生源を直接叩きますわ! ガシャドクロ、行きなさい!」
「死ニサラセ! シャッコラーッ!」
相手の攻勢を止めるための、もっとも適した手段。それは、ラ・グーを直接叩いてバロルキネシスを中断させること。
そう考えたアンジェリカは、ガシャドクロを飛ばしてギョロリと見開かれた単眼を狙う。
「させぬわ!! まずは、そこの小娘から始末してくれ」
「モウオセー! クタバリヤガレクソトカゲーッ!」
攻撃の矛先がアンジェリカに向けられるも、もう遅かった。ガシャドクロがラ・グーの眼前に到着し、大爆発を起こす。
「ぐうあああ!!」
「よくやってくれました、アンジェリカさん! これで、バロルキネシスを中断させられましたよ!」
「おーっほっほっほっ! これがわたくしの頭脳プレーでしてよ!」
アンジェリカの機転により、アゼルたちは序盤の攻防を制することに成功した。しかし、これで勝ったわけではない。
最後の戦いは、まだ始まったばかりなのだから。




