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291話―闇の王『死念纏い』ゾア

 時は少しさかのぼる。像に呑み込まれたカイルは一人、ラバド霊山の最深部に送り込まれていた。どこまでも続く回廊の途中に倒れていたカイルは、目を覚まし起き上がる。


「ここは……ああ、なるほど。老師め、まずはオレから始末するつもりだな。望むところだ、一人の方がこっちとしても都合がいい」


 一定の間隔で壁に並べられた松明の列が、回廊の先を照らし出す。その向こうを見ながら呟いた後、カイルは懐から一粒の丸薬を取り出した。


 じっと手のひらの上にある薬をみつめた後、口に入れてゴクリと呑み込む。そして、回廊の奥へ向かって歩いていく。


「……この廊下を歩くのも、今日が最後になるな。老師ゾア。今日でオレとお前の師弟関係も終わりだ」


 回廊の行き止まりには、大きな観音開きの扉があった。全体にヒトの皮膚を張り付けて造られた、悪趣味なモノだ。


「ゾア! 久しぶりにあんたの一番弟子が帰ってきてやったぜ!」


「……来たか。待っておったぞ、この日が来るのを。お前がこの地を去ってから、ずっと、ずっと――待ちわびていた」


 扉を開け、カイルは玉座の間に足を踏み入れる。腰に下げた銃に手を伸ばしつつ大声で叫ぶと、玉座の方からしわがれた声が響く。


 骸骨のように痩せ細った老人――霊体派ネクロマンサーを束ねる総帥、ゾアがそこにいた。異様なまでにギラついた目をカイルに向け、老人は笑う。


「ああ、そうかい。にしては、歓迎の準備が出来てねえな」


「いいや、準備は万端だとも。お前と儂の二人がここにいる。それ以上望むモノなどあるまい?」


「ハッ……そりゃそうだな! 戦技、クイックショット!」


 カイルが閑散とした玉座の間を見渡し、フッと笑った直後。目にも止まらぬ速度でホルスターから二丁の拳銃を引き抜き、ゾアへ向けて発砲した。


「ぬ、ぐぉっ……」


「心臓と頭に一発ずつだ。これなら、確実にあんたを殺せる」


「くだらぬ浅知恵よのう。その程度の小細工は何の意味もないと、お前なら分かるだろうに、なぁ。カイルよ」


「……チッ。相変わらずイヤな魔法だよ、ソレ」


 カイルが放った二発の弾丸は、確かにゾアの心臓と脳を貫き息の根を止めた。だが、すぐに息を吹き返し嫌味たっぷりな笑みを浮かべる。


 自身の体内に宿した命を身代わりにして、死を免れたのだ。ゾアは玉座から立ち上がり、滑るようにカイルへ接近していく。


闇霊(ダークレイス)の王、『死念纏い』ゾアの力を今一度よぅく味わうがよい。お前自身の死を以てな! 邪戦技、レイスブレイド!」


「そう簡単にゃ当たらねえよ! バレットスキン、ブーメランバレット!」


「ぬ……ぐうっ!」


 刀身にいくつもの顔が浮かんだ禍々しい湾曲剣を呼び出したゾアは、カイルに向けて得物を振り下ろす。カイルは攻撃を回避しつつ、弾丸を放つ。


 放たれた四発の弾はゾアの横をすり抜け一定の距離を進んだ後、ブーメランのようにUターンする。がら空きの背中を貫き、再び息の根を止めた。


「今の攻撃で、左右合わせて六発撃ったな? 残りは片方三発ずつの計六発。二発で一回儂を殺せるとしても、一億の残機(ストック)を削りきるのは非現実的だのう」


「いちいちうるせえな! んなこと、こっちもよーく分かってるんだよ!」


 すぐに息を吹き返し、ゾアは剣を振るう。カイルは残りの弾丸を全てバラ撒き、足止めしつつ後退する。


「安易に下がるのは得策ではないのう、カイル。死念招来、ジャバル!」


「!? この鳥籠は……くっ!」


 一旦距離を取って弾を装填(リロード)しようとするカイルだったが、背後にイヤな気配を感じ横に飛び退く。直後、後ろから迫ったきた鳥籠がカイルのいた場所を通り過ぎていった。


「忘れたか、カイルよ。儂はお前を含めた全ての闇霊(ダークレイス)の魂の一部を取り込んでおる。こうして配下たちの技を使うことなど造作もないということを」


「忘れちゃいねえよ。あんたから教わったことは、一つ残らず全部覚えてるさ! バレットスキン、ボマーバレット!」


 素早く装填(リロード)を済ませたカイルは、弾丸に爆発の魔力を宿し鳥籠を狙い撃つ。弾が直撃した鳥籠は派手に爆発して消滅する。


 これで凌いだ、と安心した次の瞬間。ゾアは嫌らしい笑みを浮かべ、さらに攻勢を強めてきた。徹底的にカイルを痛め付けるつもりらしい。


「まだ終わらぬぞ。死念招来、ビアトリク!」


「その人形は……! まずい!」


「まずは足だ。もう二度と歩くことも走ることも出来ぬよう、捻り切ってくれる!」


「チッ、させるか! 戦技、クイックショット!」


 ゾアの左の手のひらの上に、小さな球体関節人形が出現する。相手が何をしようとしているのかを察したカイルは、ゾアを止めようとする……が、一歩遅かった。


「ムダだ! グリネッグドール!」


「ぐう……あああっ!」


 カイルと人形の左足に禍々しい紋様が浮かび、繋がりが生まれる。ゾアが人形の足をねじ切ると、カイルの足も同様にねじ切られてしまった。


 膝から下を失ったカイルがその場に倒れ込むのと同時に、先ほど放った弾丸がゾアを貫く。カイルは右手の銃を乱射しつつ、左手に持った銃を自身の左足へ向ける。


「いっ、てぇ……! クソッ、まだ終わらねえぞ! バレットスキン、ヒーリングバレット!」


 相手を牽制しつつ足の治療をするが、傷口は塞げてもねじ切られた足は生えてこない。足の断面同時を押し付け合い、無理矢理魔法で繋げる。


「無様なものだのう、カイルよ。下らぬ情にほだされ、儂を裏切るからこんな苦しい思いをすることになるのだ」


「うるせえな、さっきからよ……。オレは自分の意思でここまで来た。この程度の痛みなんぞ、屁でもねえ」


「強がるな。滝のように脂汗を流しておるではないか。どうだ、今ならまだ後戻り出来るぞ。儂に土下座して詫びれば、また同胞として迎え入れてやろ……ぐうっ!」


「お断りだね。一度ならず二度までも、アゼルを裏切るつもりはない!」


 降伏を勧めてくるゾアの額に弾丸を叩き込みつつ、カイルは啖呵を切る。ふらつきながらも立ち上がり、もう一度攻撃しようとした次の瞬間。


 カイルの心臓を、強い痛みが襲った。胸を押さえ、カイルはその場に崩れ落ちる。


「ぐ、がはっ! ……へへ、ようやく()()()()()。これまで飲んできた丸薬の効果……ぐあっ!」


「何をブツブツと呟いている。最後の慈悲を拒絶したのだ、もう容赦はせん! 死念招来、ロマ! 邪戦技、ペインベルブーム!」


 滑るようにカイルに接近したゾアは、力任せに顔を蹴りつけ床に転がす。人形を消し、今度はロマの力を宿しオーラの斬撃を飛ばして攻撃する。


「ぐっ、くそっ!」


「くふはは。無様だ、実に無様なものだカイル。かつて儂の最高傑作だった面影などまるでない。いつまでそうやって、転げ回れるか楽しみだのう!」


 立って走るだけの猶予はなく、カイルはひたすら床を転がって斬撃を避ける。だが、いつまでも続けられるわけがなく、壁際に追い詰められてしまう。


「ヤベ……」


「終わりだな。死念招来、マンドラン! さあ、フィナーレといこうか」


 ゾアは左手を掲げ、拳を握る。すると、床や壁のヒビから大量の砂が湧き出しカイルに絡み付く。身動きを取れない状態にし、自分の元に引き寄せる。


「……どうやら、ここまでのようだな」


「そうだ。お前であれば、この後儂が何をするか……分かっていよう?」


「オレの命も取り込んで、残機(ストック)にしようって腹積もりだろ? だが、忠告しておくぜゾア。それはやめたほ……ぐあああ!」


「まだ立場が分かっておらぬようだな。お前はもう、終わりなのだ」


 砂が変形してハサミになり、カイルの右腕を根元から切断してしまう。苦悶の表情を浮かべ絶叫するカイルの顔面を掴み、ゾアは笑う。


「さあ、儂と一つになれ。お前の命は、一万年は生かしておいてやる。儂の体内で、永遠の苦しみを味わうがよい!」


「……そう、上手くいけばいいな。オレは忠告したぜ。取り込むのはやめとけってな」


「ほざけ! 奥義……魂喰らい(ソウルイーター)!」


 再度忠告するカイルに苛立ちながら、ゾアは禁忌の魔法を発動し彼を取り込み始める。だが、この時ゾアはまだ知らなかった。


 自分がまんまとカイルの術にハマり、致命的な間違いを犯してしまったことを。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり食われる前提の策か(ʘᗩʘ’) アゼルの気持ちも考えてんのかこのアホは(-_-;) せめて最後に兄弟揃って両親の墓参りぐらいしとけばあの世で両親が出迎えてくれたであろうに(ب_ب) …
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