290話―乙女たちの戦い・後編
「これだけの数をォォォォォ、たった二人で倒せると思うなァァァァァ! 全身を穿て、分身どもォォォォォ!!」
「ルァァァァァ!!」
どこからともなくアルダモスの声が響き、分身たちが一斉にシャスティとアンジェリカに襲いかかる。ハンマーと拳が宙を舞い、敵を砕く。
「オラッ!」
「ていやぁっ!」
「死ィィィね……ゲガッ!」
分身たちが攻撃を受け、粉々に砕け散る。が、次から次へと新たな分身が穴から姿を現し、尽きる気配が全くない。
このままでは埒があかないと考えたシャスティは、ハンマーをアルダモスの分身ではなく地面に向かって振り下ろした。
「ちっと眠ってな! 戦技、ガイアスリーパー!」
「ウォ……アァァ……」
「動きが鈍りましたわね、なら! 戦技……操気・餓捨髑髏! いっぱつかましておあげなさぁーい!」
「ウラメシヤー!」
眠りの魔力が地面に拡散し、分身たちの動きが鈍る。アンジェリカはすかさずガシャドクロを呼び出し、爆発させて相手を一網打尽にした。
「ヌォォォ、た、退避だァァァァァ!」
「出てきましたわね、逃がしませんわ! 戦技……操気・禍魔囲太刀!」
地面を揺るがす強い衝撃に耐えきれず、アルダモスは外に飛び出す。それを見逃さずに、アンジェリカがさらに畳み掛ける。
新たにカマイタチ三兄弟を呼び出し、コンビネーション攻撃を放つ。また地面や壁に逃げられては面倒なことになるからだ。
「さあ、おやりなさい! カマイタチ三兄弟、あの男へ攻撃するのですわ!」
「ヘイ、任せてくんな姐さん! カマ二郎、カマ三郎! いつものアレいくぞぉ!」
「まっかせろい! ヒャッハー!」
「おっけー」
「……な、なんだ? このまるっこい奴らは」
初めてカマイタチ三兄弟を見たシャスティは、思わず目を丸くして驚く。その間にも、三兄弟はアルダモスに突撃しコンビネーション攻撃を炸裂させる。
「食らえっ! イタチタックル!」
「SLASH! SLASH! ヒィィィハァァァ!!」
「わー、すり抜けるー。どんな薬なら効くかなー?」
「ゲフッ、いたっ! ちょ、やめ……ぐふっ!」
アルダモスはカマ一郎のタックルで宙を舞い、カマ二郎に切り刻まれ、カマ三郎に片っ端から毒薬を浴びせられなぶられる。
反撃もままならぬなか、我に返ったシャスティが動く。ハンマーを地面から離し、勢いよくふりかぶりながら走り出す。
「そんじゃあ、今のうちにトドメといくか! 離れときな、まるっこい奴ら! 戦技、ヘルムクラッシュ!」
「バァカめ、本体は無事なんだァァァ、そんな攻撃食らったところで……」
「問題ねえとか思うだろ? でも、そうじゃねえんだな! 今のアタシらは、直接てめぇをぶっ殺せるんだからよ!」
「何を……げはっ! そ、そんなァ……バカ、な」
シャスティの振り下ろしたハンマーを食らい、アルダモスは沈黙する。これまでの常識を覆す一撃によって、勝敗は決した。
「やりましたわね、シャスティ先輩! カマイタチ三兄弟も、お疲れ様ですわ」
「おうよ! また呼んでくんな、姐さん。いつでも手ェ貸すからな。引き上げるぞ、カマ二郎、カマ三郎」
「便利なモンだな、そいつら。さて、敵もぶっ殺したしアゼルたちと合流しようぜ。上に向かってきゃここを出られるだろ」
「だといいのですけれど。まあ、行ってみなければ分かりませんわね」
アルダモスを撃破した二人は、仲間と合流するため採掘場の外へ歩いていった。
◇―――――――――――――――――――――◇
「チッ、ヒラヒラフラフラと……! いい加減、当たったらどうだ!」
「やーだよ。本体さえ無事なら死なないけど、痛いものは痛いもん。だから、一方的に切り刻んじゃう! それっ!」
「おっと! フン、カメレオンの舌みたいによく伸びる腕だ」
一方、地底に広がる森では戦いが続いていた。不規則に宙を舞い、攻撃を避けていくヘレンナにリリンは苛立ちをあらわにする。
リリンは空中から伸びてきたヘレンナの腕を避け、鞭を叩き付ける。だが、頑丈な甲殻に守られた腕には傷一つ付かなかった。
「あっはっはっ、蚊に刺された程にも感じないよ。そんなぺちぺち攻撃……んっ、くぅ~、このタイミングでキちゃうかぁ~」
「な、なにあいつ!? 身体が変化してくよ!?」
「まさか……リアルタイムで変化し続けるタイプのキメラなのか? 全く、もう何でもアリだな!」
腕を引き戻したヘレンナの様子がおかしくなり、すぐ変化が現れる。蝶の羽根が鳥の翼に、獅子の下半身が馬へと変わっていく。
その様子を見たメレェーナとリリンは、思わず引いてしまう。骨や筋繊維が折れ、千切れる音が強い不快感をもたらしたからだ。
「う~、もうやだ! あんなのといつまでも戦ってたら頭おかしくなっちゃう! リリン、さっさとあいつ殺そ!」
「同感だ。とはいえ、地の利は奴にある。地形を利用して逃げ続けられたら、先にこっちの体力が尽きるぞ?」
「だいじょーぶ、あたしに任せて! とゆーわけで、ちょっとこっち来てリリン」
巨大キノコや生い茂る木を利用して攻撃を避けるヘレンナに対抗するべく、メレェーナは何かをやるつもりのようだ。
若干嫌な予感を覚えつつ、特に妙案が思い浮かばなかったリリンは彼女に従うことにした。メレェーナは胸の谷間に手を突っ込み、キャンディを取り出す。
「……一応聞いておくが、それで何をするつもりだ?」
「これをね、えいっと投げる! 増やす! 降り注いで大爆発! で、あいつは死ぬ。おーけー?」
「おーけーじゃない! 私たちまで巻き添えを食うだろうが!」
「だいじょーぶだいじょーぶ。当たんないように逃げればいいんだよ。そぉーれっ!」
「ま、バカやめ」
リリンが止めようとするも、遅かった。メレェーナはおもいっきりキャンディを空へブン投げる。すると、瞬く間にキャンディが分裂し、空を埋め尽くす。
「爆裂キャンディ、はっしゃー!」
「……いや、自分もただじゃ済まないって。あの娘、バカなの?」
えげつない数のキャンディを見上げ、ヘレンナが呟いた直後。一斉にキャンディが降り注ぎ、爆発を起こす。
「まずい、これは流石に耐えきれない! 逃げな……アアアアアア!!」
「くっ、仕方ない! メレェーナ、逃げるぞ!」
「あいあい! リリン、こっちこっち!」
慌てて森の中に逃げようとしたヘレンナだったが、間に合わず爆風の中に消えていった。一方、リリンたちは群生しているキノコの傘の下に逃げ込む。
キノコが盾となって爆風を遮ってくれている間に、二人は急いで地面に穴を掘る。二人が入れるほどの穴を掘った後、中に隠れた。
「あとは特製ペロキャンで蓋をしてっと。よーし、これでかんぺぷきゅ!」
「何が完璧だこの阿呆! 下手すれば私たちも死んでいたんだぞ!? アゼルから蘇生の炎を貰っているならまだしも、まだ貰えてないだろうが!」
「ほへんははーい……」
得意げなメレェーナの顔面に、リリンの肘が叩き込まれる。ガミガミお説教され、鼻を押さえつつメレェーナはしょんぼり謝った。
「ま、いい。これだけの爆発だ、奴もタダでは済むまい。爆発が止み次第、キメラ女の生死を確認しに行くぞ」
「あ、じゃあもうキャンディ消しちゃうね。ほいっ」
メレェーナが指を鳴らすと、爆発音がピタッと止まった。もはやツッコむ気力も湧かないリリンは、蓋をどかし外に出る。
「さて、奴はどこに……むおっ!」
「よくもやってくれたね。おかげでこっちはボロボロだよ!」
消し炭になったキノコの残骸を飛び越え、しぶとく生きていたヘレンナが襲いかかってきた。両腕の爪でリリンを挟み、潰そうと力を込める。
「しぶとい奴め、それだけボロボロになってもまだ元気とはな」
「当たり前じゃないか。本体さえ無事なら、どれだけ傷付いても問題はないからね!」
「ああ、今まではな。だが、今回は違う。私たちが、ただのファッションで光っていると思うか!」
「そゆこと。食らえー、ペロキャンチェーンソー!」
「何を……ぐああっ!」
背後からメレェーナに斬られたヘレンナは、直感で理解した。いつもとは違う、決定的な致命傷を負ったということを。
本体が無事でも、リリンたちの攻撃を食らい続ければ――死を免れられないという事実を。
「まずい、一回たいきゃ……くっ、放せ!」
「させると思うか? 逃がしはせん、絶対にな! これでトドメだ! サンダラル・ドリラー!」
「ああああああ! そ、そんな……がはっ」
逃亡しようとするヘレンナを鞭で捕らえ、自分の元に引き寄せたリリンは雷のドリルで身体を貫く。胴体に風穴を開けられたヘレンナは、そのまま息絶える。
「お前たちの無敵の神話は、もう終わりだ。あの世でよく見ていろ。闇霊の終焉をな」
「そゆこと! あっかんべーだ!」
ヘレンナを破ったリリンたちは、森の中を進む。上に戻り、アゼルたちと再会するために。
だが、この時まだリリンたちは知らなかった。ラバド霊山の最奥部で、カイルが決死の戦いを行っていたことを。




