288話―それぞれの決戦
「侵入者どもを殺せ!」
「ジェリドの末裔、覚悟しろ!」
「皆殺しにしてやるー!」
ラバド霊山内部へ侵入したアゼルたちを、闇霊の大群が出迎えた。リリンたちは一斉にシールに込められた魔法を発動し、敵を迎え撃つ。
「来やがったな、薄汚ねぇクズどもが。アタシらを怒らせたこと、後悔させてやる! 戦技、ドーンインパクト!」
「リジールの仇、討たせてもらうぞ。一人残らず死に絶えるがいい! サンダラル・アロー!」
「バカめが、霊体は不死身……ぐああっ!」
シールに込められたレイスフォームが発動し、リリンたちも黄金の輝きを放つ霊体になった。リリンとシャスティの先制攻撃が、油断していた敵をチリに変える。
「バカな、どうなっている!? 何故本体を介さずに我らをころ……ぐはっ!」
「うるさいですわよ、纏めて消えなさい!」
「くっ、撤退、てったぐあっ!」
「逃がさん、一人残らずここで死ぬがいい!」
アンジェリカとアーシアは、慌てて逃げていくネクロマンサーたちを攻撃し倒していく。そのまま敵を蹴散らしつつ進んでいくと、大きな広間に出た。
アゼルたちが入ってきたものを含め、四方に入り口らしく洞穴が広がり、その間に四体の像が設置されている。
「奴らが来たぞ、トラップを作動させろ!」
「させませんよ、そんなこ……うわっ!?」
「アゼル、だいじょ……ぞ、像が動いうわっ!」
広間まで逃げ延びた数人のネクロマンサーが、壁に取り付けられたレバーを倒す。すると、四体の像の腕が動き出した。
「くそっ、何だこいつ! 放せっての!」
「わー、食べられちゃう~!」
「皆、今助け……」
アゼルが捕まったのを合図に、リリンとメレェーナ、シャスティとアンジェリカ、カイルがそれぞれ残り三体の像に捕まってしまう。
一人難を逃れたアーシアが助けようとするも、像は素早く口を開け、捕まえた者たちを呑み込んでしまった。
「アゼル! くっ、早く助けねば……」
「その必要はないぜ。お前の仲間はみーんな、霊体派の最高幹部ンところに送られたからな。ひゃひゃひゃひゃひゃ」
「貴様、何者だ? 生身の身体……闇霊ではなさそうだが」
像を攻撃しようとするアーシアに、北側の洞穴から現れた男が声をかける。警戒心をあらわにするアーシアに、男は笑いながら答えた。
「俺か? 俺はベルデンス。屍肉派ネクロマンサーを束ねる王だ」
「屍肉派、か。なるほど、アゼルを殺すために霊体派と手を組んだというわけだ」
「ああ、その通り。まずはお前だ、闇の眷属の女。お前を殺して、俺のコレクションに加えてやる。行け、ネクロマンサー連合軍よ!」
身に付けた黒いローブをひるがえし、ベルデンスは右手に持った杖で床を突く。すると、北、西、東の洞穴からネクロマンサーとゾンビの大群が現れる。
その数、軽く千は越えている。四方を取り囲まれたアーシアは、魔槍グラキシオスを構え不敵な笑みを浮かべた。瞳には、嗜虐の光が宿っている。
「フッ……フフフ、ハハハハハハ!! 数を揃えれば余に勝てるとでも? 甘い、甘いな、甘過ぎる。その考えが命取りだということを知れ。貴様らの死を以てな……!」
「なんとでもホザきな、女。ここにいるのは、霊体派と屍肉派のネクロマンサーの中から選ばれたエリートなんだぜ。たった一人で勝てると思うな! お前たち、やれ!」
「おおーーー!!」
「やれやれ。闇の眷属を侮るということが、どれほど愚かなことなのか……思い知らせてやらねばなるまい」
突撃してくる敵の群れを前に、アーシアは力を解き放つ。冥府の門を開き、愚かな獲物たちを地獄へ叩き落とさんと槍を振るう。
「来い。我が誇りにかけて、貴様らを根絶やしにしてやる」
決戦の火蓋が、切って落とされた。
◇―――――――――――――――――――――◇
「くぅっ、いつまで続くのだこのスライダーは! このままでは尻が焼けるぞ!」
「ひゃっほー! たーのしーい!」
「ええい、喜んでいる場合かこの阿呆!」
像に飲まれたリリンとメレェーナは、スライダーを滑り下へ下へと向かっていた。三十分ほど降下したあと、上を向いた終点から外に放り出される。
たどり着いたのは、そこらじゅうに身の丈を越える大きなキノコが生えた森だった。薄もやに包まれた幻想的な光景に、二人は呑まれる。
「わー、きれー。山の下にこんな森があるなんて不思議だね」
「不思議どころの騒ぎではないな、これは。気を付けろ、メレェーナ。いつどこから敵が現れるか分から……そこだ! サンダラル・アロー!」
「ありゃー、もう見つかっちゃった。せっかく不意打ちしようと思ってたのにー、ざーんねん」
森の中を観察していたリリンは、素早く後ろを向き電撃の矢を放つ。矢は離れた場所にある巨大キノコに命中……することはなかった。
直撃する寸前、キノコに擬態していた闇霊が正体を現し攻撃を避けたからだ。現れたのは、網目模様の水色のドレスを来た女だった。
「うわ、何あの姿……あれ、ちゃんとした人間なの?」
「人型のキメラ……なのか? あれは」
だが、普通の女ではなかった。獅子の下半身と蝶の羽根を持ち、両腕はカニのような爪になっている。女は不気味な笑みを浮かべながら、リリンたちに近付く。
「そうだよ? 自己紹介しようか、ミーはDr.ヘレンナ。霊体派の最高幹部の一人、『流転因子症候群』の異名を持つ闇霊さ!」
「うー、気持ち悪い。こっち来ないで、夢に出そうだもん」
「最高幹部、か。面白い、貴様を倒せばアゼルも喜ぶだろう。メレェーナ、戦うぞ」
「えっ、マジで言ってる? しょーがないなー……じゃあ、さっさと終わらせちゃおっか」
魔力の鞭を取り出し、リリンは地面を打つ。嫌々ながらではあるが、メレェーナもペロキャンハンマーを構える。
ヘレンナはクスクス笑いながら、ゆらゆらと不規則に空を飛び回る。両手の爪をカチカチ鳴らし、歪んだ笑みを浮かべた。
「いいよ、おいで。君たちも、ミーの一部にしてあげる。さあ、研究の始まりだよ!」
地底に広がる森で、リリンたちの戦いが始まる。
◇―――――――――――――――――――――◇
「あークッソ、変なとこに飛ばされたな……どこだよ、ここ」
「坑道……なのでしょうか。あちこちにトロッコが捨てられていますわね」
一方、霊山の中腹へ送られたシャスティとアンジェリカは、廃棄された坑道をさ迷っていた。どこに出口があるのか分からず、カンで先へ進む。
「!? シャ、シャスティ先輩。今向こうの道から音がしませんでした?」
「あ? ははん、お前怖いんだな? ハッ、情けねーな。アゼルが居たら笑われ」
「ケカァァァァァ!!」
「で、出たぁぁぁぁぁ!! お化けぇぇぇぇぇ!!」
ビクビクしているアンジェリカを鼻で笑いながら、曲がり角を右へ進むシャスティ。直後、般若のような表情を浮かべた男と鉢合わせし、即座に来た道をダッシュで戻る。
「ちょ、シャスティ先輩も人のこと言えないではありませんのぉぉぉぉぉ!!」
「うるせー! あんなん誰でもビビるわ! さっさと逃げ」
「ダァァァァメェェェェェ!! お前たち、ここで死ぬがいいのォォォォォォ!! 霊体派最高幹部のこのオレ、『穴底の王』アルダモスの手でなァァァ!!」
「こんな時に襲ってくんじゃねぇぇぇぇぇ! アンジェリカ、一旦逃げるぞ!」
「承知しましたわぁぁぁぁぁ!」
両手に持ったスコップを振り回し、かなりイッてしまっている表情で追いかけてくるアルダモスから逃れるべく二人は坑道を走る。
しばらく逃げていると、脇道に捨てられているトロッコを見つけた。二人はそちらの方へ曲がり、トロッコに飛び乗ってブレーキを解除する。
「こいつで一気に逃げるぞ! もっと広い場所じゃねえとまともに戦えねぇ!」
「り、了解しましたわ! 奥義、覇骸閃!」
アンジェリカはレーザーを後方に撃ち、その反動でトロッコを走らせる。そんな二人の後ろから、アルダモスの声が響く。
「逃がさねえぞォォ、必ず追い付いてやるからなァァァ!」
アーシア、リリン&メレェーナ、そしてシャスティ&アンジェリカ。それぞれの戦いの幕が上がった。




