286話―さようなら、リジール
「アゼル、アゼル! 大丈夫? しっかり!」
「う……リジール、さん? 一体、何が……」
瓦礫の中に埋もれたアゼルは、リジールの呼び掛けによって目を覚ました。彼女が咄嗟に覆い被さってくれたおかげで、即死を免れたらしい。
キカイのボディだけあって、生身よりかなり頑丈なようだ。瓦礫に押し潰されることなく、平然とアゼルを守っている。
「あたしにも分からない。たぶん、城の外から誰かが攻撃してきたんだと思うけど……」
「とにかく、まずは脱出しないと。このままじゃ、酸欠で死んじゃいますから」
「分かった、あたしに任せて! 戦技、バックバスター!」
リジールは背中を変形させて大砲を作り、魔力の砲弾を真上に発射する。瓦礫を吹き飛ばし、二人は何とか外へ脱出した。
「ありがとうございます、リジールさん。急いで皆を助けないと、このままじゃ……」
「アゼル、上!」
「おぉーっと、標的発見! 瓦礫と共にチリになるがよいわ!」
まだ瓦礫の中にいる仲間を助けようとしたその時、二度目の爆撃をしようとしていたガルデールに発見された。
アゼルとリジールをロックオンし、ハンググライダーに装着された魔導エンジンを吹かし急降下する。
「くっ、こんな時にっ! ぼくはあいつを倒してきます。リジールさん、皆の救助をお願いします!」
「分かった、気を付けてね!」
「はい! サモン・ボーンバード!」
仲間の救出をリジールに任せ、アゼルはボーンバードに乗り空へ舞い上がる。体当たりをブチかまそうとするも、急旋回で避けられてしまった。
「ハッ、そんなトロい攻撃、ワガハイには当たらんなぁ小僧!」
「闇霊たちの仲間ですね? よくもこんなことを!」
「クハハッ、あの世に送る前に名を聞かせてやろう! ワガハイはガルデール! 闇霊が一人、『空の覇王』なり!」
『俺もいるぞー。ガルデールの相棒、『心臓蟲』のレーゼルマンもな! 泣く子も黙る生身のコンビさ、覚えておくんだね』
「どこから声が……うわっ!」
名を名乗った後、ガルデールはいきなり魔導エンジンを吹かして加速し、不意打ちの体当たりをボーンバードに叩き込む。
間一髪で体当たりを避けたアゼルは、ヘイルブリンガーを呼び出し遠ざかっていくガルデールに向けて吹雪を放つ。
「逃がしません! ジオフリーズ!」
「ハッ、そんなトロい吹雪に捕まるほどワガハイは遅くないぞ!」
「は、速い! あの速度じゃ、ボーンバードでも追い付けない……!」
吹雪でエンジンを凍らせ、墜落させようとしたアゼルだったがガルデールは急加速して吹雪の攻撃範囲からすぐに離脱してしまう。
あっという間にアゼルの頭上へ移動したガルデールは、反撃を仕掛ける。急降下しながら両手に魔力を凝縮させ、爆弾を作り出す。
「爆散するがいい、小僧! ハアアアッ!」
「まずい、避けきれ……うわああっ!」
『目標に直撃! 地上への墜落を確認! このまま攻めろ、ガルデール!』
「ハーッハッハッハッ! よぉし、奴らを始末したら街も破壊し尽くしてやろう!」
猛スピードの急降下爆撃でアゼルを撃墜したガルデールとレーゼルマンは、勝ち誇った笑みを浮かべながら再度急上昇する。
一方、アゼルはボーンバードがクッションになりなんとか助かったが……。
「アゼル、大丈夫!?」
「ぼくは、なんとか。でも、タリスマンが……」
確かに、アゼル自身は無事だった。だが、爆風を受けてスケルトンを使役するための装具であるタリスマンが壊れてしまったのだ。
アゼルほどの卓越したネクロマンサーであっても、タリスマンがなければ無力。空を飛ぶことが出来なくなった以上、アゼルに取れる選択は多くない。
ルーンマジックもジオフリーズも、ガルデールのスピードと遠すぎる位置のせいで決定打となることはないだろう。二人は絶体絶命の状況にあった。
「そんな、それじゃ……」
「もう、スケルトンを召喚出来ません。こうなった以上、あいつらが急降下してきたところを狙うしか……」
「たぶん、無理だと思う。相手もバカじゃない、アゼルがそうすることも折り込み済みだと思う」
イチかバチかの策に出ようとするアゼルを、リジールが止める。実際、ガルデールは得意の急降下爆撃をしようとする素振りを見せない。
『ガルデール、このまま一気に決めよう。瓦礫の中にいる連中は、ほぼ全員生命反応が消えた。後は地上の二人を始末すれば終わる』
「無論だ、レーゼルマン。ここから畳み掛けるぞ」
『スケルトンを出さないのを見るに、恐らくタリスマンが壊れたな。これはチャンスだぞ、ガルデール! この高度なら、地上の攻撃は届かない!』
「うむ。ここから爆弾を大量投下する。反撃も出来ずに……奴はジ・エンドだ!」
即座にアゼルが反撃してこないことから、タリスマンが破損したことを察知したレーゼルマンは、相方にそう助言する。
勝利を最優先し、ガルデールは自身の周囲に爆弾を作り出し宙に浮かべる。城もろともアゼルたちを吹き飛ばし、全てを終わらせるつもりだ。
「くっ……! ヘイルブリンガーを投げて直撃させれば勝てるでしょうけれど、まず避けられてしまうでしょうね……。これじゃあもう、打つ手が……」
「ううん。たった一つだけあるよ。あいつらを倒す方法が」
「えっ!? リジールさん、それはほんと……!? う、あっ」
僅かな希望を抱き、アゼルはリジールの方を見る。直後、彼女の拳がアゼルのみぞおちに叩き込まれた。その場に崩れ落ちたアゼルは、苦しそうに呟く。
「リジール、さ……どうして、こんな……」
「ごめんね、アゼル。あなたを死なせるわけにはいかない。皆を守れるなら――この命、惜しくない」
「ダメ、です。リジールさんは、もう……生き返れないんですよ!」
「それでも構わない。だって、あたしは……アゼルのおかげで、罪を償えたから」
捨て身の攻撃を仕掛けようとするリジールを、アゼルは必死に止めようとする。だが、彼女の決意は固かった。
「アゼルには、まだやらなくちゃいけないことがある。最後まで支えてあげられたらよかったんだけど……それは、あなたを裏切ってしまったあたしの役目じゃない」
「そんな、こと……」
「本当なら、あたしもグリニオやダルタスみたいに因果応報の死を迎えなくちゃいけなかった。でも、アーシア様に出会って、償いが出来た。それだけで、あたしは満足だよ」
両の足の裏と手のひらに魔力を溜め、リジールはゆっくりと宙に浮かぶ。このままガルデールたちに突撃するつもりなのだ。
力ずくでも止めたいアゼルだが、みぞおちを殴られたせいで身体が思うように動かない。リジールをただ見ていることしか出来なかった。
「さようなら、アゼル。あたしはずっと……あなたの心の中にいるよ」
「行っちゃダメです、リジールさん! リジールさぁぁぁぁぁん!!!」
アゼルの叫びも虚しく、リジールはガルデール目掛けて急上昇していった。敵の接近に気付いたガルデールは、爆弾の雨を降らせ迎撃する。
「フン、ムダなことを! 貴様もあの小僧のように叩き落としてくれるわ! 爆弾投下!」
『避けられるものなら避ければいいさ。その代わり、地上にあるものは全部灰になるけどね!』
「避ける? そんなことはしない。全部、地上に落ちる前に爆破させる! 戦技、マルガキャノン!」
ガルデールは、全部で二十個ある爆弾を一斉に投下する。一つでも撃ち漏らせば、地上に大きな被害が出てしまう。
そうならないためにも、リジールは全ての魔力を砲弾に変え空中で爆弾を破壊する。爆風が身体にかすり、ボディが少しずつ破損していく。
「くっ、このぉっ!」
「ムダだ、自動人形の小娘! 爆弾はいくらでも作れる、先にお前が死ぬぞ」
「そっか。なら……あんたたち、あたしと一緒に死んでよ。魔導コア、リミッター解除!」
リジールは魔力を一気に放出し、残る爆弾を一気に爆破し消滅させる。その反動で、キカイのボディのあちこちに亀裂が走った。
もう、長くは保たない。それを察したリジールは、ガルデールへ目を向ける。
『! まずい、離れろガルデール! そいつ、俺たちごと自爆するつもりだ!』
「なにっ!? くっ、急いで撤退を」
「逃がさない! お前たちだけは絶対に!」
「ぐっ! やめろ、離せ!」
「離さないよ、これでも食らえ!」
相手が急加速するよりも早く、リミッターを解除したリジールが突撃してしがみつく。魔導エンジンを蹴りで破壊して逃走を封じつつ、さらに上昇する。
「貴様、離せと言っているだろうが!」
「いいよ? あんたもう空飛べないから、このまま墜落して死ぬけどね!」
「おのれ……総帥殿、申し訳な」
直後、リジールの身体から残りの魔力が溢れ大爆発を起こす。ガルデールとレーゼルマンは逃げることも叶わず、リジールと共に空の藻屑となった。
「リジール、さん……」
空を見上げながら、アゼルは小さな声で呟く。少年の頬を、一筋の涙が伝い落ちていった。




