285話―旅の終わり……?
「はあ、はあ……圧殺されるかと思いました……」
「ごめんなさいね、皆テンション上がっちゃったみたいで。はい、これで封印は解けたわ。残る封印は、あと三つね」
しばらくして、アゼルはようやくリリンたちから解放された。今は正座したエルダの膝の上で抱えられている。
木箱をアゼルに返したエルダは、チラッと魔法陣の端の方を見る。魔法の鎖でぐるぐる巻きにされたリリンたちが、みの虫のように吊られていた。
「流石にやり過ぎたか……。全く、はしゃぎ過ぎだぞお前たち」
「そう言うジェルマだって、存分にアゼルのほっぺをもちもちしていたではないか! この隠れショタコンめ!」
「な、ななな何を言うんだリリン! 私がそんなわけな」
お仕置きとしてエルダにみの虫の刑を食らった巫女たちは、反省の色がまるでなかった。ドンドンと怪しい方向に話が進み……。
「隠さなくてもいいよジェルマちゃん! みんな知ってるから! ジェルマちゃんのお部屋のベッドの下に」
「ニアァァァァァ!! やめろ、それ以上はやめろぉぉぉぉぉぉ!! くっ、こうなったら道連れを増やすしかない! 全員の性癖を暴露してやる!」
「リリンとニアのバカ、こっちにまで飛び火させるんじゃないわよ! お嫁に行けなくなるじゃない!」
「その時はアゼルくんに嫁げばいいのよ、シーラ。ねえ、エスリー?」
「そうね、名案だわオルキス」
「はぁ、頭が痛くなるな……」
フェルゼ以外、終始騒ぎ暴露合戦を行っていた。弟子たちの醜態に、エルダは苦笑いする。
「ごめんなさいね、賑やかな娘たちで。みんな、いつもあんな感じなの」
「いえ、賑やかなのは慣れてますから。気にしてませんよ」
「ふふ、ならよかった。さて、あとはエイルリークちゃんたちに封印を解いてもらえば終わりね。もしよければ、私が仲間ごと転送してあげるけれど……どうする?」
「いいんですか? じゃあ、お願いします」
「分かったわ。じゃあ……それっ!」
エルダの厚意を受け取り、アゼルはソル・デル・イスカへ送ってもらうことにした。転送魔法が発動し、アゼルとリリン、フリグラの里にいるシャスティたちが纏めて転移する。
「……お気を付けて。貴方たちの旅に、幸多からんことを」
アゼルたちを送った後、エルダは小さな声で祈りを捧げた。
◇―――――――――――――――――――――◇
「……戻ってきましたね。太陽の都に」
「ああ、突然転送されたのには驚いたが……。ま、時間短縮になってよかったな」
ソル・デル・イスカに送ってもらったアゼルたちは、エイルリークがいる王城を目指す。ヴァールから話が通っているようで、スムーズに謁見出来た。
「久しぶりね、ダーリン! ヴァール公やジェリド王から話は聞いているわ! 順調に旅を続けているようで安心したわ」
「ありがとうございます、女王陛下。……あれ? ジークベルトさんたちはいないんですか?」
「もうすぐ来るわよ。とびきりのゲストを連れてね」
「とびきりのゲスト?」
一体誰のことだろうとアゼルが考えていると、玉座の間の扉が開く。入ってきたのは、ジークベルトら暗滅の四騎士とリンベル。
そして、キカイ化された人の姿になったリジールであった。身に付けたメイド服の裾をつまみ、リジールは挨拶をする。
「えええええ!? り、リジールさん!? そ、その身体は……!」
「久しぶり、アゼル。あたし、自動人形になったよ」
多少動きにぎこちなさはあったが、至って元気なようだ。唖然とするアゼルたちの元へ、リジールが歩いていく。
「な、なんだこれは? 私たちは夢でも見ている……のか?」
「一体、何が起きていますの? わたくし、もう何がなんだか……」
「ワタシから話そう。長くなるが、最後まで聞いてくれたまえよ」
混乱している一行に、フェムゴーチェがこれまでのいきさつを話して聞かせる。
「君たちがフライハイトでの一件を片付けた後、我々の手でリジールを王都へ輸送したんだ。一人ぼっちで余生を過ごすのは可哀想だろう、とね」
「なるほど。確かに、あのまま森の中で一人は寂しいですからね。でも、どうやってドラゴンから人に戻したんですか?」
「戻したのではない。魂を移植したんだよ、新しいボディへ」
「い、移植ですか!?」
次から次へと、予想もしていなかった言葉がフェムゴーチェの口からポンポン飛び出す。あんまりにも驚き過ぎて、アゼルは逆に冷静になる。
「あたしの身体はね、三百八十年に渡って大地を浄化し続けたせいでボロボロになっちゃったの。思ってた以上に、早く限界が来ちゃって……」
「そこで、ワタシの出番というわけだ。彼女の魂を抽出し、おニューのキカイボディに移したというわけだよ。もっとも、問題がなかったわけではないが」
「問題、ですか?」
「リジールの魂も、朽ちてしまっていてな。肉体に留まるための力を失ってしまっていてね。キカイのボディに移植したのは、魂が抜けてしまわないよう囲い込む必要があったからなんだ」
リジールは無事復活を遂げたようだが、手放しに喜ぶことも出来ないようだ。不穏な物言いに、アゼルは嫌な予感を覚える。
「端的に言おう。もし、リジールが死んだ場合……キミの死者蘇生の力をもってしても生き返らせることは不可能だ。肉体に留まる力が、もうないからね」
「そんな!」
「大丈夫だよ、アゼル。人間、いつかは死ぬんだもの。むしろ、延命してもらえて感謝しかないよ」
フェムゴーチェの言葉に悲嘆するアゼルに、リジールはそう答える。朗らかな笑みを浮かべ、心底嬉しそうにしながら。
「まあ、確かに……余生を過ごすだけなら、そこまで悲嘆することはないですよね」
「言われてみればその通りだな。もうリジールが前線に立って戦うこともねえわけだし」
「そーそー! いいなー、キカイの身体かー。あたしも一回、なってみたーい!」
一気に緊張感が消え、空気が柔らかなものになる。話が終わったと判断したジークベルトたちは、リジール同様前に進む。
「久しぶり、アゼルくん。皆元気そうだね、僕も嬉しいよ」
「やっほ。久しぶり、また会えたね」
「お久しぶりです、ジークベルトさんにリンベルさん。ヴァールさまから聞きましたよ、リンベルさん。引退されたんですよね」
「うん。ジーくんのお嫁さんになったからね、寿退役ってやつだよ。もー毎日いちゃラブし」
「リンちゃん、ダメだって! 恥ずかしいからやめてよぉ!」
レミアノールとフェムゴーチェに加え、リンベルも娶ったジークベルトは毎日大変なようだ。アゼルが苦笑いしていると、ガルガラッドが声をかけてくる。
「よう、兄弟! 話は聞いてるぜ、いよいよ旅も大詰めだな。次はオレたちが協力するぜ!」
「ありがとうございます、ガルガラッドさん。そう言ってもらえると嬉しいです」
「ああ、私たちに任せておくといい。我ら暗滅の四騎士で一つ、エイルリーク様が一つで計二つ。封印を解けるだろう」
ガルガラッドと話していると、途中でレミアノールが話に加わった。彼女の言葉が正しければ、今日じゅうには全ての封印を解ける。
そうすれば、あとは木箱に納められたゴッドランド・キーを使いギャリオンの元へ行くのみ。アゼルは羽織っているローブのシワを伸ばし、キリッと表情を引き締めた。
「それじゃあ……皆さん、お願いします」
「うん、任せて! アゼルくんから受けた恩、僕たち全員で返すよ」
アゼルはジークベルトに木箱を渡し、封印を解いてもらう。全員パズルは得意なようで、あっという間に封印が一つ解かれた。
続いて、玉座から降りてきたエイルリークが木箱を受け取りパズルを解く。こちらも手慣れているようで、すぐにカチッという音が鳴る。
「はい、どうぞダーリン。これで、残る封印はあと一つよ」
「ありがとうございます、皆さん。あとは、リリンお姉ちゃんたちに封印をと」
エイルリークから木箱を受け取った、次の瞬間。轟音と共に、爆風が城を襲った。反応する間もなく、アゼルたちは崩れてきた瓦礫に呑まれてしまう。
「急降下爆撃、全弾命中! レーゼルマン、生命反応は?」
『最重要抹殺対象、全員生存。不意を突いた程度じゃあ、抹殺まではいかないね。でも、皆かなり反応が弱くなってるよ』
街の住民がパニックに陥るなか、王都上空を飛行する者たちがいた。アゼルを追跡していた闇霊、ガルデールとレーゼルマンだ。
「うむ、ならばもう一度爆撃するまで! 今度こそ息の根を止め、箱を奪わせてもらおう!」
半壊した城を見下ろしながら、ガルデールは不敵な笑みを浮かべた。




