表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

293/311

284話―アゼルとメルシル

 リリンがエルダたちを迎えに行っている間、アゼルはメリムルたちに木箱の封印を解いてもらうことにした。木箱を手渡し、頭を下げる。


「皆さん、よろしくお願いします」


「うむ、任せておけい。じゃが、もう一人役者を揃えんとのう。ほれっ」


「ではこの絵は金貨……む? おおっ、久しいではないかボーイ! 元気そうで安心パッショーーン!」


「……やっぱり、呼ばないとダメでしたか」


 商談の真っ最中だったポルベレフは、メルシルの魔法によって屋敷に転送された。久しぶりのアゼルとの再会に、相変わらず高いテンションで喜ぶ。


 一方のアゼルは、ちょっとだけ嫌そうな顔をしていた。当のポルベレフ本人は、全く気付いていなかったが。


「ポル公、実はかくかくしかじかでな」


「んン~、トレビア~ン! そういうことであれば、ワタシも力をお貸ししまショウ! さあ、箱をギブミー!」


「あ、ちょっと! 乱暴に扱わないでくださいよ!?

壊したらまたチリにしますからね!」


「……オウ、善処しま~す」


 アゼルに釘を刺され、ポルベレフはパズルを解いていく。その様子を観察しながら、メリムルたちはふんふん頷いていた。


「なるほど、こうやって組み木細工を解いてゆけばいいのじゃな。案外簡単そうじゃのう」


「霊獣の里の時は遠目にチラッと見ただけだったが……これなら、私でも役に立てそうだ。少しでも借りを返せそうでよかったよ」


 しばらくして、ポルベレフの役目が終わる。今度はベクターとロデアが順番にパズルを解き始めた。二人とも、意外にもこうした作業は苦手なようだ。


「むぅ、これはなかなか……。ここをこうして、あっちを……」


「ベクター、それではダメだ。こっちに押し込んで……あ、引っ掛かってしまった」


「てんでダメだな、あの二人」


 あまりの悪戦苦闘っぷりに、カイルは思わず呆れてしまう。長くかかりそうだと判断したメルシルは、アゼルに声をかける。


 気晴らしに、外に出て風に当たらないかと。アゼルは了承し、二人連れ立って外に出た。


「風が気持ちいいですね、グランドマスター」


「おっと、アゼルくん。ここではその肩書きはなしだ。普通に名前で呼んでおくれ」


「分かりました、メルシルさん。……そういえば、メルシルさんは里長のお兄さんなんですよね? どうして里を出て冒険者に?」


「ああ。私は妹と違って、ネクロマンサーとしての才能に恵まれなくてね。そんな男が里長になっても、求心力がないだろう? だから、家督はメリムルに譲ったんだ」


 地面に腰を降ろしつつ、アゼルは前から気になっていたことを尋ねる。嫌な顔一つせずに答えるメルシルに、アゼルは申し訳なさそうに謝った。


「ごめんなさい、そんな事情があったなんて……」


「気にしなくていいさ、昔のことだからね。幸い、私には冒険者としての才はあったから、すぐにランクを上げていけたよ。そんなある日、出会ったんだ。君の父、イゴールとね」


「あの、その話詳しく聞かせてもらってもいいですか?」


「ああ、もちろん。当時、まだ冒険者としても、ネクロマンサーとしても駆け出しだったイゴールの教育係に私が選ばれてね」


 アゼルに請われ、メルシルはイゴールとの出会いについて語る。遠い昔を懐かしむように目を細めながら、話を続ける。


「お互いフリグラの里生まれということもあって、すぐに意気投合してねぇ。師匠師匠と、いつも私に引っ付いていたよ。活発で、誰にでもよく懐く子だった」


「そうだったんですね……。ぼくの知ってるお父さんとは全然違うなぁ。いつも肘掛け椅子に座って、のんびり本を読んでましたもの」


「はは、大人になれば皆変わるものさ。イゴールも、メリッサと出会ってからは途端にまぁ、大人ぶっていたものだよ」


「ああ、なんとなく分かります。お父さん、お母さんの前ではいつもカッコつけてましたから」


 二人は、今は亡きイゴールとメリッサについて語り合う。しばらく語った後、メルシルは真剣な表情を浮かべる。


 それを見たアゼルは、自然と背筋が真っ直ぐになった。何か、大切なことを伝えようとしている。そう感じたのだ。


「……二人が結婚したと聞いた時には、盛大に祝福したよ。二人とも、なんだかんだでしっかり者だから末長く仲良く暮らせるだろうと、思っていた」


「ええ。二人とも、村一番のおしどり夫婦って有名でした。ぼくがいてもお構い無しに、ずっとイチャイチャしてましたし」


「そんな二人が亡くなったというのを、君の口から聞かされるまで知らなかった自分が恥ずかしい。自分の仕事が忙しかったとはいえ、師匠失格だよ、私は」


「メルシルさん……」


 メルシルは目尻に浮かんだ涙を拭い、真っ直ぐアゼルの方を見る。


「さあ、戻ろうか。もうそろそろ、あの二人もパズルを解き終わる頃だろうからね。必ず、私も君の力になってみせる。イゴールとメリッサのためにも」


 そう口にした後、メルシルはアゼルを連れて屋敷に戻る。すでにベクターとロデア、メリムルの分は解き終わっていた。


 後は、メルシルがパズルを解けば六つ目の封印が解除されることになる。戻ってきた兄に、メリムルが声をかけた。


「おお、いいタイミングじゃったな。わしはもう終わったでな、あとは兄上だけじゃ」


「分かった。さ、木箱をこちらに」


「うむ。ほれ」


 メルシルは木箱を受け取り、黙ったままパズルを解き始める。胸の内に、どんな想いを秘めているのだろうか。


(……イゴール、メリッサ。君たちの二人の息子は、どちらも立派に育ったよ。本当に、立派に……)


 かつての弟子とその伴侶に、メルシルは心の中でそう語りかける。少しして、木箱からカチッという音が鳴り響く。


 封印が解かれ、数字が『4』になった。その数字も、じきに『3』になるだろう。新たな来訪者たちの手によって。


「よかった、無事に解けたみたいだ。これでまた一つ、君の役に立てたよ」


「ありがとうございます、メルシルさん。それに、里長やベクターさんたちも」


「な~に、気にしないでくれたまえ。これくらいのことは朝飯前だからねぇ~!」


 わいわい騒いでいると、リリンが戻ってきた。ようやく、エルダたちが到着したらしい。


「今戻った。アゼル、一緒に里の入り口まで来てくれ。エルダ様が、君に見せたいものがあるとのことだ」


「見せたいもの? 分かりました、行きましょう。兄さんたちは、ここで待っててください」


「分かった。行ってこい」


 アゼルはリリンに連れられ、屋敷の外に出る。その直後、二人の足元に転送用の魔法陣が現れた。反応する間もなく、二人はどこかへ転送されてしまう。


「え、これは……一体何が?」


「済まないな、アゼル。エルダ様にああ言うように指示されたものでね。ほら、見てごらん、この景色を」


「わあ……! 凄いです、メリトヘリヴンが復興してますよ!」


 アゼルたちが転送されたのは、遥か上空に浮かぶ魔法陣の上。眼下には、かつての栄華を取り戻した魔導都市、メリトヘリヴンの街並みが広がっていた。


「凄いでしょう? 各地から移民を募集して街をよみがえらせたんです。喜んでもらえたようで、よかったわ」


「エルダさん! それに、巫女さんたちも! ええ、とっても嬉しいですよ!」


 見事復活した街を見て喜んでいるアゼルに、遅れて魔法陣の上に現れたエルダが声をかける。フェルゼを含めた封印の巫女たちも、皆勢揃いだ。


「久しぶりだね、アゼルくん。リリンが迷惑をかけていないかい? 私はもう毎日心配で心配で」


「お久しぶりです、ジェルマさん。大丈夫ですよ、心配するようなことはなごば!?」


 久しぶりの再会を喜んでいたのも束の間、巫女の一人、ニアがアゼルに突っ込んできた。そのまま抱き着き、身体を密着させる。


「どーん! アゼルくんつーかまえた! オルキスちゃん、エスリーちゃん、抱き着いちゃおうよ!」


「そうね、たくさんお礼を言いたいもの。だからいいわよね? リリン?」


「そうよ、私もエスリーもたくさんお礼が言いたいんだもの」


「ええい、待て待て待て! 許さん、アゼルの一人占め……ではないな、とにかく、姉弟子が相手だろうとアゼルは渡さんからな!」


 オルキスとエスリーもアゼルに抱き着き、挑発的な視線をリリンに向ける。リリンも対抗心を燃やし、後ろからアゼルに抱き着いた。


「全く、皆お子ちゃまなんだから。いい歳してそんなはしたない……」


「シーラ、隠す必要はないぞ。抱き着きたいんだろ? アゼルに」


「!!?!!??!?!? な、何を言うのかしらフェルゼってば! べ、別にニアたちが羨ましいとかそんなこと思ってないわ! 断じて違うわよ!」


 顔を真っ赤にして首を横に振るシーラだったが、フェルゼには本心を見透かされていたようだ。必死に否定する姉弟子を、フェルゼは楽しそうにからかう。


「そうか。じゃあ、私とジェルマも抱き着いてくる」


「えっ。ちょ、待て、私もなのか!? いや、是非とも抱き着きたいが……」


「ちょ、待ちなさいよ! 一人だけ除け者にしないでちょうだい!」


「ま、待ってくださ……た、たすけて……」


 巫女全員に抱き着かれ、アゼルは揉みくちゃにされる。エルダに助けを求めようとするも、いつの間にか取られていた木箱を開けている最中だった。


「うふふ、大丈夫よアゼルくん。パズルを解き終わったら、私も混ぜてもらうから」


「ぜ、全然大丈夫じゃないですぅぅぅぅぅ!!」


 魔導都市の上空に、アゼルの悲鳴が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今更だがこの里がアゼルの父親イゴールの故郷なら先祖の墓や育った生家ぐらい無いのか?( ; ゜Д゜) 亡くなって色々酷い目にあっていたが葬儀の末埋葬ぐらいした筈なら何処に弔ったんだ?(゜ロ゜…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ