282話―王の約束
「いやー、予想外の収穫ってのはあるもんだなぁ。あんなすげぇ技を教えてもらえるなんて、よかったなアゼル」
「ええ、驚きましたよ。しかも、こんな貴重な魔道具までもらっちゃって……ディアナさんには本当、頭が上がりません」
アストレアの力を借り、四つ目の封印を解いてもらったアゼルたちは、一夜のもてなしを受けた。旅の疲れを癒し、翌日の朝教会を去る。
「レイスフォームだっけか? その魔法がこのシールに封じてあるんだろ? 一回コッキリの使い捨てとはいえ、よくあんな魔法を込められたよなぁ」
「使いところを間違えないようにしてくださいね、シャスティさん。そのシール、使い捨てなんですから」
「わーってるって。しかし、全員に一枚ずつたぁディアナの奴も気前がいいな」
教会を出る直前、アゼルはディアナからシール型の魔道具を六枚貰っていた。シールを身体に貼ることで、内部に込められた魔法を使えるようになる。
ディアナはレイスフォームをシールに込め、秘術を習得出来ないリリンたちでも一回だけ使えるようにしてくれたのだ。
「あっちは盛り上がってるな。楽しそうで何よりだぜ……んぐっ」
「カイル、またその薬か。そんなに頻繁に飲まねばならぬほど体調が悪いのか?」
「そういうわけじゃねえさ。こいつは……そう、サプリメントみたいなもんだ。ただの栄養剤だよ、リリン」
「……そうなら、いいのだがな」
アゼルとシャスティが盛り上がっている一方で、カイルと同乗しているリリンは胸騒ぎを覚えていた。自分たちに内緒で、カイルが何かをしている。
それも、放っておくと取り返しのつかない事になる何かを。
「本当に、大丈夫なんだな? その薬を飲みはじめてから、顔色が悪くなっているようにも見えるが」
「そうか? オレはすこぶる元気だぜ。それより、旅のことについて考えるのが先決だ。あと一つ封印を解けば、いよいよ残り半分になるんだからよ」
「それもそうだな。この方角だと……次はジェリド王のところか。まあ、創命教会本部から一番近いし妥当な選択だな」
上手く話題を変えたな、と内心思いつつもリリンは深追いはしなかった。今問いただしても、はぐらかされてしまうだけだと考えたからだ。
四日後、アゼルたちは無事ジェリドの住む宮殿に到着した。……のはいいのだが、長蛇の列が出来ているのを見て目を丸くする。
「なんだ、あの列は? 見たところ、皆何かを持っているようだが」
「気になるー! ねぇねぇアゼルくん、何してるのか聞いてみようよ!」
「分かりました、とりあえず降りてみましょう」
アーシアとメレェーナに促され、アゼルはボーンバードを着陸させる。列の最後尾に行き、並んでいる男に話しかけた。
「こんにちは。皆さん、一体何の用で並んでるんですか?」
「お、坊主もジェリド様にお目通りしに……って、その目は! あああ、アゼル様!? こ、これはご無礼を……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。……それにしても、皆何を持ってるんです?」
「これはですね、貢ぎ物ですよ。ジェリド様にお会いして、健康長寿の願掛けを、ね?」
男が言うには、ジェリドのまじないで健康長寿を祈ってもらいに人々が来ているとのことだった。手ぶらなのも無礼だからと、皆金品や食物を貢ぎ物として持ってきているらしい。
「健康長寿の願掛け、ですか。確かにまあ、ジェリド様は死者蘇生の力を持ってましたけど……」
「信仰の力とは凄いものですわ。それにしても、なかなか前に進めませんわね。これだとかなり時間がかかりそうですわ」
入場制限がかかっているのか、列はなかなか進まない。早速メレェーナが並ぶのに飽きはじめたその時、アゼルたちの足元に魔法陣が浮かぶ。
「え? これは――」
「あ、アゼル様たちが消えちまった!? 一体、どこ行ったんだろ?」
どこかへと転送されていったアゼルたちを見て、最後尾に並んでいた男は首を傾げる。一方のアゼルたちは、宮殿の最奥にある深淵の墓所にいた。
突然のことに驚いていると、墓所に並ぶ棺桶の蓋が次々と開いていく。アゼルたちが身構えると、腰ミノとマラカスを装備したスケルトンたちが現れた。
「ヨ・ウ・コ・ソ~。カ・ン・ゲ・イ・ス・ル・ヨ~」
「……なんだ、これ」
スケルトンたちはアゼル一行を囲み、リズミカルにマラカスを鳴らしながら歓迎のダンスを踊る。唖然としていると、また棺桶の蓋が開く。
「久しぶりじゃのう、末裔殿! どうじゃ、驚いたかのう?」
「おひさー! わぉ、皆チョーソーケン! 元気バクハツでウチらも嬉ピー、みたいな?」
「ミタイナ~?」
「これはこれは、皆さまお揃いで。お元気そうで、ワタシもほっこりしていますよ」
棺桶から出てきたのは、ジェリドの側近たる四骸鬼の面々だった。ジュデン、ビレーテ、アルー、そしてラスカー。
かつてアゼルたちと死闘を繰り広げ、友となった者たちが総出で出迎えしてくれたのだ。その時、奥の方からジェリドもやって来る。
「久しいな、アゼルよ。君の活躍は我が元にも届いている。とうとう、聖なる木箱を授かったようだね」
「ジェリド様! 四骸鬼の皆さんも、お久しぶりです。元気……って、聞くまでもないですねこれは」
「ハハハ、毎日賑やかなものだよ。私の元にひっきりなしに人が来るからね、彼らとのふれあいは本当にいいものだ」
炎片をアゼルに託した後、ジェリドは配下ともども満ち足りた余生を送っているようだ。すっかり肩の荷が降り、穏やかな笑みを浮かべている。
そんなご先祖様を見て、アゼルとカイルは嬉しくなって思わず微笑む。笑顔の輪が広がり、まったりとした空気が墓所を包み込んだ。
「……っと、積もる話は後にしよう。アゼル、君がここに来た理由はすでにヴァールから聞いている。木箱の封印を解きたいのだろう?」
「はい。早速ですけど、お願い出来ますか?」
「勿論だとも。そのために、君たちをここに転送したのだから。さあ、箱をこちらへ」
ジェリドに促され、アゼルは木箱を渡す。表面に刻まれた残りの封印を確認しつつ、ジェリドはパズルを解き始める。
「残りは『6』か。あと少しで折り返し……ふふ、多くの者たちに慕われているのだな、アゼルは。我が事のように誇らしい」
パズルを解きながら、ジェリドは微笑みを浮かべる。これまでの旅で、己の子孫が誰と出会い、何を成し遂げてきたのか。
それを想像するだけで、たのしくて仕方ないようだ。四骸鬼の面々も、嬉しそうにしている。
「ラスカー、上で彼らをもてなしてあげなさい。封印を解き終えるまで、もうしばらくかかるからな」
「かしこまりました。さあ皆さま、暖かい紅茶とお茶菓子を用意しましょう、宮殿へどうぞ」
「あ、ぼくは残ります。最後まで見届けていたいので」
「ならオレも。これでも、一応末裔の端くれだしな」
アゼルとカイルは、墓所に残ることにしたようだ。彼らの意を汲み、ラスカーは他の者たちを連れ上の階層へ向かう。
彼らが去った後、ジェリドはアゼルとカイルを自分の元に呼び地面に座る。アゼルたちも彼にならい、ゆっくりと腰を下ろし向かい合った。
「……こんな日が来るとはな。我らの意思を継ぐ、新たな王が生まれる日を生きて迎えられるとは。千年前には、想像もしていなかった」
「オレもそう思いますよ、ジェリド様。まさか、アゼルがねぇ」
「む、兄さんには言われたくないですね。これまでの黒歴史、全部バラしましょうか?」
「う、悪かった。それはやめてくれ……」
和気あいあいとした雰囲気のなか、アゼルたちは平和な語らいの時を楽しむ。しばらくして……木箱からカチッという音が鳴り、封印が解かれた。
「これで、残る封印は五つだ。私に出来ることは、これで全て終わったな」
「ありがとうございます、ジェリド様。これで、ついに折り返し地点に到達です」
「ああ。早く見たいものだな、アゼルが王となった姿を。それまでは、何があっても死ねないな」
「ええ、必ずぼくの晴れ姿を見せてあげますよ。だから、それまで……ラスカーさんたちと一緒に、長生きしてくださいね」
「ああ、楽しみにしているよ」
かつての王と、これからの王は言葉と握手を交わす。アゼルの旅も、ついに後半戦に突入する。旅が終わる日も、近い。




