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280話―学舎の誓い

 いやーな予感を抱きつつ、アゼルたちは校門のすぐ近くに着陸する。校庭の方から怪しげな祭囃子の音が聞こえてきたが、とりあえず無視することにした。


「さあ、まずは校長先生に挨拶をし」


「貴様らァァァァァ!! またしても俺のモンブランをォォォォォ!! 今日という今日はァァ、ゆ゛る゛さ゛ん゛!!!」


「わー、グリゴリが怒った! ロロム、逃げるぞ!」


「がってん! わー!」


「に゛か゛さ゛ん゛そ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」


 校門脇の通用口から中に入ろうとしたその時、第一校舎の方から怒声とバタバタ走り回る音が聞こえてきた。カイルとアーシアは、メレェーナは呆気に取られ固まってしまう。


「……アゼル。今のはなんだ?」


「気にしないでください、アーシアさん。ここでの日常みたいなものなので。ほら、行きますよ?」


「ん、あ、ああ」


 一方、アゼルとリリン、シャスティにアンジェリカら四人は全く動じず通用口を開く。この学院の奇天烈さには、とうの昔に慣れているのだ。


 釈然としないものを感じながらも、アーシアたちはアゼルの後に着いて第一校舎へ向かう。入り口から入ってすぐ側にある事務室に行き、職員に声をかける。


「ごめんくださーい。セルベル先生はいますか?」


「あっ、アゼルさん!? わー、お久しぶりです! 校長先生ですね? すぐお呼びします!」


 職員はアゼルに気付くと、嬉しそうな笑みを浮かべ連絡用の魔法石を取り出す。少しの間話をしたあと、アゼルたちを校長室へ案内する。


 すでにセルベルがスタンバイしており、アゼルたちは温かく迎え入れられた。応接間に通され、手厚いもてなしを受ける。


「いやぁ~、お久しぶりですねぇ。皆さんお元気そうで何よりですよ、ブヒヒッ」


「こんにちは、セルベル先生。先生も相変わらずお元気そうで、とても嬉しいです。他の先生や生徒たちも元気ですか?」


「ええ、もちろんですとも。七年生は卒業試験を終えて、ゆったりした空気ですよ。ブヒッ」


 以前と変わらず、セルベルは人の良い笑みを浮かべながら豚のようにふごふごしていた。アゼルとの再会を喜び、生徒たちの近況を伝える。


「卒業試験、ですか。皆合格出来ていればいいんですけど」


「安心してください、ちゃーんと皆合格しましたよ。特に、デューラさんは開校以来トップの成績を塗り替えましてね。理事長先生も自慢していましたよ」


「そうですか! デューラさん、頑張っているんですね。……ところで、校庭のアレは……」


「あー……アレですか。そうですな、実は……」


 校長室の窓からチラッと見えているバケツ頭の像を視界の端に捉えつつ、アゼルは何故アレがあるのかを問いかける。


 セルベルは苦笑いしながら、ソルディオの像が建てられたいきさつを話して聞かせた。


「数日前、ソルディオくんがやって来ましてね。何でも、ギャリオン王の王国の騎士団に入団したお祝いだとあの像を一晩で建てたんですよ。ブヒッ」


「あー、そういえばそんなことを聞きましたね。リリンお姉ちゃん、そうでしょう?」


「ああ。あいつはソル・デル・イスカに残ると言ってたからな。大方、母校に錦を飾りに来たんだろう」


「流石リリンさん、その通りなんですよ。私としても、元教え子が夢を叶えたのは喜ばしいんですけれども……」


 アゼルと合流するためフライハイトへ行ったリリンたちとは違い、ソルディオは一人エイルリークの元に残ることを選んだ。


 彼の夢である、ギャリオンのような偉大な騎士になる。暗滅の四騎士率いる騎士団に入団し、その夢を叶えた……まではよかったが。


「連日お祭り騒ぎでしてねぇ。もうすぐ長期休暇になりますから、学業の方に支障は出ないん」


「校長ォォォォォ!! 聞きましたぞ、アゼル殿たちが来ていぶべぇっ!」


「るっせえんだよ、この太陽バカ!」


 その時、ドタドタ廊下を走る音が近付いてきた。案の定、事務員から話を聞いたソルディオがすっ飛んできたのだ。


 が、校長室に入った瞬間、シャスティの飛び膝蹴りを顔面に食らい吹っ飛んでいった。ピシャリと扉を閉め、ソルディオ(太陽バカ)を締め出す。


「ブヒヒ、相変わらず賑やかでいいですねぇ。ああ、そうだ。良ければ生徒たちに会ってあげてください。皆、アゼルさんが来たとあれば喜ぶでしょう」


「ええ、そうします。今、どこにいます?」


「校庭でソルディオくん自作の『太陽音頭』を踊らされ……じゃなかった、踊っていますよ。ブヒッ」


「そ、そうですか……。じゃあ、先生も一緒にどうです? 実は、ここに皆に頼みがありまして。その話もしたいので」


「ええ、私は構いませんよ。では、行きましょうか」


 校庭に移動しつつ、アゼルは学院を訪れた目的を話して聞かせる。ついでに、廊下でのたうち回っていたソルディオも回収し外に出た。


「うっわ~、何あのカッコ……バケツヘルムに浴衣って……」


「クッッッッッッッッッソダサイですわ。例え金貨十万枚積まれても、あの格好だけはしたくありませんわね……」


「何をお言いなさる! 我が象徴たるバケツヘルむべぁっ!」


「一回寝てろてめぇは!」


 校庭には、異様な光景が広がっていた。ソルディオと同じデザインのバケツヘルムを被った生徒たちが、浴衣を着て謎の踊りを踊っていたのだ。


 巨大像を囲み、ぐるぐる回っていたが誰一人楽しそうではない。アゼルたちが引いていると、踊っていた生徒の一人が顔を向けてくる。


「あそこにいるのは!? コリンズ元副会長、アリス元書記! 挨拶に行くわよ!」


「は、はい!」


「あ、兜脱い……って、デューラさん!?」


「アゼル先生! お久しぶりです!」


 アゼルに気付き、バケツヘルムを脱ぎ捨てて三人の生徒が走ってくる。生徒会の会長をしていたデューラと、その学友たちだ。


「こんにちは、デューラさん。校長先生から聞きましたよ、卒業試験でトップの成績を修めたって」


「も、もう知っていましたか! はい、そうなんです! 私、先生に誉めてほしくって頑張りました!」


「ふふ、頑張りましたね。凄く嬉しいです」


「え、えへへ……」


 アゼルに誉められ、デューラはデレデレしていた。その様子を見て、学友たちはニマニマと笑っている。アゼルに気付いた他の生徒たちも、どんどん集まってきた。


「みんなー! アゼルせんせーがいるぞー!」


「ほんとだー! せんせー、こんにちはー!」


「げんきだったー?」


「ええ、ぼくは元気ですよ。皆、元気いっぱいでとても嬉しいです」


 短い間だったとはいえ、心を通わせた教え子たちとの再会でアゼルの心を暖かい感情がじんわり満たしていく。その時、アゼルの懐が光り始めた。


「おい、アゼル。なんか光ってるぞ?」


「え? あ、もしかして木箱が!?」


 シャスティに指摘され、アゼルは木箱を取り出す。生徒たちから発せられる絆の力を浴びて、箱は強い光を放っていた。


「おお、なんと目映い。アゼルさん、これが先ほどおっしゃっていた……」


「はい。絆の木箱です。この箱にかけられた封印は、皆さんじゃないと解けないんです。皆、手伝ってくれますか?」


「もちろん! 先生の頼みとあれば喜んで。そうよね、皆!」


「おーーー!!」


 校庭に集まっていた生徒たちは、デューラの呼び掛けに応え拳を天に突き上げる。一列に並び、順番に木箱のパズルを解いていく。


「なんか、すげぇ光景だな。こんな大量の生徒が集まるなんてよ」


「そうだな、カイル。ま、それだけアゼルが慕われているということだ。兄として誇らしいだろう?」


「……ああ、そうだな」


 順番待ちしている生徒たちを見ながら、カイルとリリンは微笑む。そこに、グリゴリから逃げていたキキルとロロムもやって来る。


「お! ロロム、アゼルがいるぞ!」


「ホントだな、キキル! なんだよもー、来てるんなら声かけてくれよな!」


「お二人とも、お久しぶりです。相変わらずいたずらばっかりしてるんですか?」


「もっちろん! ところで、なんで皆並んでんだ?」


「実はですね……」


 アゼルから話を聞いたキキルとロロムも、パズル解きの列に並ぶ。数十分が経過し、ほとんどの生徒たちが解き終わる。


 残るは、デューラとソルディオのみ。まずは、ソルディオが木箱に触れた。


「アゼル殿、俺は貴公に感謝している。貴公と出会えたからこそ、俺は自分の夢を叶えられた……そう思っているよ」


「そんな、大げさですよ。ソルディオさんの実力なら、いずれ自力でソル・デル・イスカに到達出来ていたと思いますよ?」


「いやいや、貴公の存在あってこそだ。俺にとって、貴公は太陽だ。進むべき道を示してくれた、大きくてあったかい太陽なんだよ。だから、今度は俺が貴公を助ける番だ!」


 ソルディオは木箱をスライドさせ、パズルを解いていく。その姿には、一切のおふざけはない。一人の騎士として、真摯に己の使命を果たす。


「む、動かなくなりましたな。どうやら、俺がやれるのはここまでのようだ。デューラ、後は任せた!」


「はい、ソルディオ先輩! アゼル先生。私はこの数ヶ月、ずっと努力してきました。いつか、あなたと並び立てるようにと」


 デューラは木箱を受け取り、ゆっくりとパズルを解き始める。アゼルを真っ直ぐに見つめながら。アゼルは何も言わず、黙ってデューラを見る。


「覚えていますか? 先生が学院を離れる時にした約束を」


「ええ、憶えていますよ。あなたが一人前のネクロマンサーになった時……ぼくたちの仲間に迎え入れる。忘れるわけないでしょう?」


「……よかった。先生、全てが終わったら、また学院に来てください。この数ヶ月で磨いた技術、お見せしますから」


「はい。楽しみにしていますね!」


 満面の笑みを浮かべながら、アゼルは頷く。デューラも微笑みを浮かべ、頷きを返した瞬間。カチッという音が鳴り響き、三つ目の封印が解除された。


 箱に浮かぶ数字が『8』から『7』になったのだ。デューラが箱を掲げると、歓声が起こる。また一つ、アゼルは王への道を進んだのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あのバケツ野郎も無駄に行動力があるだけに一晩で?(ʘᗩʘ’) 巨大人物像だけに木彫りの木製では無い筈だが石像だと何処から石を持ってきた(゜o゜; あの生徒会連中も色々されたけど卒業するとな…
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