276話―悪は二度滅びる
「いけ、フレッシュゴーレムども! 小汚ない狼どもを捻り潰せ!」
「フン、二度もアゼルに敗れた敗北者が何を偉そうにほざくか。戦士たちよ、人の姿になれ! 死体に毒を浸透している可能性がある、矢で攻撃せよ!」
「承知、長!」
フレッシュゴーレムの群れを前に、ムルは仲間たちに指示を下す。用意周到な敵のこと、何を仕込んでいるか分からない。そう考えての判断だ。
戦士たちは全員人の姿に変身し、近くの木に飛び移り枝を引っ張る。すると、繁った葉の中に隠してあった弓矢が落ちてきた。
「懸命な判断だ。あのムルという者、かなり頭が切れるな。アゼル、あの不快なゴーレムは余らに任せよ。貴殿はあの男を!」
「分かりました、アーシアさん! リリンお姉ちゃん、シャスティお姉ちゃん! あの時の続き、やりに行きましょう!」
「任せておくといい、アゼル。もう一度、奴を地獄に落としてやろうではないか」
「へへっ、アゼルの指名とあっちゃあ……はりきらねぇわけにいかねえぜ!」
フレッシュゴーレムの相手をアーシアやムルたちに託し、アゼルは最初の仲間二人を率いヴァシュゴルの元へ向かう。
かつての戦いを、もう一度演じるために。対するヴァシュゴルも、三人への殺意を剥き出しにしている。
「あの時のようにはいかぬぞ! 今度はお前たちが死ぬ番だ! 食らえ、ミートマシンガン!」
「フン、芸の無い奴だな。そんなもの、もう私たちには効かん! サンダラル・ウェーブ!」
「そういうこった! いくつもの荒波を越えてきたアタシらを、昔のまんまだと思ってると痛い目見るぜ! 戦技、レッグクラッシュ!」
近くにいたフレッシュゴーレムに飛び乗り、ヴァシュゴルは肉の弾丸を連続で発射させる。だが、そんな攻撃はもう通用しない。
リリンは雷の魔力を練り合わせ、衝撃波として放ち弾丸を叩き落とす。直後、すかさずシャスティが前進しゴーレムの脚をハンマーで薙ぐ。
「それっ! 戦技、アックスドライブ!」
「チィッ、クソが!」
バランスを崩したフレッシュゴーレムに向かって跳躍したアゼルは、ヘイルブリンガーを振り下ろす。ヴァシュゴルは別のゴーレムに飛び移り、すんでのところで攻撃を避けた。
「避けましたか。でも、自慢のフレッシュゴーレムは真っ二つですよ」
「相変わらずシャクに障るガキだ! ならこうしてやる! ジャイアントフレッシュゴーレム、攻撃を開始せよ!」
「まずいぞアゼル、構えろ!」
ヴァシュゴルが指示を出すと、里の外にいる巨大なフレッシュゴーレムの頭部が再生する。そして、沈黙を破り動き出す。
リリンは大声で叫び、アゼルだけでなく全員に警戒するよう呼び掛ける。次の瞬間、里の外から大量の肉の矢が降り注ぐ。
「あわわわ、いくつか結界をすり抜けてきたよ!」
「オレに任せろ! 戦技、シックスショット・トリガー!」
矢の大多数は里を覆う結界に阻まれたが、攻撃で生じた亀裂から十数本の矢が入り込んできた。カイルが撃墜し、どうにか事なきを得たが次はこうはいかないだろう。
「なかなかに頑丈な結界だな、ええ? だが、あと二、三回掃射すれば完全に砕ける。そうなれば、お前たちは一網打尽だ!」
「なら、その前にお前ごと外のゴーレムを倒すだけです!」
「バカめ、どうやって倒すというのだ? これだけの距離があるんだ、貴様の吹雪もロクな威力になるまい! 食らえ、ミートナックル!」
アゼルとしては、一刻も早く外の巨大フレッシュゴーレムを仕留めたい……のだが、ヴァシュゴルに妨害されままならない。
広場から直接狙うのでは、アゼルやリリン、アーシアの出来る攻撃では満足な威力が出ないのだ。かすり傷一つ付けられないだろう。
「さあ、お代わりだ! 第二射、開始ぃぃぃぃ!!」
「まずいな……先ほどの比ではない量だ。戦士たちよ、守りを固めろ!」
二度目の一斉射が行われ、結界の亀裂がさらに広がる。一回目の倍以上の矢が広場に降り注ぎ、アゼルたちに襲いかかる。
「いけない、ジオフリー……うあっ!」
「アゼル、あぶねぇ!」
「ハハハ、ムダムダムダ! フレッシュゴーレムの余力はまだまだたっぷりあるんだ、お前たちの体力と魔力が尽きるまで! 何度でも射ってやるよ!」
カイルの攻撃でも防ぎきれないと判断したアゼルは、吹雪を起こして矢を弾き飛ばす。が、本人が無防備になりヴァシュゴルの攻撃を受けてしまう。
シャスティに助けられ事なきを得たが、これ以上戦いが長引けば圧倒的な劣勢に追い込まれる。どうやって事態を打開するか、考えようとしたその時。
「奥義、覇骸閃!」
「なっ!? なんだ今のは、一体どこから!?」
「ふっ、アンジェリカめ……いいアシストだ」
森の中からビームが放たれ、里の外にいる巨大フレッシュゴーレムの身体を貫いた。一撃で核を破壊されたようで、ゴーレムは空中分解しながら消滅する。
「今の魔力……もしかして……」
「おーっほっほっほっ! お待たせしましたわアゼルさま! わたくし、華麗に帰還しましてよ!」
「やっぱり! 助かりましたよ、アンジェリカさん!」
ベイオンを撃破したアンジェリカは、広場に戻る途中で巨大フレッシュゴーレムの攻撃を受けた。これ以上攻撃されれば、結界が壊れる。
直感で悟った彼女は、第三射が放たれる前に何とかしようと反撃したのだ。幸い、魔力は潤沢にあったため覇骸閃の威力も十分。
距離などものともせず、見事難敵を撃滅してみせたのだ。
「いいぞ、駄嬢! お前もたまにはやれるじゃないか!」
「ちょ、たまにはって!? 失礼ですわよリリン先輩! まあいいですわ。さあ、やってくださいましアゼルさま!」
「はい! ヴァシュゴル、覚悟!」
切り札たる巨大フレッシュゴーレムを倒した今、ヴァシュゴルが逆転するチャンスは存在しなくなった。トドメを刺さんと、アゼルは駆ける。
「クソッ……! 何故だ、何故またこうなる!? せっかくよみがえったというのに、こんな、こんな……」
「ヴァシュゴル、ぼくたちは強くなった。長い旅を経て、少しずつ。昔のままのお前に、勝ち目なんて最初からないんだ!」
「黙れぇぇぇぇ!! 同じ相手に三度も負けるなど、あっていいわけがなぁぁぁぁい!!」
往生際の悪さだけは一人前なヴァシュゴルは、残っているフレッシュゴーレムやリビングデッドたちをアゼルにけしかける。
だが、そんな悪あがきをしたところでアゼルを倒すことなど出来ない。ガルファランの牙、堕天神、聖戦の四王に闇霊……そして、ラ・グーの刺客たち。
数多の強敵たちと死闘を繰り広げ、勝利してきたアゼルは止まらないのだ。
「ムダです! パワールーン、シールドブレイカー!」
「バカな、死体どもが一撃で全滅だと……!」
「これで終わりです、ヴァシュゴル! てやあっ!」
「ぐがあっ!?」
一太刀の元に死体の群れを切り伏せたアゼルは、そのまま相手に突撃し斧でトドメを刺す――かと思われたが、予想外の行動に出た。
強烈なアッパーを相手の顎に叩き込み、上空へ吹き飛ばしたのだ。そう、アンジェリカの奥義……夜空流星落としのセットアップのように。
「あのフォーム……アゼルさま、もしかして!」
「ハハッ、仲間の十八番をやろうってのか? いいねぇ、面白いじゃねえか!」
地上にいるアンジェリカたちがざわめくなか、アゼルはひたすらにアッパーをヴァシュゴルに叩き込みつつ上昇する。
「これで……終わりです!」
「ぐ、離せ……!」
アゼルは左手でヴァシュゴルの顔を掴みつつ、相手の頭を下に向ける。空いた右手でヴァシュゴルの両手を後ろ手に掴み、脱出を封じつつ落下していく。
「一度やってみたかったんですよ、アンジェリカさんみたいな派手な体術を。さあ、これで終わりです! 戦技……タナトス・インパクト!」
「ゴッ、ガアアアァッ!!」
逃げることも叶わず、ヴァシュゴルは頭から地面に叩き付けられる。衝撃で全身に亀裂が走り、魂を閉じ込めておくのに使われていた魔力が抜ける。
「いや、だ……また、負けるのは……。せっかく、復活した、の、に……ガハッ」
「さようなら、ヴァシュゴル。今度こそ……地獄に落ちなさい」
三度目の敗北を前に、ヴァシュゴルは絶望の表情を浮かべ――そのまま息絶えた。残っていた死体たちも、術者の死と共に塵へと還る。
里を襲った者たちとの戦いに、幕が下ろされたのだった。




