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275話―仇敵の復活

 里の広場にて、リビングデッドたちとの激しい戦いが繰り広げられる。霊獣の戦士たちは、ある者は狼の姿で、またある者は人の姿となって敵を迎え撃つ。


「我らの里に踏み入った愚かさ、思い知らせるのだ! 爪と牙をもって奴らを引き裂け!」


「グルルァァァ!!」


 術者であるベイオンとの距離が離れたからか、リビングデッドたちの動きが徐々に鈍くなっていく。このままなら余裕だろうと、アゼルは考えた。


「アンジェリカさんが上手くやってくれましたね。この調子なら、外に出てフレッシュゴーレムを直接叩けるかもしれませんよ!」


「だといいのだが……どうも引っ掛かる。肝心の闇霊(ダークレイス)は何故姿を見せない?」


「そうですね……ぼくも違和感を覚えてます。ベイオンの言ってた、ジャバルというネクロマンサーがいるはずなのですが……」


 ヘイルブリンガーを振るい、リビングデッドたちを吹き飛ばしていたところにリリンが話しかけてくる。彼女の感じている違和感を、アゼルも覚えていた。


 戦いが始まってからすでに十分以上が経過しているが、一向にジャバルらしき者が現れる気配がない。これまでの経験からすれば、あり得ないことだった。


「そんなこと考えてもよぉ、仕方ねぇだろ! 今はこの腐れゾンビどもをぶっ潰すのが先だぜ! 戦技、トルネイドハンマー!」


「そうですね、シャスティお姉ちゃん。でも……何でしょう、この胸騒ぎは……」


 敵を退け、フレッシュゴーレムへの道を開こうとしているアゼルの胸中に、嫌なざわめきが起こる。何か、とんでもない事が起こるような気がして仕方ないのだ。


「こういう時の嫌な予感って、だいたい当たるんですよね……。仕方ありません、リビングデッドは皆に任せて直接――!? この気配、まさか!」


 いっそ、短期決着を狙ってフレッシュゴーレムを直に叩きに行こうかと考えたその時だった。当のフレッシュゴーレムの頭部が弾け飛んだ。


「な、なんだ!? 何もしてねぇのに爆発したぞ!」


「待て、よく見てみるがいいカイル。何者かが余たちの方へ飛んでくるぞ」


 その場にいた全員が驚いている間に、肉片と共に何者かが飛来してくる。全身を灰色のローブで覆った謎の人物は、広場の端に着地した。


 深く被ったフードと前屈みな姿勢のせいで顔は見えないが、アゼルはとても強い既視感を覚える。それと同時に、脂汗が背中を伝う。


「よぉ、アゼル。久しぶりダナァ。覚えているかい? 私のことを」


「その、声……! まさか、あり得ない。お前はあの時殺したはず! なのに、どうしてここにいる……ヴァシュゴル!」


「よみがえったのさ。お前を地獄に引きずり込んでやるためになぁ!」


 アゼルが叫ぶと、フードを脱ぎ捨てヴァシュゴルは笑う。予想もしていなかった人物の登場に、リリンとシャスティも動きが止まる。


「バカな、あり得ん! 貴様はアゼルがトドメを刺したはず、何故生きている!?」


「なんだこりゃ……アタシらは夢でも見てるのか?」


「知りたいか? なら押してやろう。何故私がここにいるのかをな」


 動揺するリリンたちを見ながら、ヴァシュゴルは話し出す。どうやって自分が復活を遂げたのかを。



◇―――――――――――――――――――――◇



 数ヶ月前、ヴァシュゴル率いるスタンピードとの戦いが終わった後。アゼル一行や帝国軍が引き上げた後の戦場に、二人の男が現れた。


「おーおー、ド派手にやったもんだなこりゃ。ロマ、見てるだけでワクワクしねぇか?」


「ジャバル、はしゃぐのは後にしろ。迅速にヴァシュゴルの魂を回収し、撤収せねばならん。さっさと済ますぞ」


「へぇへ、相変わらず仕事熱心なこって。んじゃ、死体を探すか」


 霊体派ネクロマンサーを束ねる総帥より、秘密裏にヴァシュゴルの魂の回収を命じられたロマとジャバルは目的のモノを探す。


 しばらくして、粉々に砕けた氷の破片が無数に散らばっているのを見つける。二人は一目で、ヴァシュゴルの成れの果てだと理解した。


「ハハッ! こりゃ見事にやられてんな。ま、魂さえ捕まえりゃ問題はねぇ。さぁて……オレの『鳥籠』の出番だな。そりゃっ!」


 ジャバルはどこからともなく小さな鳥籠を取り出し、蓋を開く。すると、何かが吸い寄せられるように近寄ってきた。


 戦いで命を散らした者たちの、さ迷う魂だ。人も魔物も関係なく、鳥籠に入ろうと集まってくる。


「シッシッ、お前じゃねえ。引っ込んでろ、ったく」


「この調子だと、まだ終わりそうにないな。ジャバル、時間をあまり」


「ビンゴ! 捕まえたぜ!」


「……よし、問題ないな」


 首尾よくヴァシュゴルの魂を捕獲したジャバルは、鳥籠の蓋を閉じる。すると、集まっていた魂が離散していった。


「さぁて、こいつを連れ帰ったら後は時を待つだけだな。ククッ、楽しみだねぇ。こいつをどう復活させるか……総帥殿のお手並み拝見だ。帰るぜ、ロマ」


「ああ。もうここに用はない。中にいる少年は……いずれ、我が手で始末する」


 捕らえたヴァシュゴルの魂を土産に、二人は去っていった。鳥籠の中を浮遊する魂は、アゼルへの強い怒りと憎悪に震えていた。



◇―――――――――――――――――――――◇



「ってなことがあったのさ。だいぶ時間はかかったが、こうして死体の中に魂を閉じ込め……私はよみがえったのだよ! アゼル、貴様を殺すためにな!」


「なら、もう一度殺してあげますよ。二度とよみがえれないよう、念入りにね!」


「ほざけ、ゴミが! 憎悪のパワーを見せてやる! リビングデッドども、融合だ!」


 ヴァシュゴルが命令を下すと、リビングデッドたちの動きが変わる。十体一組になって融合し、五メートルほどの大きさがあるフレッシュゴーレムになった。


「ククク、ここからは私のショータイムだ。これまでのような統率のとれていない死体の群れだと思うな、ゴミども! ここからが本当の戦いだ!」


「望むところです、ヴァシュゴル! またお前を叩き潰してやる!」


 復活を果たしたかつての宿敵との戦いが、再び始まった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「おぉぉぉぉぉ待ぁぁぁぁぁちぃぃぃぃぃなぁぁぁぁぁさぁぁぁぁぁい!!! 叩き潰して差し上げますわー!」


「ハアッ、ハアッ! クソッ、しつこいアマ……おわっ!?」


「ウラメシヤーーーー!!!」


 その頃、森の中では命を賭けた鬼ごっこが行われていた。ベイオンを追い、修羅と化したアンジェリカが全力疾走する。


 そんな彼女をサポートするように、餓捨髑髏(ガシャドクロ)が敵に突撃する。相手の連携プレーに、ベイオンは逃げ場を失っていく。


「チッ、冗談じゃねえぞ。こんなところで死んでたまるか! ジャバル、聞こえるか! 早く助けに来い!」


 必死に逃走しつつ、ベイオンは服の裏ポケットに仕込んだ通信用の魔法石に向かって叫ぶ。が、相方であるジャバルからの返答はない。


「おい、聞こえてんだろ!? 早く返事し」


『ああ、悪いけどお前もう用無しなんだわ。ヴァシュゴルさえ復活すりゃ、後はあいつがやってくれるんでな。つーわけで、オレ撤退するから。じゃ』


「なっ!? てめぇ、裏切りやが」


「追イ付イタァ……」


「なっ!?」


 ジャバルとの連絡に夢中になっていたベイオンは、足元に餓捨髑髏が潜り込んだことに気付くのが遅れてしまった。


 直後、爆発が起こりベイオンは吹っ飛ばされ木の幹に激突する。痛みに呻いているところに、死神(アンジェリカ)が到着した。


「チェックメイト、ですわ♥️ さあ、覚悟は……よろしくて?」


「ひっ、ひぃぃ! 頼む、みのがしてくガハァッ!」


 命乞いしようとするベイオンの顎にアッパーを叩き込み、アンジェリカは空高く打ち上げる。自分も跳躍し、さらにアッパーを打ち込む。


「お黙りなさいこの【とても言葉に出来ない汚い罵声】!! このままあの世に送って差し上げますわ! 奥義、夜空(やくう)流星落としーー!!」


「や、やめ……!」


 完全にグロッキーになったベイオンの身体を上下と前後を逆にした状態でクラッチし、アンジェリカは落下していく。


 着地ポイントには、大きく頑丈そうな岩がある。己の運命を悟ったベイオンは、何とか逃れようとするが……もう遅い。


「チェストォォォーーーー!!!」


「ぐげ……ガハァッ!」


 脳天から岩に叩き付けられたベイオンは、頭蓋骨が砕けそのまま息絶えた。クラッチを解き、華麗に着地したアンジェリカは勝利の叫びをあげる。


「わたくしの勝ちですわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 その顔には、とてもスッキリした表情が浮かんでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 闇霊の連中もまさか死んだ者の魂まで利用するとはとんでもねーな(>0<;) しかしアンジェリカそんな雑魚に何ムキになって追いかけてんのよ(ʘᗩʘ’) また大将戦見逃すぞ(↼_↼)
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