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271話―最後の旅の始まり

 逆鱗の炎片を継承してから、五日が経った。ヴァールの送った使者によって事情が伝えられ、エイルリークたちとの和解が成立した。


 それによって、居残り組だったリリンとメレェーナがフライハイトに遊びにやって来る。街で観光を楽しんだ後、アゼル一行はヴァールに呼び出された。


「こんにちは、ヴァールさん。今日もお元気そうで何よりです」


「うむ、そなたらも相変わらず元気に遊び回っておるようだな。ビシャスの奴が孫を見るように喜んでおったぞ」


「ええ、色々買ってもらっちゃいまして。後で何かお返しをしないといけませんね」


 ヴァールの住む城、『雷帝の寝床』にある玉座の間にてアゼルたちはしばし談笑を楽しむ。少しして、竜の女帝は本題を切り出した。


「……さて。今日そなたらをここに呼んだのはただ世間話をするためではない。五つの炎片を集めたそなたたちに、ギャリオンの待つ地へ至る方法を伝えるためだ」


「とうとう、この時が来たのですね。我が師エルダも、この日を待ちわびておりました」


 真剣な表情でそう口にするヴァールに、リリンは答える。五つの炎片が揃い、残すは『太陽の王』ギャリオンが持つ太陽の炎片のみ。


 全ての炎片を継承し、生命の炎へと復元することで――アゼルは聖戦の四王の正統な後継者となるのだ。ヴァールは頷き、話を続ける。


「アゼルよ、手を差し出すのだ。今こそ汝に授けようぞ。最後の道しるべを!」


「はい!」


 アゼルは前に進み出た後、手を差し出す。ヴァールが雄叫びをあげると、アゼルの手の中に魔力が集まっていく。


「ハァッ!」


「わっ! これは……木箱?」


「ほう、見事な組み木細工だ。暗域でも、ここまで美しいものはそうそうないぞ」


 ヴァールがかけ声を発すると、魔力が凝縮し手のひらサイズの木製の箱に変化した。正方形のソレは、パズルのようにスライドする組み木細工になっている。


「その箱の中に、ギャリオンが待つ地……聖礎コルンキスタへ入るための鍵が納められている。面の一つに、数字が浮かんでいるのが分かるだろう?」


「はい、10って数字が浮かんでます」


「組み木細工のパズルを一回解く度に、数字が一つずつ減るようになっている。0になったその時、封印は解かれ……ゴッドランド・キーが手に入るのだ」


「なるほど、じゃあ早速……」


「ああ待て待て、話を最後まで聞くがよい」


 即座にパズルを解こうとするアゼルを、ヴァールが制止する。どうやら、話にはまだ続きがあるらしい。


「そのパズルは、そなた自身に解くことは出来ぬ。ギャリオンが強力な防護魔法をかけておるからな」


「ん? じゃあ、どうやって細工を解くんだ? 十回も解かなきゃいけないんだろ?」


「そうだ。そのパズルを解くのは……アゼル。そなたがこれまでの旅で出会い、絆を育んできた者たちだ」


 シャスティが問うと、そんな答えが返ってきた。ヴァールは木箱を見ながら詳しい説明を行う。


「かつて、ギャリオンは()()()()を危惧していた。力ある悪しき者が王を倒し、炎片を奪ったら……とな」


「まあ、分からないでもない。実際、ラ・グーが炎片を奪うために行動を起こしてきたわけだからな」


「そうだ、エルダの弟子よ。そこで、ギャリオンはある仕掛けを考えた。それがその木箱だ」


「これが、ですか?」


「ああ。ギャリオンは常々こう説いていた。真の王とは、民に慕われる者でなくてはならぬと。その木箱は、絆を試す最後の試練というわけだ」


 説明を受けたアゼルは、ギャリオンが何を意図しているのかに気付いた。炎片を受け継ぐ旅は、一人の力では成し遂げられない。


 多くの人々の支えがあるからこそ、成し遂げることが可能なのだ。実際、アゼルも多くの人たちとの交流があったからこそ、ここまで到達できた。


「民をないがしろにするような悪しき者がこの木箱を手に入れても、決して開くことは出来ぬ。無理矢理こじ開けたり、箱を壊せば中の鍵は消滅するようになっている」


「なるほど~。考えられてるんだね~。あれ? でも鍵が消滅しちゃったらダメなんじゃないの?」


「問題はない。木箱を手に入れた者が死んだ後で鍵は再生し、炎片は元の持ち主の元に戻る。王が死んでいれば、蘇生させる。そうしてまた、新たな王候補が現れるのを待つだけだ」


「うわぁ、気が遠くなるぅ~」


 メレェーナはそう言うと、やれやれと言わんばかりに肩をすくめる。あまりにも遠大なやり方に呆れているようだ。


「なら、アゼルは問題ないな。あっちこっちでいろんな奴と仲良くなってるから。な、アゼル」


「そうですね、兄さん。パズルを解いてくれるだろう人たちも、たくさん候補がいますし」


「ふむ、その点は心配なさそうだ。では、最初の一回は妾が解くとしよう。……ハァッ!」


 アゼルとカイルのやり取りを微笑ましそうに聞いていたヴァールは、もう一度雄叫びをあげる。すると、木箱がひとりでに浮き上がった。


 ヴァールの身体から伸びた魔力の糸が箱に絡み付き、パズルを解いていく。しばらくして、カチッという音が鳴り、同時に箱に浮かぶ数字が9になる。


「アゼルよ、再び大地を回れ。絆を育んだ者たちを訪れ力を借りるのだ。全ての封印を解いた時……ギャリオンへ通じる道が開く」


「分かりました。ここまで来たんです、最後までやり遂げてみせます! さあ、行きましょう皆!」


「おう!」


 アゼルの言葉に、リリンたちは力強く頷く。玉座の間を出た一行は、大地を巡る旅の準備を行う。正真正銘、これが最後の旅だ。


「なあ、ちょっといいか?」


「ん? どうしたカイル」


「いや、さっきの説明を聞いて考えたんだけどよ。オレらもアゼルとの絆があるんだし、一人一回ずつパズル解けるんじゃねえかな」


「なるほど、試してみる価値はある。アゼル、箱を貸してもらえるか?」


「いいですよ、はいどうぞ!」


 間借りしている宿に戻って準備をしていた時、カイルが自分の考えを口にする。一理あると考えたリリンは箱を借り、パズルを解こうとするが……。


『絆ノ力ガ足リマセン。全員ノ力ヲ合ワセテ挑戦シテクダサイ』


「一人ではダメか……というか、音声が出るんだなこの箱……」


「つまり、アゼルを除いた余たち六人で一回分ということか。ふむ、となると厄介だなこれは」


 門前払いされてしまった。どうやら、一つのグループで一回分のカウントになるようだ。聖戦の四王等の例外を除けば、個人での挑戦はダメらしい。


「オーッホッホッホッ! その程度でしたら問題ありませんわ。アゼルさまを慕う人々は大地のあちこちに居ますもの。支障など何もありませんことよ」


「お、アンジェリカが珍しくいいこと言ったな。確かにそうだ、何せこれまでたくさん人助けしてきたもんな!」


「ちょ、シャスティ先輩! 珍しくは余計ですわ!」


 いつものようにぎゃいぎゃい騒ぐ仲間たちを、アゼルは微笑みながら見つめる。彼らがいれば、何の心配もない。心からの信頼がそこにあった。


「さて、アゼルよ。準備はだいぶ整ったが……まずはどこに行く?」


「もう決まってますよ、リリンお姉ちゃん。最初に行くのはもちろん……故郷です!」


「そうか、分かった。ところでだ、アゼル。私たちがパズルを解くのは一番最後にするのはどうだろうか」


 リリンの提案を受け、アゼルは首を傾げる。


「へ? どうしてです?」


「いやほら、こうムードと言うかだな。その方が感動も一倍大きいと思ってな」


「それもそうですね。じゃあ、皆にパズルを解いてもらうのは最後で!」


 リリンの提案は無事承認され、一行は最初の目的地へ向けて出発することになった。宿を出て、街の端にある広場へ向かう。


 三体のボーンバードを呼び出し、数人ずつ別れて乗り込む。フライハイトを離れ、アゼルたちは地上へと帰還する。


「さあ、行きますよ! 最初の目的地は……ぼくの故郷、アークティカ帝国です!」


 絆を巡る最後の旅が、今――幕を開けた。



◇―――――――――――――――――――――◇



「総帥殿よぉ、どうすんだい? ラ・グーの奴から催促が来てるぜ。早く例のガキんちょどもを殺してくれってな」


「……時は満ちた。屍肉派のネクロマンサーたちとの協定も、ようやく成立した。ゾダン、最高幹部を全員集めよ。作戦会議を執り行う」


 その頃、霊体派ネクロマンサーたちの拠点であるラバド霊山である動きが起こっていた。全ての部下を失ったラ・グーの要請により、闇霊(ダークレイス)たちが動き出したのだ。


「クックク、分かった分かった。楽しみだねぇ、ようやく……決着をつけられるんだからな。待ってな、アゼル。お前を八つ裂きにしてやる……!」


 邪悪な者たちとの戦いも、最終局面に突入しようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 長き旅路を巡って最初の故郷に戻るか(◡ ω ◡) 中々ドラマチックな旅であり腐れ縁にも片をつけんとな(⌐■-■)
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