269話―狂気の終焉
「死ィ……ねぇぇェぇ!! ヒートテイル!」
「そんなもの、当たらぬわ!」
狂気に呑まれつつあるロギは、炎のブレードと化した尾を滅茶苦茶に振り回す。もはや理性はほとんど残っていないようで、自分の身体を斬りつけるのもお構い無しなようだ。
「凄い暴れっぷりですね。ちょっと前のヴァールさんみたいです」
「自分でも覚えている。炎片を守るために必死だったとはいえ、我ながら恥ずかしいことだ。一段落したら、部下たちに詫びねばなるまい」
暴走するロギから距離を取りつつ、アゼルとヴァールはそんな会話をする。ロギを通して己の過去を反省しているようだ。
「ゴチャゴチャと……うルさい奴らメ!」
「くっ! ダメだな、距離を離すと逆に危険だ。アゼル、危険を承知で奴に突っ込む。妾が押さえている間に攻撃を!」
「はい!」
遠距離からブレスで攻撃しようと目論んだヴァールだったが、伸縮自在のブレードに追いたてられる結果に終わった。
そこで今度は、いっそ懐に潜り込み長いリーチ故の取り回しの悪さを利用することにしたのだ。猛スピードで、真っ直ぐ敵に突っ込む。
「ガルァッ!」
「さあ、捕まえたぞ! 自慢のしっぽも押さえた。アゼル、今だ!」
「戦技、アックスドライブ!」
一時的に糸の姿勢固定を解除し、アゼルは跳躍する。手足としっぽをヴァールに押さえ込まれたロギは、唯一自由に動く頭を用いて迎撃を行う。
「カース・フレア!」
「甘い! ガードルーン、イジスガーディアン!」
「ムダだ! そンなバリアなど、我が炎デ焼き尽くシて……」
「そうはさせぬ! ライトニング・ファング!」
バリアを纏いながら斬りかかってくるアゼルを返り討ちにせんと、ロギは炎の出力をさらに上げようとする。が、首をヴァールに噛まれ阻止された。
「グル、ガ、グァァ!!」
「ぐうっ、硬い首だ! 噛みちぎるのも一苦労だ」
「大丈夫です! ぼくが先に頭を潰します!」
バンジージャンプのゴム紐のように伸び縮みする糸を巧みに使い、アゼルはあちこちビョンビョン跳び跳ねながら攻撃を行う。
少しずつロギの頭を切り裂き、着実にダメージを蓄積させていく。このまま攻撃を続けていけば勝てる。そう思っていたのだが……。
「ヌうぅ……ルアァァァ!!」
「!? こやつ、自分の頭を爆発させ……ぐあっ!」
「うわあっ!」
切羽詰まったロギは、捨て身の攻撃に出た。ヴァールのせいで上手く放射出来ず、口内に溜め込んでいた炎を爆発させたのだ。
大ダメージを負うことも厭わずに、自らの首や頭部ごとアゼルたちを吹き飛ばした。予想もしていなかった攻撃を、二人はモロに食らってしまう。
「お、落ちるぅ!」
「アゼル、掴まれ!」
爆炎を受けた結果、二人を繋いでいた魔力の糸が切れてしまう。ヴァールは手を伸ばし、彼方へ吹き飛ばされていくアゼルを助けようとする。
「バカめ! 今ダ!」
「ぐうあっ!」
「ヴァールさん!」
その隙を突き、ロギはブレードでヴァールの六翼のうち左側の二枚を両断した。機動力を削がれてしまったものの、どうにかアゼルは助けられた。
「ごめんなさい、ぼくを助けたせいで」
「君のせいではない。油断していた妾が招いたこと、気にするな。とはいえ、もう悠長に戦っている暇はなさそうだ」
「クハハハハハ! そのマま……死ねェッ! ヒートテイル!」
命に別状はないが、戦う上で決定的に不利となる怪我を負ってしまったヴァール。体内に残っていた生命力で傷口はすぐ塞がったが、翼の再生までは無理だ。
炎片で作った仮の身体だからか、ロギ本人にダメージはないようですぐに竜の頭が復活する。内部にいる本人を叩かない限り、決着はつかないだろう。
「翼の仇はぼくが討ちます! ヴァールさん、すっごく長く伸びる糸を作れますか?」
「伸びる糸か? 分かった、それっ!」
「何ヲしテもムダだ! 今度ハ胴体を真っ二つニしてヤ……なニっ!?」
「そおーりゃあ! 食らえっ! パワールーン、シールドブレイカー!」
ヴァールの脳天と自分の身体を糸で繋いだアゼルは、バンジージャンプの要領で勢いよく飛び降りた。振り子のように動き、相手の背後へ回り込む。
ロギが振り向く前に、ルーンマジックを使ってしっぽを根元付近から両断してみせた。これで、驚異的なリーチを誇る炎のブレードはしばらく封じられた。
「よくやってくれた、アゼル! 近距離戦闘ならばこちらに分がある。竜魔法、逆鱗ノ豪腕撃!」
「グルッ、ガッ、ゴガァッ!」
厄介なしっぽを排除した今、ヴァールを止めるものは何もない。ロギの懐に潜り込み、魔法で強化された拳を数十数百発と胴体に叩き込む。
しっぽを再生させて反撃しようとするロギだったが、縦横無尽に動き回るアゼルがそれを許さない。再生しかけのしっぽを含め、敵の身体を切り刻む。
「再生なんてさせません! サモン・ボーンライダーズ! さあ、全員であいつをバラバラにしてやりなさい!」
「イエス、マスター。お前たち、かかれ!」
アゼルは、骨のグリフォンに乗った十体のスケルトンを呼び出す。リーダーであるブラック隊長のかけ声に合わせ、ロギへ突撃する。
「全身を切り刻め! 一ミリも再生を許すな!」
「カカカカカカカ!!」
「オのレ……たカがスケルトン風情ガ!」
苛立ち叫ぶロギだが、事態は好転しない。前からはヴァール、それ以外の方向からはアゼルとスケルトンライダーズ。
全ての方向から敵に囲まれ、袋叩きにされている。彼に出来るのは、炎の勢いを強め身を守ることだけだった。それも、長くは続かないが。
「もう少し……もう少しで身体を拳が突き破る。そうすれば、中にいる本体を引きずり出せる! アゼルよ、それまで攻撃を続けてくれ!」
「ええ、もちろん!」
「グウゥ……ソウは、サセヌ! こうナレば、モウ一度炎を爆発サセてくれルワ! カース・エクスプロージョン!」
このまま守るだけでは勝てない。焦ったロギは、先ほどの要領で全身を爆発させてアゼルたちを一網打尽にしようとする。
結果、ブラック隊長を除いたスケルトンたちは始末出来た。が、あらかじめ爆発を警戒していたアゼルたちは取り逃がしてしまう。
「ありがとうございます、隊長。助かりました」
「いえ、主君を助けるのは臣下として当然のこと。さあ、あの黄金の竜と合流しましょう」
再び糸が切れたが、今度は問題ない。スカルグリフォンの背中に乗り、アゼルは後方へ飛び去ったヴァールの元に向かう。
「オノレ……逃ガシタカ!」
「一度やられた攻撃だ、二度は食らわぬ。アゼル! これ以上の時間はかけられん。奴はもう炎片との融合が完了しようとしている。その前にトドメを!」
「分かりました! アーシアさん、あなたからお借りしたこの槍……今こそ使わせていただきます! いでよ、魔槍グラキシオス! 合体!」
アゼルは一旦消していた槍を呼び出す。ヘイルブリンガーの柄と魔槍グラキシオスの石突を融合させ、全体に魔力を纏わせた。
「なんと、斧と槍が大きな剣に!」
「これぞ合体兵器、魔装剣イヴィルブレイカー! この力があれば、竜の中に潜むロギを倒せるはず!」
「何ダ、ソノ武器カラ凄マジイ力ヲ感ジル……。使ワセハセヌ、死ネィ! カース」
「残念だが、もう終わりだロギ! 禁・竜魔法……金獄の宝鎚!」
イヴィルブレイカーに驚異を覚えたロギは、アゼルとブラック隊長をブレスで始末しようとする。が、完全に注意が逸れたヴァールの攻撃が放たれた。
両手を組んで黄金の鎚へと変えたヴァールは素早く接近し、アゼルたちの方を向いたロギの背中に必殺の一撃を叩き込む。
「ゴアッ……」
「アゼル、やれ!」
「はい! 奥義……イノセント・スラッシャー!」
「グッ……ガァァァァァ!!」
漆黒の竜の身体を、アゼルの放った一撃が斜めに両断する。中にいたロギも同時に斬られたことで、炎片との結合が解かれた。
悪しき者から離れた炎片は、本来の持ち主であるヴァールの元に戻り体内に吸い込まれていく。すると、あっという間に翼が再生する。
「うむ、やはり炎片があると再生力が段違いだ。これで一件ら……!?」
「な、なんです!? この揺れは!」
「まずいな、空間改変の魔法が切れたらしい。アゼル、脱出だ。取り残されれば空間もろとも消滅する、急ぐぞ!」
「は、はい!」
下方に広がる青空へと落ちていくロギを尻目に、アゼルたちは急いで地下空洞の外へ向かう。途中で目を覚ましたロギは、二人へ手を伸ばす。
「待ってくれ……私も、連れていってくれ! 頼む、まだ死にたくな」
だが、か細い声は二人に届かない。無情にも、アゼルたちは脱出していった。直後、広がっていた空間は急速に縮小し……ロギを押し潰す。
「ぐ、あああああ!! 嫌だ、この私が……最後の最後で、こんな、間抜けな死に方など……したく、な」
最後まで言い切る前に、改変された空間はロギもろとも消滅した。後に残ったのは、静寂に満ちた暗い鍾乳洞だけ。
長い戦いの末に――アゼルとヴァールは、逆鱗の炎片を取り戻したのだった。




