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268話―竜騎士アゼル

「さて、では終わらせるとするかのう。いつまでも、一人だけ遊んでおるわけにもいかぬからな。奥義、預言者ウロボロスの輪廻!」


「なっ!? なんだこのバカデカい蛇竜は!」


 仲間に急かされたビシャスは、巨大な蛇型の竜へと姿を変える。カイルと戦った時よりもさらに大きくなっており、ちょっとした小山のようだ。


「カッカッカッ。この姿になったわしは強いぞ? さぁて、ぬしもそこに転がっとるお仲間のようにしてやろうかい!」


「黙れ、ジジイ! それだけデカけりゃ、俺の攻撃を避けられまい! 一気に叩き潰してやる!」


 腕による打撃は効果が薄いと踏んだバロウは、切り離していた三つの腕を身体に戻す。そして、全ての手に槍を持ち突撃していく。


 確かに、ビシャスは巨体になった。しかし、バロウの目論見には一つ穴があった。身体が大きくなったからといって、俊敏に動けないとは言っていない。


「ほーれほーれ、相変わらずノロいのう」


「てめぇ、ズルいぞ! デカさとスピードを両立するなんて反則だろうが!」


「知ったことではないのう。大きくて早いは正義じゃからな。わしの巨体に潰されるがよい!」


 巨大を躍動させ、ビシャスはやたらぬるぬるした動きで槍を避ける。彼が動く度に、地面が揺れ千切れた草花が宙を舞う。


 下手に近付き過ぎれば、圧殺される。それを理解しているバロウは槍の柄を伸長し、出来る限り遠くから攻撃しようとする……が。


「ここまで離れれ……へぶっ!」


「んー、残念じゃのう。その距離はちょうどしっぽが届くんじゃよ。というわけでまあ……死ぬがよい」


「ま、やめ……ぐぎゃああああ!!」


 ビシャスはしっぽでバロウを叩き潰したまま、右へ左へズリズリ動かす。地面としっぽに挟まれ、バロウは為すすべなく磨り潰されていく。


 しばらくはしっぽの下でくぐもった悲鳴をあげていたが、やがて静かになる。ビシャスが確認のためにしっぽを持ち上げると……。


「見事に磨り潰されておるな。流石ビシャス、単純な攻撃力だけなら我らの中でトップなだけはある」


「カッカッカッ、この巨体じゃからのう。相手からすれば、シンプルさ故に厄介極まりなかろうて。さて、わしらもヴァール様への加勢に行くかい?」


「うむ。……と言いたいところだが、必要あるまい。今のヴァール様には、頼もしいパートナーがいる。我らの助太刀は不要だ」


「あの少年か。ふむ、ぬしを打ち破った剛の者であれば、確かにわしらは不要じゃな。では、しばしのんびりするかのう」


 そんな会話をした後、ジゼラとビシャスは元の姿に戻る。草原に寝転がり、ゆっくりと身体を休めた。



◇―――――――――――――――――――――◇



「あの洞窟の中に炎片の反応がある。アゼル、しっかり掴まっておれ。突入するぞ!」


「はい! いつでもオーケーです!」


 配下たちが全員勝利を納めた頃、ロギを追跡していたアゼルとヴァールは島の中央にある洞窟の中に入り込んでいた。


 無理矢理洞窟内部を押し広げ、地下空洞へ進んでいく。しばらくすると、広い空間に出た。が、何やら様子がおかしい。


「足元に、青空が広がってる……?」


「ふむ。奴め、妾が炎片に込めた空間改変の魔法を使ったようだな。恐らく、この空間のどこかに潜んで……そこだ! サンダーラ・ブレス!」


 洞窟の地下には、上下が反転した青空と草原が広がっていた。不自然な景色を見渡していたヴァールは、その一角に気配を感じ雷のブレスを放つ。


「へぇ、よく分かったね。私がここに隠れていることをさぁ」


「邪悪な獣はすぐに分かるわ。ロギ、妾から奪った逆鱗の炎片……この場で返してもらおう」


「もう逃げ場はありませんよ。観念しなさい!」


「ハッハッハッ! こぉんなに素晴らしい力を得たんだ、返すつもりはない! ちょうどいい、お前たちで肩慣らししよう。身も心も焼き尽くしてやる!」


 暗い愉悦に酔っているロギは、六枚の翼を広げヴァールに体当たりを叩き込む。大人しく炎片を返すつもりはさらさらないようだ。


 ヴァールは雷の魔力で形作った腕を突き出し、ロギを受け止める。真正面から向かい合い、力比べの姿勢になった。


「ふむ、力は妾と互角なようだな」


「互角? 違うね。私の方が上なのさ! 炎片のおかげでねぇ!」


 最初は互角に組み合っていたが、少しずつロギが優勢になってくる。炎片を取り込んだことで、大幅にパワーアップしているようだ。


「なんの、こっちだって負けませんよ! ヴァールさん、ぼくの魔力を受け取ってください! 二人で力を合わせれば、あいつを押し退けられます!」


「うむ、力を借りるぞアゼル! 凍てつく魔力よ、我が身体に満ちよ!」


「!? なんだ、このパワーは! 私と炎片のソレを上回っているだと!?」


 アゼルは自身の持つ魔力をヴァールに与える。雷と氷、二つの魔力が混ざり合い竜の女帝にさらなる力をもたらす。


 今度はヴァールが優勢となり、ロギの手を掴んだまま相手を後ろへ押し込んでいく。身体を屈め、土手っ腹に蹴りを叩き込む。


「フンッ!」


「ぐおっ……おのれ、よくもやったな! これでも食らえ! カース・フレア!」


「ならこっちは……ジオフリーズ!」


 蹴り飛ばされたロギは空中で体勢を建て直し、即座に口から燃え盛る火炎のブレスを吐き出す。炎に雷では相性が悪いだろうと、代わりにアゼルが迎え撃つ。


「むうううう……!」


「なかなかの勢いがあるな。だが! そんな吹雪では私を止めることは出来な……ぐっ!?」


「バカな奴め、懐が隙だらけだ。こちらは二人、お前は一人。数の差を舐めるなよ、愚物が!」


「数の差だと? くだらないね、たたが二人程度どうということはないんだよ!」


 アゼルの相手をしている間に、ヴァールによってがら空きの腹に拳を叩き込まれたロギ。一旦距離を取り、しっぽの中程から先端を炎で包む。


 燃え盛る炎のブレードを作り出し、二人同時に両断するつもりなのだ。


「二人まとめて! 叩き斬ってやる!」


「二人? それは違いますよ、ロギ。お前の敵は、もっと大勢いる! サモン・ボーンバード!」


「何だ? 今さら骨の鳥なぞ呼び出して何になる! このっ、邪魔だ!」


 アゼルは四体のボーンバードを呼び出し、ロギへけしかける。相手の視界を塞ぐように立ち回らせ、その間に次の攻撃の仕込みを行う。


「鬱陶しいンだよ! フレア・ブレード! ハハハ、ざまぁミろ! これで全滅……む!? 奴ラがいない!?」


「妾たちならここだ、ロギ! 竜魔法、逆鱗ノ鉄鎚!」


「戦技、アックスドライブ!」


「ぐおアあっ!」


 ロギがボーンバードの対処に手こずっている間に、ヴァールは音も無く相手の背後に回り込んでいた。そして、一時的に糸を切り離しアゼルとコンビネーション攻撃を叩き込む。


「ぐ、ウ……ガ、ウグあぁ……」


「ど、どうしたんでしょう? そこまで力を込めたわけではないはずですが……」


「あの眼……狂気に呑まれつつあるな。無理もない、逆鱗の炎片を取り込んだのだから」


「どういうことなんです……うわっ!?」


「逃がさヌぞ、貴様らァァァ!!」


 攻撃を受けたロギの様子が、突如おかしくなる。かつてのヴァールのように瞳に狂気が宿り、声に不気味なノイズが混ざる。


 何が起きているのかアゼルが問おうとした直後、炎のブレードが飛んできた。ヴァールは攻撃をかわしつつ、アゼルの質問に答える。


「逆鱗の炎片には、多くのモノが宿っている。竜の魔力、竜人たちの血と祈り、そして……妾の狂気が」


「つまり、今のロギは」


「そうだ。妾の狂気に取り憑かれておる。このまま侵食が進めば、奴の自我は消え……妾を元にした、ナニカへと変わる。そうなれば、この大地に大いなる災いが降りかかることになるだろう」


 ロギは逆鱗の炎片を取り込んだのではなかった。逆に、炎に呑まれてしまったのだ。このまま放置していれば、暴走したロギが全てを破壊するだろう。


「そんなことはさせられません! 今のうちにあいつを倒さないと!」


「ああ。これは妾のケジメでもある。たとえこの命に替えてでも、奴を止めてみせよう。絶対に!」


「グルァァアァァ!!」


 雄叫びをあげる黒竜を睨み付けながら、アゼルとヴァールは身構える。逆鱗の炎片を巡る戦いは、最終局面に突入しようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 力を取り込んだつもりが逆に取り込まれるとは(-""-;) 希望の力になるはずが祟りになるとは(ーー;)早く終わらせんと( ゜Å゜;)
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