264話―竜たちの逆襲!
ヴァールの叫びが届いた四肢たちは、それぞれ行動に移る。真っ先に動いたのは、ジークベルトへの告白を済ませたリンベルだった。
「あっちゃー、呼ばれちゃった。本当ならすっぽかしたいけど……この声、今までのヴァール様じゃない。正気に戻ったなら、行かなきゃ」
「リンベル、僕は……」
「んふふ、返事は帰ってから聞かせてねジーク。前向きな答え、期待してるから。二人とも、あたしが戻るまでにジーク襲っちゃダメだよ? じゃ!」
ジークベルトの答えは後のお楽しみということにしたリンベルは、翼を広げ雷帝の寝床を飛び立つ。恋のパワーを燃やし、力強く。
「……正気に、返られたか。我らですら成し遂げられなかったことを、かの少年はやり遂げたのだな。なら、次は我が動く番だ」
「ハハッ! こいつぁいいや。ヴァール様がやっとこさ元に戻ったってーのは嬉しいねぇ。どれ、もういっちょ暴れるとするかぁ!」
少し遅れて、ジゼラとグルーラも行動に移った。アゼルとの戦いで破損した鎧を修復した鋼の守護者は、宝物庫を発つ。
途中、焦熱の監獄塔からやって来たグルーラと合流し、共に主の元に向かう。
「よぉジゼラ! 聞いたかあの声。とうとう、ヴァール様が目覚めたようだぜ!」
「喜ばしいことだ。感謝せねばなるまいな、地上よりの客人たちに」
「ケケッ、ちげぇねえ。んでもって、その後はリベンジだな。おめぇも、やられたクチだろ?」
「……ノーコメントだ」
「んだよぉ、どんな風にやられたのか教えろよ! 別に減るもんじゃね……おいコラ、翼を封印するんじゃねぇぇぇ!!」
緊張感のカケラもなく、騒々しくわめきながら。
「……う、む。いかんいかん、気絶しておったようじゃな。危うく寝過ごすところじゃったわい。ヴァール様、ビシャス参上致しました」
「よく来てくれた。済まぬな、ビシャス。ゆっくり休ませてやりたいところだが、もう一働きしてもらえるか?」
「カッカッカッ。このビシャス、正気に返られたヴァール様のためならばいくらでも老骨に鞭を打ちますわい」
最後に動いたのは、ビシャスだった……が、ちゃっかりしたもので真っ先に主の元に馳せ参じた。申し訳なさそうにしている主に、そう答える。
「ヴァールさん、慕われてるんですね」
「カッカッカッ、当然じゃよお若いの。どのように変貌されても、わしらの主であることに変わりはない。忠義を尽くす……おお、残りの者らも来ましたな」
「おっ待たせー! ヴァール様、今度は何があったんですー!?」
そこに、リンベルたちも到着した。揃った役者たちに、ヴァールはこれまでの出来事を手短に説明する。
「なるほど。闇の眷属が炎片を奪った、と。なれば、我ら四人が動かねばなりますまい」
「厄介な手練れじゃのう。わしの千里眼をも欺くとは敵ながらやりおるわい」
「敵の増援が来ないとも限らぬ。全員、油断はするなよ。妾の宝を奪った愚行……必ず後悔させる。よいな?」
「お任せを、ヴァール様。我々雷霆の四肢、全てあなた様の意のままに」
主の言葉に、ビシャスたちは同じタイミングで同じ言葉を口にする。ヴァールは頷き、遥か北の空へ顔を向けた。
「……感じる。奴は北へ逃げたな。果ての海に、小さな小島がある。そこで、明日の夜を待つつもりだろう」
「明日、ですか? すぐにでも脱出出来そうなものですけど」
「それは無理だ。全ての炎片は、一つに纏まっていた頃から強力な守りの魔法がかけられている。唯一の例外を除き、結界をすり抜け大地の外に持ち出すことは不可能だ」
「例外……あ、新月の夜ですね?」
「そうだ。新月の夜は、聖なる闇の夜。神々の力が最も弱まり、闇の眷属どもの力が最高潮となる夜だ。その時だけ、炎片を外に持ち出せる」
すでに時間は夕方。翌日の夜までにロギを見つけ出して始末しなければ、最後の炎片を守り抜くことは出来ない。
迅速果断に、事を進める必要がある。ヴァールは六枚の翼を広げ、北の空へ向かって猛スピードで飛んでいく。
「行くぞ! 我ら竜の恐ろしさを教え込むのだ!」
「おおーーー!!」
戦いの時は、近い。
◇―――――――――――――――――――――◇
「やあ、兄弟。よく来てくれたね、助かったよ」
「首尾よくコトが運んだようだな、ロギ。しかし難儀なもんだね、新月の夜にならんとここを出られんとはなぁ」
アゼルたちの暮らす大地、ギール=セレンドラクの北の果て。海の終わり際に、不釣り合いなほど大きな島が一つ存在していた。
島の中央にある洞窟に身を隠しているロギの元に、四人の男女が集まっている。全員、ラ・グーの配下たる魔の貴族たちだ。
「まあ、別にいいさ。どうせあいつら追ってくるだろうし、この力を試すいい機会だと思えばね。クックックッ」
「ハッハ、相変わらず腹黒だねぇロギは。勿論、あたいらも遊ばせてくれるよなぁ?」
「当然さ、リルス。最後に残った同志なんだ、ある程度望みは叶えるよ」
両腕に針を装着した、蚊を擬人化したような姿をしている女の言葉にロギはそう答える。直後、洞窟の外に顔を向けた。
やって来たのだ。命よりも大切な宝を奪われ怒りに燃える、竜の群れと一人の英雄が。
「ずいぶんと早い到着だ。じゃ、みんな手筈通りに頼むよ。一人ずつ分断して、ちゃちゃっと仕留めておくれ」
「分かってる。お前たち、行くぞ」
リーダー格である囚人服を着たスキンヘッドの大男は、仲間を連れ洞窟の外に出る。アゼルたちを迎撃し、始末するために。
一方、連続性テレポートを駆使してヴァールたちはあっさりとロギのいる島へやって来た。眼下にある島を見下ろし、様子を探る。
「ビシャス、島の様子はどうだ?」
「生命反応が五つほどありますのう。うち四つは、ロギとかいう眷属の仲間でしょうな」
「ふむ。ならばちょうどいい。その四人の相手、お前たちに任せる。妾とアゼルで、ロギを殺す」
「へへへ、任せてくださいよヴァール様。オレたちの手にかかりゃ、誰が相手でも」
「あ!? み、皆消えちゃいました!」
話をしている最中に、ビシャスたちが突如消えてしまう。敵の攻撃を受けたということに即座に気付き、アゼルとヴァールは身構える。
「やれやれ、随分な出迎えだ。ま、いい。向こうから仕掛けてきたのだ、これでもう遠慮する理由は無くなったな」
「ええ。お腹を刺された恨み、たっぷりと晴らしますよ!」
一人と一体は、島を目指して真っ直ぐ急降下していく。逆襲の時間が、やって来た。
◇―――――――――――――――――――――◇
「おいおい、誰だか知らねーけどよォ。ひでぇんじゃねえかァ? 人が話してる時に、いきなりワープさせるなんてよぉ」
「フッハ、そんなのは知ったことじゃあないね。このミラクルミュージシャン、ビーゼ様にはなぁ!」
島の北にある荒野に転送されたグルーラの前に現れたのは、毒々しい色合いのコートと千七十万色に輝くモヒカンが特徴的な男だった。
魔物の骨と臓物で出来た悪趣味なギターを掻き鳴らし、騒音を撒き散らしながら身体を揺らしている。不快な音に、グルーラは顔をしかめた。
「うるっせぇーなぁ。そのガァーガァーあひるみたいにうるせぇの止めろよ。耳にタコができらぁ」
「なんだと!? 貴様、このビーゼ様のロック魂にケチつけようってのか! ラ・グー様にも認められたこのテク、舐めんじゃねえぞ!」
「あー? ギターの音がうるさくてなぁーんにも聞こえないですー。あとオレの趣味じゃないんで、ロックとか言われても知ったこっちゃねえんだよこのマザー【ピー】が」
「殺す! この世に生まれてきたことを後悔させてやるぜ! 覚悟しろやてめぇぇぇぇ!!!」
「おーおーこわ。オレはもっと静かな音楽が好きなんだよ。クラシックとか最高だぜ? ま、てめぇにゃ理解出来ねえだろうがな!」
おもいっきりコケにされたビーゼは怒り狂い、グルーラを睨み付ける。寒風吹き荒ぶ荒野で、戦いが始まった。




