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262話―三位一体、狂気を断つ

 シャスティとアーシアの身体が、少しずつ黄金へと変わっていく。変化そのものはゆっくりとしたものだが、油断は出来ない。


 ヴァールのさらなる攻撃を受ければ黄金化が加速するかもしれないのだ。そうでなくても、手足が金になり動きが鈍れば、容易く殺される。


「全員纏めテ始末してクれる! 禁・竜魔法……金獄の邪噛!」


「アゼル、来やがるぞ! 気ィ付けろ!」


 両腕を黄金化させたヴァールは、そのまま手を床に突き刺す。すると、それまでアーシアたちを狙って現れていた魔法陣がヴァールの目の前に集合する。


 そして、金色に輝く巨大な竜の頭部と長い首が地面から生えてきた。竜の口には鋭く尖った牙がビッシリと並んでおり、テラテラ光っている。


「喰イ殺セ! 黄金のアギトよ!」


「ガルァァァァァァ!!」


 黄金の竜頭はアゼルたちに狙いを定め、顎を限界まで開き襲いかかる。迎撃しようとするアゼルを、アーシアが止めた。


「待て、アゼル。貴殿は力を温存せよ。ヴァールを仕留めるためにな」


「でも……!」


「案ずるな。我らはまだ戦える。あの程度の紛い物の竜……仕留めるのは容易い」


 右足が黄金化しながらも、アーシアは戦う。魔槍グラキシオスを構え、全身を魔力で覆いながらグッと力を溜める。


 アゼルを下がらせた後、槍投げの体勢に入った。頭上より襲い来る黄金竜の頭部を見上げながら、必殺の一撃を放つ。


「先ほど見せた冥門は父より受け継いだもの。だが……これより披露する参以降は全て、余のオリジナルだ! 冥門解放、参の獄……『旋壊掃射』!」


 アーシアが叫ぶと、彼女の周囲の空間が歪む。黒い穴がいくつも開き、その中から大量の闇の槍が姿を現した。


「ファイア!」


 掛け声と共に、アーシアは勢いよく槍を投げた。直後、穴から一斉に闇の槍が放出され黄金竜の頭部へ襲いかかる。


 黄金の牙を砕き、頑強な顔を抉り貫き、破壊していく。その牙の脅威をもたらすことなく、黄金竜はスクラップに成り果てた。


「おノれ……ならバ、複合魔法ヲ使うマで! 禁・竜魔法……逆鱗ノ金旋刃!」


「チッ、またあのグルグル刃か!」


 禁術を破られたヴァールは、即座に二つの竜魔法を合成し、即席の複合魔法を作り出した。ヴァールを中心に、四つの黄金の刃が回転する。


 さらに、回転する刃から棒状のナイフが生成されアゼルたち目掛けて飛来してくる。どうにか叩き落とすアゼルたちだが、少しずつ捌ききれなくなってきた。


「まずいな、ヴァールが少しずつ近付いてきている……どうにかして逃げるか奴を止めるかしないと、あの刃に切り刻まれるぞ」


「その前ニ、黄金のナイフで身体ヲ貫かれルのが先ダろうがナァ! ……イヤ、逆転されテは厄介ダ。このまま一気に、トドメを刺してヤろう!」


 床に刺していた手を引き抜き、ゆっくりとアゼルたちに接近しつつヴァールは口元に雷の魔力を溜める。回転する刃と空を裂くナイフ、そして雷のブレス。


 三位一体の連続攻撃を用いて、確実にアゼルたちの息の値を止めるつもりなのだ。勿論、一つでもまともに食らえば命はない。


「このままじゃ、皆やられてしまいます! どうしたら……」


「アゼル、キャプチャーハンドはまだ使えるか?」


「ええ、使えますけど……」


「よし、それ使ってアタシをアイツの頭上にブン投げろ! このハンマーで、頭をブッ叩く!」


 飛んでくるナイフを叩き落としつつ、シャスティはそう叫ぶ。すでに彼女の両足は、膝近くまで黄金に変わってしまっていた。


 その状況では、自力での跳躍が出来ない。故に、アゼルに助力を乞うたのだ。幸い、腕はまだ黄金化していないため攻撃に支障はない。


「分かりました。でも、ナイフの数が多すぎて危ないですよ?」


「ならば、余に任せろ! ダークネス・ストーム!」


 普通に投げただけでは、ナイフの格好の的でしかない。そこで、アーシアが一計を案じた。闇の魔力を用いて突風を起こし、ナイフをあらぬ方向へ吹き飛ばす。


「今だ! この風も長くは保たん、迅速に行動を起こせ!」


「ありがとうございます、アーシアさん! 行きますよ、シャスティお姉ちゃん。バインドルーン、キャプチャーハンド! てやあーっ!」


「っしゃあ! やってやるぜ!」


 アゼルはヘイルブリンガーからスライムハンドを伸ばしてシャスティを掴み、おもいっきり斜め上に放り投げる。狙うは、ヴァールの頭だ。


「愚かナ! 自ら切り刻マれに来ルとはな! そのマま八ツ裂きニなるガいい!」


「ヘッ、そうはいかねえよ! 戦技、トルネイドハンマー・ゴールデンバット!」


 ヴァールは刃を延長し、シャスティを切り刻もうとする。対するシャスティは、一足先に完全黄金化したハンマーを振り回し刃を迎え撃つ。


 黄金になったことでさらに強度が増したようで、シャスティは一方的に刃を叩き砕いてみせる。回転しながら上昇していく姿は、まるでプロペラだ。


「バカな! こんナことがあルわけ……ダガ! もう遅イ。チャージは完了しタ。まずハ貴様かラ消し炭ニ変えてクれる! サンダーラ・ブレス!」


「シャスティお姉ちゃん、危ない!」


「へっ、問題ねえぜアゼル。この程度の雷で焼かれてちゃあ、聖女失格ってもんよ! 創命教会イチの暴れん坊の耐久力、見せてやらぁ!」


 攻撃を避ける手段を持たないシャスティに、容赦なく雷のブレスが浴びせられる。アゼルは助けようとするも、ナイフの雨を防ぐのに手一杯だ。


「死んだナ。おとナしくシていれバ、黄金トなって永遠ニ存在出来たものヲ……ナニっ!?」


「言ったろ? アタシの耐久力を見せてやるってよ。よくもやってくれたなぁオイ、コイツはお返しだ! 戦技、ヘルムクラッシュ!」


「グッ……ゴハァッ! 貴様、魔力の膜を纏っテブレスの威力ヲ軽減したナ!」


「へへっ、バレたか。でも問題はねえだろ? 耐えたモン勝ちなんだからな!」


 消し炭になったかと想われたシャスティだったが、恐るべきことに生きていた。流石に無傷とはならず、修道服が破れキワドイ格好となっていたが。


 攻撃を叩き込んだ反動で、シャスティはさらに上空へ舞い上がる。脳天に一撃を食らったことで、ヴァールの攻撃が一瞬止まった。


「アゼル、今だ! 冥門解放、参の獄! 『旋壊掃射』!」


「はい! ジオフリーズ!」


「グル……ガァァッ!!」


 その隙を突き、アーシアとアゼルは一斉攻撃を叩き込む。残る三枚の刃を完全に砕き、さらにヴァール本体にもダメージを与える。


 再生能力を封じられたこともあり、ヴァールは一気に満身創痍となる。この機を逃すまいと、アゼルは一気にトドメを刺すことを決めた。


「チェンジ、ノーマルモード! アーシアさん、シャスティお姉ちゃん! 反撃される前にトドメを刺します! 全員の最大奥義で、ヴァールさんを倒しましょう!」


「最大奥義、か。よかろう。ならば、精神世界での修行で得たこの技を用いるとしようか! 奥義……エスカトン・バスター!」


「おうよ、やってやるぜ! ……あとちょっとだけもってくれよ、アタシの身体! 奥義、カタストロフドドリラー!」


 アゼルの言葉を合図に、アーシアは巨大化させた槍を放ち、シャスティはハンマーの打面をドリルへ変化させ、高速回転させつつ振り下ろす。


 そして、二人の攻撃に合わせアゼルは跳躍する。ヴァールに巣食う狂気を打ち払い、千年の呪縛より解放せんと力を込めて。


「さセぬ……させぬ、ゾ。妾は……まだ、果たせていない。ギャリオンとの、約束、を……」


「ヴァールさん。もう、いいんです。もう、自分で自分を苦しめる必要はありません。あなたの想いは……ぼくが、引き継ぎますから。奥義……イノセント・スラッシャー!」


 シャスティの攻撃が脳天に、アーシアの一撃が腹部に、そして……アゼルの想いが込められた奥義が、胸に炸裂する。


 三位一体の奥義を受け、強大な力を誇った金雷の竜は、ついに力尽きた。手足を形作っていた雷の魔力が霧散し、仰向けに倒れていく。


「ギャリ……オン……」


 想い人の名をこぼし、一筋の涙を流しながら。


「……ガハッ!」


「や……やったのか? アタシたち、やったんだよな、これ」


「ええ。勝ったんです。ぼくたちは……ヴァールさんを倒したんです!」


 落ちてくるシャスティをキャプチャーハンドでキャッチしつつ、アゼルはそう口にする。その直後、ヴァールの巨体が地に落ち轟音を立てる。


 それと同時に、アーシアたちを蝕んでいた黄金の呪縛の進行が止まった。二人とも手足が完全に黄金化してしまっていたが、いずれは元に戻るだろう。


「よくやったな、アゼル。さあ、炎の元へ行くがいい。余たちは大丈夫だ、しばらくすれば身体も元に戻るだろうさ」


「分かりました。行ってきます」


 シャスティを降ろした後、アゼルは祭壇に向かう。ゴブレットの残骸の上で燃え盛る逆鱗の炎片に手を伸ばした、その時。


「アゼルさん! よかった、無事でしたか!」


「フラフィさん!? 今までどこに行ってたんです? 心配しましたよ」


 どこからともなく、アゼルのすぐ隣にフラフィが現れた。倒れ伏すヴァールを見た後、フラフィは微笑む。


「無事、倒したんですね。あの金雷の竜を」


「ええ。これで、ヴァールさんも元にもど……!? う、かはっ」


「本当に感謝していますよ。おかげで……誰にも邪魔されず、楽に炎を手中に収められたんですからねぇ」


「アゼル! 貴様、何をしている!」


 次の瞬間、アゼルの腹に短剣が突き刺さった。フラフィはアゼルを祭壇から蹴落とした後、己の顔に触れる。


 そして、粘土をこねるように顔を変えた後メイド服を脱ぎ捨て、本来の姿に戻った。漆黒のタキシードに身を包んだ、闇の眷属へと。


「クックックッ。これで逆鱗の炎片は私のモノですねぇ。偉大なる魔戒王、ラ・グー様のしもべ……このロギが、いただきました」


 勝ち誇った口上を述べ、魔の貴族は邪悪な笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ガ~~ン!!(゜ο゜人))そ、そんなメイドさんがあの野郎だったなんて(⊙_◎) ヒデーぞメイドに化けるなんてロマンも安らぎもないじゃないか(╥﹏╥) あれ?でも誰かに化ける能力なら本人が…
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