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259話―炎の眠る場所

「……静かですね。誰もいないのでしょうか?」


「道中、大量に兵士どもが襲ってきたからな。ほぼ全員、出払っているのだろう。まあ、その方が都合がいい。余計な消耗をせずに済む」


 金結晶の大聖殿に侵入したアゼルたちは、どこまでも真っ直ぐ伸びる廊下を歩いていく。人の気配はまるでなく、眠っているかのように静まり返っている。


 途中、いくつか脇道へ続く扉があったがアーシアの助言により全て無視した。彼女曰く、扉の向こうには罠しかないのだとか。


「余の魔力探知を用いれば、どのような罠が仕掛けられているのかを探るのは容易い。真っ直ぐでいい、アゼル。寄り道せずこのまま進むのだ」


「分かりました、アーシアさん。……ちなみに、扉の先には何があるんです?」


「腹を空かせた竜どもが手ぐすね引いて待っている。タチの悪いトラップゾーンだ、一方通行だから入ると戻れん」


「行かなくて正解でしたね……あ、大きな扉がありますよ!」


 そんな会話をしながら歩いていると、廊下の端に到着した。二人で協力して、二十メートルほどの高さがある観音開きの扉を開く。


「!? わ、ビックリした……何だか、凄く幻想的な光景ですね」


「ああ。恐らく、空間を歪める魔法を使っているのだろう。落ちればただでは済むまい、気を付けよ」


 扉の先には、星空が広がっていた。上も、下も、前後左右も全て。煌めく星々で埋め尽くされている。その中を、横倒しになった黄金色の結晶の柱が横切る。


「これを渡っていけばいいのだろう。手すりはなし……か。慎重に進もうか、アゼル」


「そうですね、ここでおっこちたら元も子も……あ、ならこうしましょう。はい!」


「……?」


 アゼルは右手をアーシアの方へ差し出す。数秒ほどその意味を考えていた彼女は、合点がいったようでポンと手を叩く。


「なるほど。手を繋いで行こうというわけだ。では、決して離すでないぞ。固く握っていろ」


「はい!」


 ぎゅっと手を繋ぎ、二人は柱へ一歩踏み出した。一応、歩くのに支障はないが、ところどころ丸く滑らかになっているため油断は出来ない。


 慎重に歩を進め、柱の先へ向かう。しばらく進んでいると、反対側が見えてきた。折り返し地点となっており、別の柱が斜め下へ向かっている。


「ふむ。どうやら下に降りればいいようだな。アゼルよ、ここはもう一気に降りていいだろう」


「そうですね。サモン・ボーンバード! さあ、降りていきますよ!」


 どこへ向かうべきなのか分かった今、わざわざ不安定な足場を渡る必要はない。そう判断した二人は、ボーンバードに乗って一気に下へ降りる。


 チラリと横を見ると、金結晶の柱が何度も何度も折り返し下へ向かっているのが見えた。果たして、この星空はどこまで続くのだろうかとアゼルは考える。


「む……アゼル、そろそろ着くようだ。降りる準備を」


「ええ。……いよいよですね、この先に炎片が……」


 数十分ほどかけて、アゼルたちは神殿の最下層に到達した。それまでずっと下にも見えていた星空が突如消え、金と銀のタイルで埋め尽くされた床が現れる。


 そこに降りた二人は、空中に揺らめく炎に導かれるように先へ向かう。数分後、またしても観音開きの扉が現れた。この先が、終点なのだろうか。


「よし、開けるぞアゼル。何が待ち受けているか分からぬ。いつでも戦えるようにしておけ」


「はい。では、行きましょう」


 不意打ちを警戒しつつ、二人は扉を開け先へ進む。扉の向こうには、大きな広間があった。再奥部に設置された豪華な祭壇の上にあるのは……。


「ありました、恐らくあれが最後の炎片です!」


「……いやに大きいな。それに、とても禍々しいオーラを感じる。ヴァールめ、この千年何をしてきたというのだ?」


 祭壇の上には、アゼルの身長をゆうに越える大きさのゴブレットが安置されていた。その中で、金色の炎が燃え盛っている。


 かつてギャリオンからヴァールに授けられた、逆鱗の炎片だ。しかし、これまで手に入れた炎片とは違いおぞましいオーラを纏っていた。


「ぼくも感じます。あの炎は、普通じゃない。このまま手に入れてもいいのでしょうか……」


「さあな、それは実際に手に入れ……! この気配!

アゼル、来るぞ!」


 祭壇に向かおうとしたアーシアは、邪悪な気配が近付いてくることに気付き警告の声を出す。その直後、広間の天井を破壊しながら一体の竜が現れる。


 聖戦の四王の一人にして、数多の竜を束ねる雷の覇者。『金雷の竜』ヴァールが、不敬なる者たちから炎片を守るため降臨したのだ。


「ヨもや、ここマで入り込まレるとハ。我が四肢たちモ、衰えたもノだ。ダガ! 妾ガいる限リ、何者にも炎ハ渡さヌ!」


「……ヴァールさん。もう、一人で苦しむ必要はありません。あなたを蝕むその狂気、ここで祓います。そして……逆鱗の炎片を、受け継ぐ!」


「ヤってミろ、小僧! 狂おシき雷ノ雨を受けてナオ、生きてイられるトいうノならばナ! 竜魔法……逆鱗ノ雨!」


 ヴァールが雄叫びをあげると、広間の天井を雷雲が覆い尽くす。その直後、アゼルたちを狙って無数の落雷が襲ってくる。


「こんなところで、負けていられません! ガードルーン、イジスガーディアン!」


「あの時の敗北は、余のプライドを傷付けた。大いなる魔の貴族として、同じ相手に二度敗れることは許されん。ここで倒させてもらう! ダークネス・スパイラル!」


 アゼルとアーシアは、素早くそれぞれの得物を呼び出し行動に移る。アゼルがバリアを貼って雷の雨を防ぎ、アーシアが攻撃を行う。


 螺旋状の闇の衝撃波が放たれ、真っ直ぐヴァールへ突き進む。竜の女帝は、雷の魔力を用いて己が四肢を作り出し迎撃する。


「下ラぬ。そんナものデ、妾は倒せハしなイ。竜魔法……逆鱗ノ盾!」


「下らない? そう判断するのは早計だぞ、竜よ。ダークネス・スパイラル、【拡散(ディフュージョン)】!」


 電撃の盾を作り出し、攻撃を受け止めようとするヴァール。アーシアはその動きを読んでおり、放った技を変化させる。


 盾にぶつかる直前、衝撃波が散開して上下左右から回り込み、また一つに戻った。流石のヴァールも予想外のようで、飛んで逃げようとする。


「チィッ……」


「逃がしません! バインドルーン、キャプチャーハンド!」


「グルォッ……ガァッ!」


 アゼルの放ったスライムハンドにしっぽを掴まれ、回避し損ねたヴァールに衝撃波が全弾クリーンヒットする。鱗を砕き、その下にある柔らかな肉を抉る。


「小癪な、真似ヲ! ダガ、妾にハ効カぬ!」


「そんな、傷が再生して……!」


「焦るな、アゼル。この程度はこちらも予想済みだ。何せ、奴は胴体を丸ごと消し飛ばしても普通に再生しおるからな」


「ええ、それはちょっと……嫌ですね」


 せっかく与えたダメージを帳消しにされ、アゼルは焦りを見せる。そんな彼を宥めつつ、アーシアは以前の戦いについて話す。


 流石のアゼルも、ヴァールの規格外さに言葉も出ないらしい。


「でも、それだとぼくたちに勝ち目がありませんよ? そこまで来ると、もう不死身と言っていいレベルですし」


「ああ。だが、この世に解き明かせぬ謎はない。恐らく、奴の超再生能力にもなにかしらカラクリがあるはず。それを暴き、不死身の仮面をひっぺがしてやろうではないか」


「……分かりました。解析をお任せしても?」


「万事問題ない。余の全力を以て、奴の秘密を暴いてやる」


「ゴチャゴチャと、何ヲやってイる! サンダーラ・ブレス!」


 こそこそと話をしているアゼルたちが気に食わないようで、ヴァールは大きく息を吸い込んだあと雷のブレスを吐き出す。


 アゼルたちは左右に別れ、ほとばしる雷のブレスを避ける。ここから、ヴァールの秘密を暴くための二人の共同作業が始まる。


「ぼくがヴァールさんを引き付けます! その間に、アーシアさんは再生の秘密を!」


「任せておけ。奥義……アナライズド・アイ! さあ、見せてもらうぞ。貴様の不死の秘密をな……」


「グルァァァァァ!!」


 怒れる竜との、決戦が始まった。



◇―――――――――――――――――――――◇



「よっと。やーっと着いたぜ。さて、ここを進んでけばいんだな? へっ、アタシ一人でもらくしょーだっつーの」


 その頃、金結晶の大聖殿に新たに一人の人物が現れた。カイルの介抱をジークベルトに押し付けたシャスティが、アゼルの助太刀をすべくやって来たのだ。


「さて! 急いで後を追わねえとな! まずは……この扉から調べてみるか!」


 廊下を進まず、シャスティは罠の部屋に続く扉へ向かう。扉を開けた直後……彼女の悲鳴がこだました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悪いがヴァール、貴女を倒してもらう!
[一言] 千年の時と情念が炎を変えてしまったか?(ʘᗩʘ’) しかしそれも今、本来在りし元に戻る時が来たのだ(-_-メ)新たな時代の為にヴァール貴方を超えるよ( ಠ_ಠ) そして最近出番無かったシ…
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