256話―闇霊『魔弾の射手』カイル
「皆、よくやってくれましたわ。初陣でここまでやれたのですから、上々の戦果ですわよ」
『へへ、ありがてぇ。姐御に誉めてもらえるたぁ最上のご褒美だぁ。……ちっと疲れたんで、わっちらは一旦引っ込むぜ。また呼んでくれよな、姐御!』
身体にくっついている氷の粒を落とした後、カマイタチ三兄弟は溶けるように消えていった。それと同時に、部屋を凍結させていた氷も溶け始める。
グルーラが敗れたことで、氷の魔力が消えたのだ。床を覆っていた氷はすでに完全に融解しており、あちこち水溜まりが出来ていた。
「少し歩きにくいですが、まあ問題はありませんわね。急いでアーシアさんと合流しましょう」
「……待ちな、嬢ちゃん。これを持ってけ」
水溜まりに入らないよう気を付けながら、アンジェリカは部屋の外へ繋がる扉へ向かう。倒れているグルーラの側まで来ると、声をかけられた。
「なんですの、この小瓶は」
「そん中にゃ、体力と魔力を回復する丸薬がたんまり入ってる。仲間にも分けてやれ」
「何故それをわたくしに?」
小さな粒状の薬が大量に詰められた小瓶を受け取りながら、アンジェリカは問う。対するグルーラは、寝転んだままニッと笑った。
「オレを倒したご褒美だ。行きな、お前はもう刑期を終えた。早いとこ、仲間のとこに向かえ」
「潔いのですわね。そういうところ、わたくし嫌いではありません。では、これはありがたく受け取っておきますわ」
一礼した後、アンジェリカは部屋を出る。アーシアと合流し、共にアゼルの助太刀をするために。
◇―――――――――――――――――――――◇
「止まれ、侵入者ども! それ以上は進ませ……ぐああっ!」
「悪いけど、退いてもらうよ! 怪我をしたくなかったら、引っ込むことだね!」
「そういうこった。ほらっ、邪魔する奴らはブっ飛ばすぜ!」
その頃、シャスティとカイルはジークベルトに案内され雷帝の寝床を進んでいた。城の奥にある、金結晶の大聖殿へ行くためのワープ装置を目指して。
「やれやれ、流石に数が多すぎるな。あんまり魔力を使っちまって、本番でガス欠なんてなったら目も当てられねえぜ」
「そうだね。ま、ここまで来れば後はこの先のホールを通り抜けるだけさ。だから……後は、君とシャスティさんだけでも行けるね?」
「……ジークベルト? そりゃどういう意味だ?」
目的地までもう少し、というところでジークベルトは足を止める。カイルが尋ねると、ジークベルトは後方を指差す。
大勢の兵士たちが、カイルたちを止めるために押し寄せてきているのだ。このまま先に進んでも、すぐに追い付かれてしまうだろう。
「僕はここに残って、彼らを足止めする。その間に、二人はワープ装置のところへ。大丈夫、すぐに片付けて追いかけるよ」
「……分かった。無茶はすんなよ? よし、行くぞシャスティ」
「ああ。ジークベルト、無理はするなよな」
「うん、ありがとう。さ、急いで!」
足止めを買って出たジークベルトを残し、カイルとシャスティは先へ進む。廊下を走り、もう少しでホールに到着する……その時、今度はカイルが立ち止まる。
「どうした、カイル。まさか、今度はお前が残るとか言わねえだろうな?」
「いや、違う。感じないか、シャスティ。この先に、とんでもないヤツが待ち構えてるのを」
「……ああ、薄々そんな気配はしてるぜ。でも、だからって怖じ気づいてるわけにゃいかねぇだろ?」
「ああ。だからよ、ここで……切り札を使うのさ」
ホールのある方角から、強烈な殺気が漂ってきていることに、二人は気付いた。そこでカイルは、懐からあるものを取り出す。
取り出したのは、濁った灰色の液体が納められた特別製の試験管。何かろくでもないものだということだけは、シャスティにも分かった。
「おいカイル、そりゃなんだ?」
「これはな。闇霊が肉体から魂を分離する時に使う薬……『ゼロ式霊魂剥離薬』だ」
そう説明しながら、カイルは試験管の蓋を外す。試験管を揺らし、中の液体をゆっくりとくゆらせながら話を続ける。
「……過去の愚行の戒めとして、お守り代わりに一本持ち歩き続けてきたんだ。もう二度と、過ちを犯さないようにってな」
「でも、使うんだろ? アゼルを助けるために」
「ああ。今はなりふり構っていられない。リリンにも言われたしな。どんな手を使ってでも、アゼルを助けろと」
ニヤリと笑いながら、シャスティは声をかける。カイルは力強く頷き、試験管の中の液体を……一息に、飲み干した。
「う、ぐっ……! へっ、久々だな、この感覚は。シャスティ、お前は知ってるだろうが……闇霊は本体をやられたら終わりだ。しっかり、守っといてくれよ?」
「へっ、任せな。だからよ、たっぷり暴れてこい。ホールで待ってる誰かさんを、おもいっきりハリ倒してきな!」
「……ああ。行ってくる」
言葉を交わした直後、カイルの身体が床に倒れる。そして、分離した魂がゆっくりと前に歩いていく。シャスティは、何も言わず仲間を見送る。
そんな彼女の腰にくくりつけられた黒ドクロの水晶が、けたたましい叫び声をあげた。いつもなら不快に思うシャスティだが、今回は違う。
『警告! 警告! 闇霊『魔弾の射手』カイル接近中! 警戒セヨ! 警戒セヨ!』
「その必要はねえんだよ、バカ水晶。今回の闇霊は……最高の仲間なんだからよ」
シャスティの顔には、笑みが浮かんでいた。
◇―――――――――――――――――――――◇
「……ふぅむ。リンベルとジゼラだけでなく、グルーラすらも敗れおったか。カッカッカッ、結構結構。相手にとって不足はないようぢゃな」
ワープ装置がある部屋の手前にある、無数の柱が立つホールの中央。そこに、雷霆の四肢最後の一人……ビシャスが陣取っていた。
自身の持つ特殊能力、千里眼を用いて仲間たちの敗北を知った彼は、ニヤリと笑う。強い者と戦いたくて仕方がないのだ。
「さて、そろそろ仕掛けてきたらどうじゃな? わしには……不意打ちなど通用せぬぞ?」
のんびりとひげの手入れをしていたビシャスは、おもむろに声を出す。直後、柱の陰から十二発の弾丸が放たれ、ビシャスに襲いかかる。
「カッカッカッ、この攻撃……なるほど、あの時相手をした小童か。ふむ、最初の相手には相応しいのう!」
「ああ、ありがとよ。んで、そのまま……あんたが戦う最後の相手にもなるわけだ! 戦技、バレットコンダクター!」
鋭い弧を描き、弾丸はビシャスを貫かんと突き進んでいく。が、千里眼によって軌道を見切られ、難なくかわされてしまった。
だが、その程度でカイルの攻撃は止まらない。弾丸はさらに軌道を変え、三発ずつに別れて前後左右からビシャスを襲う。
「そのまま貫かれな、老いぼれ!」
「カッカッカッ、老いぼれを舐めるでないぞ? 豊富な人生経験の賜物を見せてやろうぞ! 戦技、ディフェンシブウィップ!」
ビシャスは両手に魔法の鞭を持ち、ぐるりと回転しながら振り払う。鞭は布のように幅が広がり、飛んでくる弾丸を叩き落としてしまった。
「いっちょあがり、ぢゃな。さて、肝心の敵さんは」
「オレならここにいるぜ? あんたの足元だ。見えなかったか? その千里眼でもよ」
「な……」
霊体となったカイルは、ビシャスが弾丸の対処をしている間に床の下へ潜り込み忍び寄っていた。そして、ここぞという隙を突き……致命の一撃を見舞う。
「食らいな! 戦技、フルバーストスリンガー!」
狙うは、ビシャスの下顎の付け根……に生えた逆鱗。両手に持った拳銃が唸り、片方六発ずつの計十二発の弾丸が、放たれた。




