255話―空舞うイタチと覇骸の閃撃
『よぉし、やるぞ弟ども! かかれ!』
『マカセロー!』
『いえーい!』
「さあ、おゆきなさい! 存分に暴れなさいな!」
アンジェリカの指示の元、カマイタチ三兄弟は突撃していく。対するグルーラは、部屋の奥へ滑走しつつ両腕を氷のブレードで覆う。
「へっ、なら見せてもらおうじゃねえの。てめえら三匹……禍魔囲太刀とやらの実力をよぉ! 戦技、アイスナイフ・ショット!」
『来やがるぜ、カマ二郎! カマ三郎! 気合い入れて避けろぉ! ま、わっちは正面突破するけどな!』
『あいあいさー! 奥義、イタチ飛び六法! イヨーッ!』
『いや、そんな技知らないよ……あらよいしょっと。危ないのは落としちゃわないとねー』
カマ一郎は、飛んでくる氷の刃を全て叩き落としながら真っ直ぐ進んでいく。一方、カマ二郎は奇声を発しつつ不可解な動きで攻撃を避けながら進む。
そんな兄たちの後ろを、カマ三郎がちゃっかり着いていく。アンジェリカに被害が及ばぬように攻撃を防いでいることから、多少忠誠心はあるようだ。
「ほーう、やるじゃねえの。なら、こいつはどうだ? 戦技、フリージングシャーク!」
「ギシャァァァ!」
『アニさん、サブちん、上から来るぞぉ! 気を付けろぉ!』
『オイオイ、氷のサメの登場ってかぁ? へっ、おもしれぇ。おめぇら! アレやるぞ!』
『ふわぁ~い』
天井から垂れ下がるツララの一つがサメに変化し、三兄弟に襲いかかる。カマ一郎の合図で、三匹が仕掛けた。
『食らいな! イタチタックル!』
「ギギャッ!?」
まずは長男が体当たりをかまし、落下中のサメに先制攻撃を叩き込む。彼の持つ能力は、体当たりであらゆる存在を転倒、もしくは転んだのに等しい状態にすること。
『滑って転んで! お次はキリキリ舞いィィィ! !SLASH、SLASH、SLAAAAASH!!』
「ギイイィアァァァ!?」
続いて、次男がテンション爆アゲ状態で突撃する。両手を長く伸びた鎌へと変化させ、サメをめった斬りにしてしまう。
カマ二郎は、兄が転ばせた相手ならばどんなに硬度や強度、弾性があろうと関係なく斬り刻んでしまう能力を持つのだ。
「チィッ、負けてんじゃねえフリージングシャーク! てめぇもオレの使い魔なら根性見せやがれ!」
「ギギ……グアァァ!!」
「かませ犬……ムダな足掻き乙。ほーら、お薬だよー。まあ、毒薬だけどね! ほれっ』
ずんばらりんを斬り刻まれたサメだったが、頭だけになってなおカマ三郎へ食らい付く。そんなサメを冷笑しつつ、カマ三郎は口から紫色の液体を吐いた。
「ギギィィーーー!!」
「フリージングシャークーーー!!」
『ぷぷ。ザコ乙』
カマ三郎の持つ能力。それは、兄たちの手によって瀕死になった相手に的確にトドメを刺すことが出来る毒薬を生成すること。
本来、彼の能力はあらゆる傷を癒せる霊薬を生み出す……というものであったのだが、アーシアによって改造され、能力が変質したのだ。
ちなみに、仲間が対象ならば本来の霊薬を生み出し与えることが出来る。
「オーッホッホッホッ! 初陣にしては上出来ですわね! さすが、禍魔囲太刀ですわ!」
『へへへ、姐御のお褒めにあずかれるたぁ光栄だぜ!』
『うれぴー! うれぴー! ひゃっほー!』
『……えへ』
アンジェリカに誉められ、カマ一郎たちは嬉しそうに飛び回っている。……戦闘中だということをすっかり忘れているあたり、飼い主に似て間抜けなようだ。
「バカどもめ、隙アリだ! 一気にケリを着けさせてもらう! 奥義……獄卒ヒュドラの氷牙!」
「!? な、なんですの!? 姿が、変わって……」
『おいおい、こいつぁちっと……やべぇんじゃねえのかこりゃ』
グルーラは力を解放し、全身を氷で覆っていく。氷の塊は、九つの首を持つ巨大な竜へと姿を変える。監獄を守護する、九頭竜のお出ましだ。
「ハッハッハッハァ……どうだ、イタチども。こっちの頭は九つ。てめぇらの三倍だ。数じゃかないっこねぇぜ。降参するなら今のうちだぞ」
『はーぁ? 舐めんなよ、こちとら数で遅れを取るくらいでビビるような腰抜けじゃねーんだ。そのムダに多い首、落としてやんよ!』
「やれるもんならやってみな!」
グルーラは九つの首を伸ばし、カマイタチ三兄弟へ襲いかかる。一匹につき、首三つのスリーマンセルを組んでの襲撃。
確実に獲物を仕留めるための策だ。相手の動きを見たアンジェリカは後ろへ宙返りしつつ、三兄弟へ指示を出す。
「禍魔囲太刀さんたち! 時間を稼ぎなさい! わたくしが合図を出すまで、生き残ってくださいまし!」
『だとよお前ら! 姐御の命令、完遂しやがれ!』
『あいあいさー!』
『はぁ~い』
三兄弟は自由自在に空を飛び回り、アンジェリカの仕込みが完了するまでの時間稼ぎを行う。もちろん、ただ逃げるだけではない。
『これでも食らいなァ! イタチタックル!』
「ハン、竜のパワー舐めんじゃねえ! 返り討……ちィッ!?」
『ハッハァ、ツルっといったな! デカブツ!』
いくらカマ一郎でも、巨大な竜の頭には力で勝つことは無理だ。だが、自身の能力を用いて無防備な状態することは可能だ。
『今だ! カマ二郎、その刃ァこっち投げろ!』
『マカセロー! ぬぅ……おごっ!』
「おっと、させねえよ! まだ動ける頭は八つあるんだからな! 戦技、オールヘッド・ファング!」
弟から武器を貰い、追撃しようとするカマ一郎だったが、残る頭に邪魔されてしまう。八つの頭が、それぞれの獲物へと襲いかかる。
カマ一郎とカマ三郎はなんとか逃げ切れたが、事前に攻撃を受けたカマ二郎は逃げ切れなかった。ヒュドラの頭の一つに、食われてしまった。
「ハッハッハッ! まずは一匹……むぐ!?」
『ぬうぅぅぅん!! ワイはまだ死なねぇぇぇぇ!!! うおりゃああああ!!』
「よくやりましたわ、カマ二郎! もう少しでチャージが完了します、それまで耐えてくださいませ!」
食い殺されたかに思われたカマ二郎だったが、ひたすらに鎌を振り回して内側からヒュドラの頭を斬り刻み脱出することに成功した。
これで残る頭は八つになり、僅かだが三兄弟側に余裕が生まれる。グルーラが予想外の脱出方法に驚いている隙を突き、今度はカマ三郎が仕掛けた。
『よーし、次はオイラの番だぞぉ。んーと、どうしよっかな……』
「ハッ、いつまでも呆けてる場合じゃねえ! かかれぇぇぇ!!」
『決めたー。めっっっっっちゃ熱いお湯! 食らえー!』
「あっづぁぁぁぁ!!!??」
襲い来る三つの頭に対し、カマ三郎は煮えたぎった熱湯を大量に吐き出して浴びせた。温度がとてつもなく高かったようで、氷の頭部が溶けてしまう。
自慢の牙もほぼ溶けてしまい、攻撃どころの騒ぎではない。数のハンデを覆し、三兄弟はグルーラを完全に翻弄していた。
『いいぞカマ三郎! おめぇもやるときゃやるじゃねえか! 兄ちゃん見直したぜ!』
『えへへー。どうだー、参ったかー』
「参らねえなぁ……この程度じゃよぉ! 魔力をつぎ込みゃ、頭は再生するんだからな! 今度はこっちの番だ! 戦技、ダイヤモンドダスト・ストーム!」
『うおっ!? あ、姐御! こいつぁやべえ、氷の粒が貼り付いて動けねえや!』
が、グルーラもただではやられない。即座に頭を再生させ、煌めく吹雪を発射する。三兄弟の身体に氷の粒がくっつき、動きが鈍ってしまう。
「ハハハハハ!! これでもうちょこまか飛べねえだろう! さあ、トドメを刺してやるぜ!」
「そうはいきませんわよ、グルーラ! わたくしのこと、完全に忘れていましたわね? 残念ですが、チェックメイトですわ!」
「何ィ……!? ぐっ、何だこの膨大な魔力は!?」
カマ一郎たちにトドメを刺すべく、アギトを開くグルーラ。そんな彼に向かって、アンジェリカが叫ぶ。
カマイタチ三兄弟に囮になってもらっている間に行っていた魔力チャージが、ついに完了したのだ。
「本物のヒュドラは、首を斬り落とした後断面を焼けば再生しません。が……あなたの場合は、氷の中にいる本体を叩けばいいだけのこと」
「それをやらせると思うか! 戦技、オールヘッド・ファング!」
「言ったでしょう? チェックメイトだと? 見せてあげますわ、わたくしが会得した新たな切り札を。奥義……覇骸閃!」
一斉に首を伸ばし、アンジェリカを直接攻撃しようるグルーラ。だが、もう遅かった。もっと早く、潰しておくべきだったのだ。
アンジェリカは両腕を真っ直ぐ伸ばし、凝縮した魔力を手のひらの間に移動させる。そして、魔力を解き放ち太いビームを放つ。
「ハアアアアアアア!」
「ぐ、があっ……! こんな、技……耐えられる、わけが……ねぇ……」
魔力のビームに貫かれ、グルーラはヒュドラの体内から叩き出される。核を失った氷の竜はゆっくりと崩れ落ち、粉々に砕け散った。
「わたくしと禍魔囲太刀三兄弟……全員での勝利ですわ」
『いえーい!』
勝ち名乗りをあげるアンジェリカの元に戻り、カマイタチ三兄弟はのたのた周囲を飛び回り喜びをあらわにする。
――雷霆の四肢、グルーラVSアンジェリカ&カマイタチ三兄弟。華麗なる連携により、グルーラ……沈黙。




