251話―クロガネの守り人
空中図書館での戦いは決着したが、アゼルとジゼラの戦いはまだ続いていた。激しい攻撃を加え続けてはいるが、巨人はビクともしない。
山の如く不動に座したまま、ジゼラは鍵型の剣を振るいアゼルの攻撃をいなしている。ヴァールの側近と宝物庫の番人を務めるだけあり、実力は高いようだ。
「くっ……参りましたね、ここまで攻め崩せないとは思いませんでしたよ」
「攻撃が効く効かぬはともかく、汝のタフネスは称賛に値する。これだけ動き回っていてなお、息があがっておらぬからな」
戦いが始まってから数十分、アゼルはひっきりなしに動き回りジゼラに攻撃を叩き込んでいた。普通の人間ならば、とっくに体力を使い果たしている。
だが、アゼルは違う。これまでの戦闘経験を活かしてペース配分をキッチリしているため、そう簡単には息切れなどしない。もっとも、攻めあぐねているのに変わりはないが。
(ジゼラさんを倒すために克服しないといけない問題点は二つ。一つは、パワーとスピードを兼ね備えた攻撃を的確に捌くこと。もう一つは、あの鎧をどうにかして破壊すること、ですね)
連続で振り下ろされる二振りの剣を避けながら、アゼルは思案する。ジゼラの纏う鎧は非常に硬く、ヘイルブリンガーをもってしても容易く砕けない。
(今のぼくには覇骸装がないから、一撃でも攻撃をもらえばその時点で終わり。欲張って攻めれば、すぐに叩き潰される……なら!)
「どうした、逃げているばかりでは我には傷をつけられぬぞ? それとも、何か策でもあるのかな?」
「ありますよ、見せてあげます! ソウルルーン、ベルセルクモード!」
「む、これは! なんというスピード……!」
ルーンマジックを発動し、アゼルは自身の身体能力を強化する。すると、これまで避けるのに精一杯だったジゼラの攻撃が、楽に回避出来るようになった。
(思った通りだ! 覇骸装がない分、確かに防御力は落ちる。けど、重量が軽い分スピードはいつもより上がってる! 後は……一点集中狙いだ!)
アゼルの導き出した策。それは、相手が反応しきれないほどのスピードで集中攻撃を一点に叩き込み、鎧を砕くというものだ。
覇骸装がなく、普段よりも軽量化されていることが追い風となり、残像が出るほどの速度を獲得出来た。後は、ジゼラの目が慣れる前に鎧を砕けばいい。
「は、早い……! 竜人族は他の種族よりも動体視力に優れていますが……それでも、全く目が追い付かないなんて」
「考えたな。だが! 我を甘く見るでないぞ! すぐにでもこの動きに適応してみせようではないか!」
「させません! その前に! 鎧を砕かせてもらいます! 戦技、アックスドライブ!」
恐るべきことに、ジゼラは早くもアゼルのスピードに適応し始めていた。相手が次に移動するだろう場所を予測し、そこへ剣を叩き込む。
対するアゼルは、フェイントを織り混ぜてジゼラを翻弄しながら確実に攻撃を命中させ、鎧を損耗させていく。その様子を、物陰からフラフィが覗く。
「まさか、ジゼラ様を相手にあそこまで戦えるとは。これまで、ジゼラ様を立たせることが出来た者はほとんどいませんでしたが……あの人なら、あるいは」
「ぬぅぅん!! そこだ!」
「残念、ぼくなら……ここです!」
「懐に……まずい!」
「もう遅いです! 戦技、アックスドライブ!」
ジゼラの攻撃をかわし、アゼルは懐に潜り込む。反撃が来る前にヘイルブリンガーをブチ込み……鎧の胸元に、見事亀裂を走らせた。
攻撃の反動を利用して離脱し、アゼルは距離を取って体勢を立て直す。一方のジゼラは、胸元に出来た亀裂を見下ろし――兜の奥で、笑みを浮かべる。
「……フッ。見事だ。なるほど、では我も本気を出させてもらうとしよう。宝物を守る番人としてな」
「! た、立った……あのジゼラ様が、本当に……」
あぐらをかいていたジゼラは、アゼルの力量を認め立ち上がる。三メートルを越える巨体に見下ろされ、思わずアゼルは冷や汗を流す。
「お、大きい……。やっぱり、立ち上がられると威圧感が……」
「さて。ここからは、我も本気だ。錠魔法……施錠!」
「なにを……!? え、これは!?」
ジゼラが魔法を唱えると、鎧の表面に描かれた七つの鍵穴の模様のうち、一つが光り始める。すると、ヘイルブリンガーに異変が起こった。
鍵穴の模様が刻み込まれ、ルーンマジックが封じられてしまったのだ。慌てふためくアゼルを見ながら、ジゼラはゆっくりと歩き出す。
「驚いたかな? その得物を見れば、何故我が『刻錠』の異名を持つか理解出来よう」
「ルーンマジックが……!」
「案ずるな、封じたのは崎ほど汝が用いた一つのみよ。一つずつ、順番に。汝の力を封じ、追い詰めてやろう。竜の悪知恵、その恐ろしさを知るがよい! 戦技、ツインブレイド・スマッシュ!」
「くっ、このっ!」
ベルセルクモードは封印されてしまったが、幸いまだ強化効果は続いている。同時に振り下ろされた二振りの剣をスライディングで避け、そのまま股下をくぐる。
「戦技、アックスドライブ!」
「ぬうっ……いい技だ。相当な鍛練を積んでいるのだろう。だが! 我とてそれは同じだ! 戦技、スティールスラッシャー!」
「重っ……うわっ!」
下手にルーンマジックを使えば、また封印されてしまう。そう考えたアゼルは、あえてイジスガーディアンを使わずヘイルブリンガーで攻撃を受け止める。
が、いくら身体能力を強化しているとはいっても元の体格に圧倒的な差がある。重量を活かした攻撃を耐えきれず、吹き飛ばされてしまった。
「うう、いてて……」
「まだ終わらぬぞ! さあ、先ほどまでの威勢のよさをもう一度見せてみよ! 戦技、スティールクラッシュ!」
「やられてたまるか! 戦技、ブリザードブレイド!」
「甘い。まだ次があるわ!」
勢いよく振り下ろされた剣を迎え撃ち、アゼルは渾身の力を込めて弾き飛ばす。が、そこに二の剣が横から襲いかかる。
「まずい……仕方ない! バインドルーン、キャプチャーハンド!」
「む……? 面白い技だ。上に飛んで逃げるとは」
迎撃は不可能と悟ったアゼルは、封印されるのを承知でキャプチャーハンドを使う。斧の先端から現れた手で床を叩き、反動でふわりと浮き上がり攻撃を避ける。
「逃げるだけじゃありませんよ。戦技、ヨーヨーパンチ!」
「ムダだ。錠魔法、施錠」
「ああっ、また!」
そのまま反撃を仕掛けるが、無情にもキャプチャーハンドまでもが封印されてしまった。このまま長期戦になれば、確実に負ける。
かといって、短期決戦で潰しきれるほど相手はヤワではない。上手く鎧の亀裂に攻撃を当てられたとしても、一撃で仕留められる保証はないのだ。
「……ああ、そういえば。フラフィさんが言っていましたね。相手は長期戦が得意だって。なるほど、確かにこれは……」
「ブツブツ何を呟いている? さあ、次の手を見せるがよい。汝の全てを、見せてみよ! クリスタル・ブレス!」
ジゼラが大きく息を吸い込むと、兜の下半分が変形し口があらわになる。アゼルが横に跳んだ直後、銀色の金属片が混ざったブレスが放たれた。
ブレスが着弾した場所で金属片が弾け、鋭くとがった結晶が生成される。もし直撃すれば、ただでは済まないだろう。
「参りましたね、これは。こんなスリリングな戦い……久しぶり過ぎて、燃えてきちゃいますよ」
「いい表情だ。そう簡単に降参されては味気ないからな。汝がどうやって我を攻略するか、戦いの中で見せてもらうぞ!」
「ええ、やってやりますよ。どれだけ手札を封印されても、絶対へこたれませんからね!」
ジゼラの挑発に、アゼルは笑顔で応えた。




