248話―風と鋼
「雷霆の四肢……なるほど、ワタシたちを足止めしに来たというわけか」
「ぴんぽ~ん。だ~いせいか~い! というわけでちゃっちゃかいくよ~! 戦技、スローイングナイフ!」
リンベルは両手に持った計十二本のナイフを一斉に投てきする。再びカイルが迎撃しようとするも、それより早くレミアノールが動く。
十二本の矢を六本ずつ、計二回。流れるような連続射撃で、飛来してきたナイフを全て射ち落としてみせた。それを見たリンベルは、ニッと笑う。
「わぉ! なかなかやるねぇ! 千年ぶりに会ったけど、全然腕は衰えてないねぇ~。レミアノールちゃん?」
「当然だ。この程度の芸当が出来ねば、暗滅の騎士は勤まらんからな」
天空図書回廊のド真ん中に位置取り、ゆらゆら滞空するリンベルを見ながらレミアノールは弓を構えた。チラッと視線をズラし、仲間を見る。
「ジーク。ここは私に任せて、皆を連れて先に」
「分かった。シャスティさんとカイルさんは僕の腕に掴まって。フェムはしっぽに」
「わりぃな、頼むぜ。流石にあの足場渡るの、アタシらにゃ無理だわ」
ジークベルトはシャスティたちを掴み、回廊の向こう側にある部屋へ行くため飛翔する。が、当然黙って見逃すほどリンベルは甘くない。
胸に縫い付けたマジックポーチから八本のナイフを取り出し、再度投げつけようとする。
「行かせないよ~! 全員ここで足止めするから! 特にジーク、君はね!」
「させん。戦技、クラッチアロー!」
「ほよ? おあ~!?」
「行け、ジーク! 安心しろ、後で必ず追い付く!」
「気を付けてね、レミー!」
クロー型のフックが先端に、ワイヤーロープが尻に付いた矢を射ってリンベルの服に食い込ませ、引っ張ることで攻撃を阻止するレミアノール。
無事にジークベルトたちを逃がし、先に進ませることに成功した。一方リンベルは、手足をバタバタさせて怒っていた。
「も~、なにしてくれちゃってるのさ! 許さないからね~! 戦技、アッパードナイフ!」
「くっ、まずい!」
リンベルは風を操り、突風の刃を作り出す。足元と背後に現れた刃から逃れるべく、レミアノールは前方に跳ぶ。
天空の図書回廊に浮かぶ本型の足場に着地した次の瞬間、扉が閉ざされ退路を絶たれた。これでもう、レミアノールは後戻り出来ない。
「にっひっひっ! さ~あ、一対一の空中バトルだよ~。流石の暗滅の騎士も、こっから海に落ちたら死ぬよね~? 落としちゃうぞ~!」
「……やってみるがいい。お前が千年前と比べて、どれだけ強くなったか確かめてやろう」
「おっ、言うねぇ~。じゃ、あたしも本気出しちゃ~う!」
遥かなる空の上に浮かぶ図書館で、最初の戦いが始まった。
◇―――――――――――――――――――――◇
「本当に誰もいませんね。ここまであっさり来られるなんて、逆にびっくりしましたよ」
「宝物庫までのショートカットが出来る隠し通路がありますからね。それを利用すれば、万一警備の兵がいても見つかりっこないですから」
ジークベルトやアーシアたちが行動を起こしていた頃、アゼルとフラフィはお目当ての場所……『古戦の宝物庫』のすぐ近くまで到達していた。
金結晶の大聖殿に集まっていた竜人たちが異変を察知し、焦熱の監獄搭や絢爛なる天竜街へ殺到したのとすれ違いになったのも運が良かったと言える。
「ここまでは順調です。ですが……ここからが最大の正念場ですよ、アゼルさん」
「……はい。ここからでも見えますよ、正門の前に陣取ってるあの人が」
ワープ装置のある部屋を出て、物陰に隠れつつアゼルたちは様子を窺う。宝物庫唯一の入り口である正門の前で、巨大な竜人が仁王立ちしていた。
錠前を模した漆黒の鎧兜で全身を包んだ竜人は、両手に鍵を模した大きな剣を持ち宝を守っている。兜の覗き穴からは、鋭い眼光が覗く。
遠目から見ても、身長が三メートルは余裕で越えているであろう偉丈夫だった。ビンビンに圧を感じ、冷や汗が流れる。
「オーラだけで伝わってきますね。あの人は……とんでもなく強いって」
「ええ。『刻錠』のジゼラ……雷霆の四肢の中でも、屈指の実力をも」
「そこな者たち……いつまでコソコソ隠れているつもりだ? 宝物庫に用があるのだろう? さあ、前へ出るがよい……」
「いっ!?」
これから対策を話し合おう、というところで肝心のジゼラ本人に居場所がバレてしまった。いつまでも隠れているわけにもいかず、二人は腹をくくる。
「ど、どうもこんにちは。ぼくは」
「知っておる。ヴァール様が連れてきた客人であろう? いや、明日のことを考えれば客人よりは生け贄と言った方が正しいか」
「いけ……!?」
「そうだ。新月の夜は聖なる闇の夜。神の力が最も弱まり、闇の眷属の力が最も強まる時間。汝の身体を引き裂き、炎片を取り出すには都合が良い日だ」
「引き裂……!?」
ジゼラの言葉に、アゼルはビックリし過ぎて目が白黒してしまう。一体どうやって炎片を奪うつもりなのか気にはなっていたが、ここまでアグレッシブなやり方だとは思っていなかったのだ。
「さて、そこな竜人の乙女よ。汝のしていることは大いなる罪ぞ。ヴァール様の悲願を知る身でありながら、脱走の幇助をするとは」
「……申し訳ありません、ジゼラ様。ですが、私には……ヴァール様がなさろうとしていることが正しいとは、どうしても思えないのです」
「ほう。ま……我とて、今のヴァール様に全幅の信頼を置いているわけではない。いや、我以外の四肢たちもそうだ。あのお方のお考えには、異を唱えたい部分もある」
「そう……なんですか?」
フラフィの裏切りを諫めつつも、ジゼラはもの悲しそうな声でそう語る。アゼルが問うと、しばしの沈黙の後に話し始めた。
「そうだ。ビシャスの千里眼を通して、我らはここ最近の王たちの動向を見続けてきた。ジェリド王もエルダ殿も、エイルリーク王女も。皆、貴公に炎片を託した」
「み、見ていたんですか……」
「うむ。我やビシャスだけでなく、ヴァール様もな。……あの方は、常に狂気に支配されているわけではない。時折、正気に戻られることがある。正気のヴァール様は……喜んでおられた。炎片を託す希望が現れたことを」
「……!」
ジゼラはあぐらをかき、アゼルを見つめる。彼の言葉に、アゼルは目を見開いた。気高き王としてのヴァールは、ジェリドたちのように待ち望んでいるのだ。
自分が守り抜いてきた炎片を受け継いでくれる、次代の守護者が現れてくれることを。狂気の中に埋もれてしまった本心を知り、涙が流れる。
「そっか……ヴァールさんも、本当は」
「ああ、そうだ。本当は理解しているし、望んでいるのだよ。汝が、全ての炎片を受け継ぎ……ギャリオン王の後継者になることを。ま、そのためには……」
そこまで言ったところで、ジゼラは座ったまま剣を取る。そして――勢いよく、アゼル目掛けて振り下ろした。
「うわっ!?」
「千里眼を通してではなく、直接この目で。汝の力を試さねばならぬ。真に後継者として相応しいのかをなァ……」
「そうなりますよね……。分かりました、なら見せてあげますよ。ぼくの力を!」
「頼もしいものだ。だが、弱い竜ほどよく吠える……とも言う。まずは我を立たせてみせよ。座したままの我に敗するのは、末代までの恥ぞ?」
「やってみせますよ! 出でよ、ヘイルブリンガー! さあ、勝負ですジゼラさん! 危ないので、フラフィさんは後ろへ!」
「は、はい!」
アゼルの言葉に従い、フラフィはワープ装置がある建物の方へ避難する。兜から覗く目をアゼルに向け、ジゼラは笑う。
「さあ、王たちを認めさせた汝の力……この『刻錠』のジゼラにも見せてみるがよい」
「ええ。全力全開でいきますよ!」
レミアノールVSリンベル、そしてアゼルVSジゼラ。二つの戦いが、幕を開けた。




