246話―それぞれの計画
「アタシが行くぜ。あんたら、見たところ誰も治癒の魔法使えそうにないからな。流石に、かすり傷一つ負わずに完遂出来るとは思ってねえだろ?」
真っ先に名乗りをあげたのは、シャスティだった。長年聖女として働いてきた彼女の勘が、告げていたのだ。今回の潜入任務、自分の力が必要だと。
「確かに、な。ワタシもジークもレミーも、治癒の魔法は苦手でね。聖女、か。悪くない……よし、四人目はキミだ」
「っし。へへ、アピールポイントがあるとこういう時に有利だな」
見事四人目の枠をゲットしたシャスティは、誇らしげにガッツポーズを取る。その後、最後の一人をどうするか話し合いが行われたが……。
「フェムゴーチェ殿! 俺はどうですかな!?」
「あたしはー!?」
「却下だ。お前たちからはガルと同じ匂いがする。連れて行かんぞ」
「……はい」
即、ソルディオとメレェーナが脱落した。まあ、二人とも隠密行動に向いた性格ではないので仕方ないことであるが。
結局、リリンとカイルの二人が残った。フェムゴーチェは二人を交互に見ながら、自身の眼に内臓された解析機能を使用する。
(ふむ。リリン……奴は知っている。闇縛りの姫エルダの弟子……かなりの実力者だ。連れて行けば、まず間違いなく役に立つだろう。だが)
そこまで考えたところで、今度はカイルを見る。彼女の興味は、どちらかと言うとカイルの方に強く向けられていた。
(あの男も捨てがたい。銃……この大地では製造どころか発想すら存在しない、未知の武器を用いる、か。連れて行けば、面白い活躍をしてくれそうだが……どうしたものかな)
しばらく考えていると、リリンが挙手する。シャスティたちの時のように、自身のアピールをすると思われた。が、違った。
彼女が口にしたのは……。
「フェムゴーチェ。カイルを連れて行ってやってはくれないか? 今回の任務は、奴の方が適任だ」
「は? オレ?」
「ほう? よいのか、キミだってアゼルを助けたいのは同じなのだろう?」
「そうだ。だが、カイルには決定的な強みがある。こいつは……元、闇霊だ」
リリンの言葉に、カイルの眉がピクッと動く。彼女が自分に何を期待しているのか、悟ったらしい。ポリポリ頬を掻きながら、ため息をつく。
「……なあ、リリン。お前の言いたいことはおおむね分かる。霊体化して、アゼルを助けてこいってんだろ? でも、オレはあいつに誓ったんだぜ。もう二度と、闇霊の力は使わねえって」
「知っている。アゼルから聞いたからな。だがな、カイル。今はそんなことを言っている場合ではない。あらゆる手段を用いて、アゼルを助けねばならんのだ」
「確かにそうだが……いや、分かったよ。お前がそう言うなら、今回だけ……オレは誓いを破る」
アゼルを救うため、カイルは決める。もう二度と使うまいも思っていた禁忌の力を、再び振るうことを。
霊体派のネクロマンサーたちの中でも、最高幹部に匹敵すると謳われた闇の叡知の結晶を。たった一人の家族を救うために。
「話はついたな? ではカイル、我らと共に来い」
「ああ、そうさせてもらうよ。……で、いつ出る?」
「今すぐに行くよ。ヴァール様の居城、フライハイトは大地のあちこちを漂ってる。見つけるまでが大変だからね」
「分かった。リリン、メレェーナ、ソルディオ。留守番は任せたぜ」
ジークベルトの言葉に従い、カイルたちは席を立つ。新たに新調したグレーのコートを羽織り、カイルは会議室の外に向かう。
「……見せてやるよ。『魔弾の射手』カイルの力を」
アゼル救出に向け、やる気をみなぎらせながら。
◇―――――――――――――――――――――◇
「なるほど、つまりその儀式は六日後にある、と」
「はい。儀式当日は、フライハイト全域に厳戒態勢が敷かれます。そうなれば、もう逆転は不可能……つまり、私たちが動くべきは儀式の前日となりますね」
「前日、ですか?」
「はい。その日はごく一部を除いた全ての竜人と竜たちが、逆鱗の炎片が安置されている『金結晶の大聖殿』に集まりますので。最も警備が薄くなるのです」
ジークベルトたちが動き始めた頃、アゼルとフラフィも計画を練っていた。目的は二つ。ヴァールを蝕む狂気を祓い、正気に戻すこと。
そして、狂気より解放された彼女から改めて逆鱗の炎片を託してもらうこと。この二つだ。そのためには、入念な準備が要る。
「なら、その日の最初にやることは一つですね。覇骸装ガルガゾルデを、取り戻します」
「ああ、話には聞いたことがあります。聖戦の四王の一人、ジェリド公が用いた戦装束だと。……そういえば、確かそんな名前の服が宝物庫に運ばれたという話を小耳に挟みましたね」
「本当ですか!? 良かった……ちなみに、その宝物庫はどこに?」
「第二の浮島、ラマデンタにあります。重要な拠点なので、ヴァール様の側近……『雷霆の四肢』が守っていますがね」
「雷霆の四肢?」
カーペットの上に広げたフライハイト全域の地図の一角を指差し、フラフィはそう言う。アゼルが首を傾げると、説明が始まる。
「ヴァール様にお仕えする、四人の竜人たちの総称です。全員が、かの炎の聖戦の時代から生きている最古参。フライハイトの重要拠点を守る番人でもあります」
「な、なるほど……それは手強そうですね」
「はい。特に、古戦の宝物庫を守る番人……『刻錠』のジゼラ様は長期戦のプロフェッショナル。簡単には倒せないでしょうね……」
「なら、綿密な計画を立てないといけませんね。幸い、まだ時間はたっぷりありますから。フラフィさん、他の三人についても教えてくれますか?」
「もちろん。他の方々は……」
アゼルとフラフィ、アンジェリカとアーシア、そしてカイルたち。それぞれの目的を果たすための計画が今、動き始めた。
◇―――――――――――――――――――――◇
「……ビシャス、ビシャスよ。こコに参れ」
「はっ、いかがなされましたかな、ヴァール様」
「匂ウ。忘れモしなイ……忌まワしきラ・グーの匂いがスる。間違いなイ。奴のシモベが、フライハイトに紛れ込んデいる」
フライハイトの浮島の一つ、ベイラヘード。そこに築かれた居城、『雷帝の寝床』の最上階の部屋にヴァールがいた。
主の呼び出しに応じ現れたビシャスは、彼女の言葉に目を見開く。即座に部屋を結界で包み、外に会話が漏れないようにする。
「これはやられましたな。いつ頃から匂いを?」
「気付いタのハつい先日ダ。恐ラく、我が配下ノ竜人の誰かニ化けていル。一目で見分けガ出来ぬほドの精巧さデな」
「ふむ……となれば、わしがそうである、という可能性もあるわけですじゃな」
「それハなイ。お前ヲ含めた『雷霆の四肢』はソう簡単に化けラれはせヌ。妾がすグに気付くかラな」
狂気に犯されていながらも、ヴァールは冷静であった。侵入者が自分の側近に化けてはいない、という確信を持っていた。
何故なら……。
「! カッカッカッ、お戯れが過ぎますぞヴァール様。この程度の攻撃、このビシャスが避けられぬはずありますまい」
「そうダ。故に、お前タちは本物ナのだ」
他者に化けられるとはいえ、それは見た目だけの話である。どんなに見た目をそっくりに偽っても、能力までは真似出来ない。
故に、並外れた身体能力や固有能力を持つ側近四人は疑惑の対象から外れる。ヴァールの攻撃を避けられないほど、ビシャスたちは弱くないのだ。
「匂いハ全てを教えテくれる。正体までハ掴めぬガ、どの程度の実力かハ把握しタ。放ってオいてモ害はなイ」
「カッカッカッ、かしこまりました。一応、それとなく目は光らせておきますじゃ。大聖殿に忍び込まれては困りますからの」
「それダけは気を付けヨ。あと六日……アと六日で、我が悲願ハ成る。その邪魔ダけは……何者にも、サせはしない」
そう口にした後、ヴァールはしっぽを縦に二回振った。退出しろ、の合図だ。ビシャスは一礼した後、ヴァールの部屋を去る。
一人残ったヴァールは、窓から外の景色を眺める。どこまでも広がる青空と、その下に広がる雲海を見ていると……かつての記憶がよみがえってきた。
「……懐かしいものだ。遥か昔、ギャリオンを乗せて空を飛んだな。雲海を眼下に見てはしゃぐ姿は、可愛らしかった」
幸せだった過去を想う僅かな間、狂気が消えた。だが……すぐに、竜の瞳が濁る。様々な感情を巡らせながら、ヴァールは小さな声で呟いた。
「必ずヤ果たス。我が悲願をナ」




